Presentation: 50歳男性。入眠障害で以前からトリアゾラム0.25mgを服用している。胃の不調から呼気検査を受けた所ピロリ菌感染を指摘され、今回除菌治療を受ける事となった。クラリスロマイシン800mg/dayを含むレジメンを7日分処方されている。
Clinical question: 除菌レジメンによるトリアゾラムへの影響は臨床的に有意な相互作用だろうか?
Assessment: 今回の薬剤併用の潜在的リスクを評価して行く。マクロライドによる相互作用は発現までタイムラグがある。阻害作用を発揮するのに代謝を受ける必要がないアゾール係の化合物と異なり、マクロライド系化合物は肝臓での代謝によって生じたニトロソ中間体がCYP3A4と結合する段階を経る為、タイムラグが生じるのだろうと考えられている。文献的には服用を開始してから4-10日後に相互作用を生じた報告が多い。また、用量だがクラリスロマイシンの併用でトリアゾラムのAUCが5.1倍に上昇した海外の症例では、クラリスロマイシンの投与量は1000mg/dayであった(文献 5) 。ピロリ菌除菌レジメンとトリアゾラムの併用は、これらの条件に近い状況を作り出すように思われる。次に理論面から考察して行く。PISCSを適用すると、今回の相互作用は寄与率・阻害率とも高く、トリアゾラムのAUCが理論的に5.5倍上昇する*ことが予想される(文献 2,3)。トリアゾラムのAUC増大の臨床的な意味のアセスメントだが、イトラコナゾールとの併用を検討した臨床試験ではAUCが10-30倍に増大し、被験者の殆んどが数時間に渡る健忘と翌朝までの倦怠感、錯乱等を呈した事が報告されている(文献 6)。PISCSの予測値には1/2-2倍の95%信頼区間がある為、クラリスロマイシンとの併用でもAUCが最大11倍程度増大するケースは想定され、同様の健康被害を生じさせる可能性がある。以上、文献と推論から、懸案の事例は潜在的にリスクを有する併用であり、臨床的に有意な相互作用と判断すべきと考える。従って併用は回避するのが望ましい。代替薬としては、PISCSの予測に基づきAUC上昇比1.3と変化量の少ないリルマザホン、或いは1.5のゾルピデムが妥当だろう。ゾルピデムにはクラリスロマイシンの併用でもAUCを変化させなかった臨床研究の報告がある(文献 4)。いつまで代替するかだが、今回の相互作用はヘムとの共有結合に起因する不可逆阻害の**為、クラリスロマイシン投与終了後も、酵素の入れ替わりが完了するまでの数日間は阻害効果が持続している。ピロリ菌除菌レジメン終了後もマージンを取って1週間程度はトリアゾラムの服用を避けた方が無難だろう。
Action: 次の処方提案をする。薬物相互作用を考慮し、トリアゾラムは中止。ゾルピデム10mgまたはリルマザホン2mg  1回1錠 就寝前 14日分  ピロリ除菌レジメン服用中及び服用後1週間、代替として服用する。
 
脚注
*PISCS(Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)による評価。CYP3A4のトリアゾラムの経口クリアランスへの寄与率: CR(CYP3A4)=0.93、クラリスロマイシン500-1000mg/day反復投与のCYP3A4阻害率: IR(CYP3A4)=0.88、AUC変化率: R inhibition= 1/(1-CR・IR)=5.5 (95%CI: 2.25-11.0)
**代謝に伴って基質が酵素に共有結合する不可逆的阻害薬は、一般にMBI(Mechanism Based Inhibitor)と呼ばれる。マクロライドの他、リトナビル、ベラパミル等が此に該当する。阻害効果が最大に達するまで、或いは消失するまでそれぞれ数日を要する。
 
参考文献
1)薬の相互作用としくみ 全面改訂版 日経BP
2)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践 じほう
3)General framework for the quantitative prediction of CYP3A4 mediated oral drug interaction based on the AUC increase by coadministration of standard drugs. PMID17655375
4)Short term clarithromycin administration impairs clearance and enhances pharmacodynamics effects of trazodone but not of zolpidem. PMID19242403
5)Inhibition of triazolam clearance by macrolide antimicrobial agents: in vitro correlates and dynamic consequences.  PMID9757151
6)Oral triazolam is potentially hazardous to patients receiving systematic antimycotics ketoconazole or itraconazole. PMID7995001