プレゼンテーション:
若年男性。皮膚科医院で爪白癬の治療をしている。イトラコナゾールのパルス療法を受けて、3クール目の休薬中。今回風邪が治らず鼻症状が強く、耳鼻科咽喉科医院を受診したところ、急性副鼻腔炎と診断されて辛夷清肺湯とクラリスロマイシン200mg 12時間おきを処方された。
クリニカル・クエスチョン:
イトラコナゾールパルス療法休薬中のクラリスロマイシンは安全に使用出来るか?
アセスメント:
イトラコナゾールの特性から見ていく。パルス療法のような反復投与時の動態を検討する。イトラコナゾール(ITCZ)は、肝臓で代謝されて生じるヒドロキシ体(ITCZ-OH)も活性を持つ。15日間の反復投与では12日で定常状態に達し、半減期はそれぞれ31.0時間及び22.2時間であった(1)。パルス療法は1クールが7日間なので、これに準じて考えることにする。
次に体組織への分布だが、外国人(患者・健康成人)のデータでは、イトラコナゾールの100mgの経口投与後の肺、腎、肝、皮膚等の組織内未変化体濃度は血漿中濃度よりも高かった。また、皮膚組織内未変化体濃度は、最終投与後1週間は治療濃度域であった(2)。これは半減期の5倍が約150時間≒7日間になることからも想像される。
相互作用の臨床研究の多いトリアゾラムとの併用を例に挙げる。上述のようにイトラコナゾールの半減期は約30時間と長く、肝臓への貯留性も高いので、イトラコナゾール中止後数日間が経過してもCYPを介する相互作用が起きる可能性がある。実際、イトラコナゾール服用後24時間後にトリアゾラムを服用した場合、AUCが3.8倍になった報告がある(3)。また薬物動態モデルのシュミレーションによると、パルス療法後のトリアゾラムは10日間程度服用すべきでないと結論づけられている(4)。
問題のクラリスロマイシンとの併用だが、医療アプリであるEPOCRATESで相互作用チェックをすると、クラリスロマイシンの血中濃度上昇によるQT延長の可能性を挙げて、併用を避けることを推奨している。電子教科書のDYNAMEDではイトラコナゾールの血中濃度が上昇する可能性があるとだけ記載されている。今回休薬中の併用と言うケースでは、肝臓にリザーブされたイトラコナゾールのクリアランスが低下し排泄が遷延することが推測されるが、臨床上のインパクトはQT延長やTdpの惹起にあるように思われる。
クラリスロマイシン服用中のTdpのリスク因子は女性、高齢、心臓病(症例の中にはKチャンネル阻害作用を有するシサプリド、ジソピラミドの併用例もあった。)と報告されている(5)。またアゾール系類薬のケトコナゾール400mg/dayとクラリスロマイシン1000mg/dayを5日間の併用でCmax 2.2倍、AUC 3.3倍に上昇し、QT延長が惹起された報告がある。Tdpは生じなかった(6)。
結論:
総合すると、パルス療法休薬中もクラリスロマイシンの血中濃度を上昇させる可能性がある。基質としてのクラリスロマイシンのCYP3A4代謝寄与率CRはトリアゾラムのそれより小さく、AUCとCmaxの上昇率もトリアゾラムに比して小さいだろうが、皮膚組織で治療濃度域を保持する日数にマージンを取って10日を一応のカットオフとすることにする。若年の男性、QT延長をきたす薬剤の併用がない、クラリスロマイシンが高用量でないので、おそらくTdpに至るQT延長のリスクは低いケースと推測されるが、受診時点がパルス療法終了から10日以内の場合、可能であればペニシリン等への変更がより慎重かも知れない。急性副鼻腔炎は高用量のアモキシシリンで対応可能の場合がある。また、もし受診時点がパルス療法中止から10日以上経過していてクラリスロマイシンを使用した場合、パルス療法の4回目があるのであれば、イトラコナゾールの血中濃度上昇を避ける為に、クラリスロマイシンのMBI(Mechanical based inhibition)による相互作用が消失するまで、クラリスロマイシン投与終了から数日はパルス療法の開始を遅らせるのが良いだろう。
リミテーション:パルス療法休薬中の併用データが無く、推論を重ねている。Tdpが生命に関わる重篤な副作用であるため、現時点で得られた限られた情報で安全性を重視してこのような結論とした。カットオフの設定についてはやや論拠が弱い為、更に文献情報を集めて検討する事が必要である。
参考文献
(1)東 純一:イトラコナゾールカプセルの第I相試験(ヤンセン社内資料)
(2)Heykants, J., et al.:In ; Recent Trends in the Discovery, Development and Evaluation of Antifungal Agents, R. A. Fromtling(Ed.), J. R. Prous Science Publishers, S. A., 223, 1987
(3)Neuvonen PJ(1), Varhe A, Olkkola KT.:The effect of ingestion time interval on the interaction between itraconazole and triazolam. Clin Pharmacol Ther. 1996 Sep;60(3):326-31. PMID: 8841155
(4)戸井亜由美, 沢田康文:イトラコナゾール療法終了後のトリアゾラム服用開始可能時期に関する薬物動態学的解析 日本薬学会年会要旨集2005
(5)Clarithromycin, QTc interval prolongation and torsades de pointes: the need to study case reports. Ther Adv Infect Dis. 2013 Aug;1(4):121-38. PMID: 25165548
(6)Shi J:Effect of ketoconazole on the pharmacokinetics and safety of telithromycin and clarithromycin in older subjects with renal impairment. Int J Clin Pharmacol Ther. 2005 Mar;43(3):123-33. PMID: 15792396