今年は流行語が大豊作のようで4つも大賞が出ました。私も流行語大賞を3つに絞り込んでどれかになるだろうと予想していたら、3つとも受賞しちょっと拍子抜けでした。

 世の中の流行とは別に、日々の国際協力の仕事の中で勝手に流行語大賞を考えてみました。NGO業界の言葉使いの問題点としてカタカナ言葉が多いことが指摘されていますが、今回もカタカナ語であることをお許しください。

 第1位は、インクルーシブ(inclusive)です。日本語に訳すと「包摂的」または「包括的」という意味で、ポストMDGsの議論の中でinclusive growth(包摂的成長)として使われています。今年6月に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V6)では、JANICと「動く→動かす」などで「包摂的成長と不平等の克服:ポスト 2015 年開発枠組みへの TICAD V の貢献」を公式サイドイベントとして開催しました。この中で、 リベリアのサーリーフ大統領やJANICの大橋理事長、外務省の香川審議官も「包摂的」という言葉を使っていました。ポストMDGsの議論では、民間セクターの役割の増大と経済成長の必要性が重要な論点となっていますが、一部の人だけが成長の恩恵に浴し、格差が拡大することが懸念されています。それに対して、途上国も先進国も、あるいは一国の中で都市の住民も農民も、すべての人が等しく恩恵を受けられるような成長が求められています。その時の様子は、6月8日のブログ「TICAD Vと包摂的成長」シンポジウムの記録をご覧ください。

(TICAD Vのサイドイベント)

なお、7月末に発表された国連事務総長の報告書「A life of dignity for allすべての人々に尊厳のある生活を」では、ポストMDGsのキーエレメントとして「leave no one behind誰も置き去りにしない」と表明しています。

 10月にもインクルーシブという言葉に接しました。JANICの正会員団体である障害分野NGO連絡会(JANNET)が設立20周年を記念して10月27日に開催したセミナー「障害インクルーシブな開発とは?」がそれです。
WHOと世界銀行の発表によると、心身に障害を抱える人が世界で少なくとも10億人、世界人口の約15%を占めているそうです。障害者は、長らく差別と偏見によって施設に入れられたり家族の中で隠されてきました。しかし近年、障害者が地域の中で様々な資源を活用して自立して生活するCBR(Community Based Rehabilitation)という考え方が一般化してきます。さらに今回のセミナーでは、障害者が貧しい人々や老人、女性など社会的弱者に対する支援者としての役割を担い、地域全体が互いに助け合う社会を作るインドでの取り組みが報告されていました。障害分野におけるインクルーシブとは、このようにすべての人が持っている能力を活かして対等に社会に関わること、と言えるようです。

(JANNETの20周年記念セミナー)

第2位は、防災・減災に関係して「レジリエンスresilience」という言葉ですが、これについては別の機会にご紹介したいと思います。

第3位というわけではありませんが、年末に近くなって、国際NGOのネットワークの間では「特定秘密」が急激に話題になりました。前回のブログでご紹介した通り、11月9日に国際協力NGO102団体が特定秘密保護法の成立に反対する声明を出し、11月13日には記者会見を行いました。政府の強行採決の結果法案は成立してしまいましたが、JANICでは関西NGO協議会、名古屋NGOセンターをはじめとした全国のネットワークNGOと共同で、この法律が実際にどのようにNGOの活動に影響を与えるのか、情報収集や研究、相互支援などを目的とした「特定秘密保護法NGOアクションネットワーク」(仮称)の設立準備を進めています。
集団的自衛権の容認や武器輸出三原則の解除、周辺国との対決的な姿勢など右寄りの政策を打ち出す現政権と社会全体の右傾化を私は心配しています。国際協力NGOは、国境を越えて草の根の人々と手を取り合って平和で公正で持続可能な社会を作っていくことを目指しています。


(12月26日に行った記者会見)

2014年が、より平和でインクルーシブな(すべての人が等しく参加し成長できる)世界になるよう、私も努力していきたいと思います。