昭和45年前後生まれの男性患者と初めて顔を合わせるとき、私はある「型」を持っている。
「今日の担当のノコノコです。よろしくお願いします。ところで、あなたはジオンですか?連邦ですか?」
と、必ず尋ねる。
どちらの答えが返ってきても、即座にこう返す。
「残念ながら、私は連邦(ジオン)ですので、あなたの食事は最後。冷や飯をお持ちします」
……もちろん、冗談である。これでトラブルが起きたことは一度もない。
このひとネタで関係の立ち上がりがぐっと楽になる。
その後の看護がうまくいく確率がぐっと上がる。
気難しい患者も、態度がやわらかくなる。
「私には」ニーズを素直に話してくれるようになる。
リハビリへ向かう際、私に「ジーク・ジオン!」と敬礼してくる患者もいた。
おかしい。確か彼は「連邦」って答えていたはずなんだけど。
こんなふうに、入院生活のほんの少しの“遊び”を提供できる私は、素晴らしいナース!と、ひとり得意になっていた。
でもある日、ちょっと複雑なことがあった。
敬礼してくれていたあの患者が退院したあと、同僚がこう教えてくれた。
「◯◯さんね、退院するとき言ってたよ。“あの、ガンダムの看護師さんに会いたかったなあ”って」
……うれしかった。
けれど、ちょっとさみしかった。
名前、覚えられてなかったんだ。
それ以来、私は名札をぐいっと患者の目の前に突き出すようにした。
「昼の担当のノコノコです。よろしくお願いします!」
名前も、覚えてもらえるように。