こんにちは。研修認定薬剤師の奥村です。今日は糖尿病のAさんの話をします。Aさんは糖尿病の薬を飲み始めて9年になる、45歳の男性です。薬は、メトホルミン750mg/日、グリメピリド2mg/日、ロサルタン50mg/日です。HbA1C6.4、血圧は診察時132/81と良好との事。糖尿病手帳を出しながら、「今日は尿蛋白が1+だったけど、大丈夫かな」と言われました。尿蛋白1+は、どんな意味を持っているのでしょうか。

尿蛋白定性1+は、おおよそ尿中蛋白30mg/dLに相当します。一般の人においては、水分をあまり摂らずに濃くなった尿、すなわち濃縮尿において尿蛋白1+は珍しいことでなく、病的な意味がない事もよくあります。1) 逆に病的な蛋白尿が希釈により±になることもあります。

このように尿蛋白定性の意義は尿の濃縮度(尿比重)により異なりますが、尿蛋白1+であれば、46%の確率で0.5g/日(≒g/gCr)以上の顕性蛋白尿と言う報告があります。2) 日本の疫学研究である、JDDM(Japan Diabetes Clinical Data Management Study)によると、日本人2型糖尿病患者の31.6%が微量アルブミン尿であり、10.5%が顕性腎症でした。一般的には、糖尿病を発症して血糖コントロールが不良なままであると、10~15年後には顕性蛋白尿が出現するとされています。

腎症の病期については、300mg/gCrの尿中アルブミン3)、または0.5g/gCrの持続蛋白尿があれば顕性蛋白尿と見なされます。Aさんは血糖コントロールは良い方ですが、糖尿病罹病が9年以上あるので、糖尿病に伴う早期腎症~顕性腎症の可能性があるかも知れません。尿中蛋白量が少なくても、アルブミン尿が増加している事もありますので、今後尿中微量アルブミンの検査があればチェックが必要です。4)

また、腎機能の指標であるeGFRが100を超えていれば、早期腎症期に特徴的な糸球体過ろ過が起こっている可能性もあります。

Aさんは、既に腎保護作用のあるRAS阻害薬ロサルタン5)を服用しているので、薬物治療の外では減塩が好ましい影響があると考えられます。具体的には、塩分1日量を7~8g程度に減らす事が推奨されています。治療では、今後もHbA1C7.0未満の良好なコントロール、診察時の血圧を130/80未満を目標にコントロールして行くことも課題です。

Aさんには、もう少し詳しい検査をしないと腎症かは分からないが、今飲んでいる薬は腎症にも効き目があり、今のHbA1Cや血圧を維持した上で、薄味を心がけるようにすれば良いと思うと伝えました。

いかがだったでしょうか。ご家族の健康を守るためのご参考になさって下さい。
 



1) 30歳以下の若い人では体位性蛋白尿と言って体動によって軽度の蛋白尿が出現する場合がありますが、これは生命予後や腎機能には影響がありません。安静時に蛋白尿が消失するので、早朝第一尿で鑑別が可能です。早朝尿の検査が難しければ、来院時の検体と、その後2時間以上安静にしてもらって取った検体を比較することで、体動による尿蛋白と確認出来ます。

2) Am J Kidney Dis. 2005 May;45(5):833-41
 
3) 尿中アルブミン量(mg/L)を尿クレアチニン(g/L)で割った、尿中アルブミン/クレアチニン比、別名アルブミン指数(mg/gCr)は、随時尿でも24時間蓄尿によく相関する数値です。300mg /gCr以上であれば顕性腎症、30~299mg/gCrであれば、微量アルブミン尿が出ている早期腎症と判定されます。

4) 1日尿蛋白量の推定には随時尿による尿蛋白/クレアチニン比[g/gCr]が有効です。1日の尿クレアチニン排泄量を1gと仮定すると、次式が成り立ちます。

尿蛋白排泄量(g/日)≒随時尿蛋白濃度/尿クレアチニン濃度x尿クレアチニン排泄量
=随時尿蛋白濃度/尿クレアチニン濃度(g/gCr)

ただし、この式から分かるように、筋肉量が少ない場合や末期腎不全ではクレアチニン排泄量が低下(尿クレアチニン排泄量<1)し、過大評価しやすくなります。反対に、筋肉量が多い場合はクレアチニン排泄量が多く(尿クレアチニン排泄量>1)、過小評価しやすくなりますので、解釈には注意が必要になります。尿蛋白/クレアチニン比が0.2g/gCr未満の場合は正常範囲、3回続けてチェックしてこの基準以下なら有意な蛋白尿がないと判断出来ますが、糖尿病患者の場合は早期腎症を見逃してしまうので、微量アルブミン定量を測定します。

5) ロサルタンには糖尿病腎症の適応があります。RENAALに組み込まれた顕性腎症のある2型糖尿病患者のうち、日本人96症例に対する事後(post hoc)のサブグループ解析では、ロサルタン投与群はプラセボ投与群に比して血清クレアチニンの倍化、末期腎不全、死亡と言った複合エンドポイントの相対リスクを45%減少させ、有意な蛋白尿の減少も認められました。