今宵ご紹介する映画は
『午後の遺言状』
蓼科高原にある別荘へと避暑にやって来ます
ジモティの豊子(乙羽信子さん)で
豊子はひとり娘の
あけみ(瀬尾智美さん)と二人暮らし
蓉子も小さい頃から知っているあけみを
我が子のように可愛がっておりました
変わりはないかと尋ねる蓉子に豊子は
庭師の六兵衛が自殺したことを伝えます
不動産屋の広告用紙の裏に『もうこれまで』と
短い遺書を記し、その傍らには
棺桶に釘を打つため
川べりから拾った石ひとつ、、
その石に惹かれた蓉子は
同じような石を手に入れ
自分が死んだら六兵衛と同じように
この石で自らの棺桶に
釘を打つよう豊子に命じますが
鼻先で笑う豊子、、、
そう、この二人
主従関係にありながら
対等であるというね、マッチポンプ
そんな2人の前に突然現れた 牛国夫妻
夫人の登美江(朝霧鏡子さん)は
蓉子の女優仲間で
蓉子を姉のように慕っておりましたが
今は痴呆症を患っていて
蓉子に会えば、妻の意識がクリアになるのではないか
との期待を胸に、別荘へ訪ねて来たのでした
変わり果てた登美江の姿に困惑する蓉子
避暑に来たはずが落ち着く事も出来ず
それに輪をかけ、今度は拳銃を所持した
逃亡犯が現れたからさあ大変
『ババア、水をくれ、むすびを作れ!』
拳銃を突きつけながら要求する犯人に
『ババアと呼ばないで』と抵抗する蓉子
それに対し
『どっからどうみてもババアだろ』と
一歩も譲らない犯人
そんな犯人に立ち向かって行ったのは登美江でした
怯んだ犯人は追って来た警官(永島敏行さん)に捕まり
蓉子の計らいで登美江は地元警察から
表彰されることになります
それが刺激となって痴呆が緩和されればと願う
蓉子たちでしたが、そうはいかの天ぷら
警察署長(上田耕一さん)にキスする登美江に
一同大慌て、、、
登美江の症状に、改善がみられないと観念し
牛国夫妻は故郷へ帰ると言って別荘を去って行きました
後に残された蓉子と豊子
おもむろにタバコに火をつける豊子
『あけみが結婚するだ、、、
あの娘の父親は森本三郎だ』と
方言丸出しで、突如カミングアウトする豊子
森本三郎とは蓉子の死んだ亭主で
『貴女、わたしの夫と姦通したの?』と
なじる蓉子に
『私たちは真剣に愛しあってただ
貴女は芝居に夢中で、
放って置かれた彼は寂しかっただよ』
と悪びれる様子のない豊子
言いたいことは山ほどありながらも
蓉子は気持ちを切り替え
亡き夫の忘れ形見であり
可愛がっていたあけみの婚礼に
自分も参列させろと豊子にねじ込みます
イヤイヤながら許諾した豊子と蓉子の前で
古式ゆかしき『足入れの儀式』に挑むあけみ
雇い主と雇われ人の関係から
本妻と愛人の関係に変化した蓉子と豊子
包丁が、キラリと光る中
牛国夫妻、逃亡犯に続く第三の訪問者
ルポライターの矢沢(倍賞美津子さん)が颯爽と登場
しかし
矢沢が携えて来た知らせは
蓉子と豊子を打ちのめす破壊力でした、、、
『午後の遺言状』は
人が、自らの『老い』と
向かい合う姿を滑稽に
それでいて、真摯に描いています
監督・脚本は2012年に
満100歳で大往生を遂げた新藤兼人さん
日本の演劇界に
大いなる足跡を残した
杉村春子さんを主役に迎えて
その杉村さんを『ババア呼ばわり』は
新藤監督にしか出来ない荒技ですが
杉村春子先生怒らへんかと
観てるこちらはドッキドキ
先生は、籠りがちな声にもかかわらず
クリアーに聞こえる台詞回しは流石としか
言いようがありませぬ
先生の前では、あの津川雅彦さんが
坊やに見えるくらい、そんくらいの存在感です
そして新藤監督の奥様でもある乙羽信子さん
乙羽信子さんと言えば真っ先に
このヘアスタイルが思い浮かぶジェーン
タイトルは失念しましたが昔観たドラマで
乙羽さんが若い男と懇ろになるシーンが
とっても生々しくって今でも忘れられないんです
この方不思議なんですよね
良家の上品な奥様然としながら
その反面崩れた感があって
『ヤラシイ』んです ← 褒めてますから
初老にも関わらず
妻子がいた新藤監督とは『忍ぶ恋』だった乙羽さん
ただ、ウィキペディアに
『忍ぶ恋』とわざわざ記されるあたり
逆に『忍びきれない恋』であったんだなと
ジェーンは感じておりますが。
乙羽さんはこの頃
ガンを患っていらしたとかで
夫の新藤監督も、乙羽さんご自身も
今作が最後の作品となることは
覚悟してらしたようです
ちなみに杉村春子さんの
最後の映画主演作でもあります
それにしても
新藤兼人監督が持つ
飽くなき『生と性』への執着には
只々頭が下がり候
あの怪作
『ふくろう』を
お撮りになったのが
92歳だってんですから
人間は死ぬまで
枯れちゃダメだってことですな