5月10日、友人が経営する高田馬場のクリニックで、「異国に生きる 日本の中のビルマ人」という映画の上映会がありました。
1991年に軍事政権の弾圧を逃れて日本に逃れてきたビルマ人青年チョウさんの、20年以上にわたる日本での生活を描いたドキュメンタリー映画です。この映画は2013年キネマ旬報社文化映画第3位に選ばれており、文化庁映画賞 文化記録映画優秀賞も受賞しています。



チョウさんは、民主活動家であることから本国を出国した難民ですが、日本ではなかなか難民として認定されませんでした。映画の中で、入管担当者から「お金目当てで日本にやってきたのだろう」と言われ傷ついたとも語っています。弁護士を中心とした団体の支援を受けて、チョウさんはやっと難民として認定され日本で堂々と暮らすことができるようになります。そして妻を日本に呼び寄せ、いっしょに生活をすることができるようになります。
詳しくは上記のウェブサイトをご覧ください。

映画の上映後、主人公のチョウさんと土井敏邦監督の対談がありました。
この対談が非常によかったです。

日本での生活は20年以上になりますが、チョウさんは一貫してビルマの民主化のために戦っています。なぜ続けてこられたのかを問われて、チョウさんは「自分だけのことを考えたら、ビジネスで成功したり、よい生活をしたりすることもできる。しかし、祖国では多くの人がずっと弾圧されて厳しい生活を送っている。それを考えると、自分だけ幸せになることはできない。」と答えていました。

私が「現政権はスーチーさんを解放するなど、少しずつ民主化を進めているように見えるが、チョウさんは近い将来祖国に帰るつもりか」と聞いたところ、「表面的にはよくなっているようにみえるが、まだ本当に民主的な政府とは言えない。それをじっくり見極めた上で、ビルマに帰りたい。世界中から難民が帰ったら、それは貴重な人的資源であり、新しい国作りに貢献できる」と語っていました。


(主役のチョウさんと記念撮影)

一方、土井監督は「この映画は、日本に住むビルマ難民の苦悩を描いただけではない。彼らを通して、日本人の生き方を考えるために作った」と強調していました。
「日本の若者は、半径10メートルしか興味がない。厳しい環境に対して、日本の若者はどう上手く対処するかを考えるが、本来は環境をどう変えていくかが大切。」と語っていました。それは、ビルマ難民の若者が、祖国の人々が自由を取り戻すために、遠い日本の地で困難状況の中でも一途に戦っている姿と比べてのことでしょう。

このことは、もちろん若者だけの問題ではありません。自分の周囲の狭い範囲のことにしか関心を持たない、あるいは困難な状況に直面した時に一時しのぎの対応策で済ませて根本的解決を回避してしまう。個人でも、組織でも、あるいは国家もその傾向が強まっているのではないかと思います。
日本の中にも格差はあって厳しい生活を送っている人はいますが、世界に目を向ければ貧困にあえぐ人が世界人口の5人に一人いるという現実があります。また、経常収支が赤字になることを理由に、何万年も厳重に管理しないと環境に深刻な影響を与える放射性廃棄物を出し続ける原発を再稼働あるいは新設しようとすることも、同様の一時しのぎと言えるでしょう。

一見便利な私たちの生活の裏で、世界とつながり、未来とつながる様々な出来事が起こっていることを、私たちは常にアンテナを張って注意深く見続け、その根本原因に切り込んで行動していくことが必要です。

映画と対談を通じて、そんな思いを新たにしました。