こんにちは。研修認定薬剤師の奥村です。今日は不整脈で治療を受けているAさんの話をします。Aさんは62歳女性。持続性心房細動の治療を受けています。身長は155cm、体重39kg、BMI16.2と小柄で痩せ型の体格です。処方は抗凝固薬のダビガトラン 110mg 1カプセル、不整脈の薬のピルシカイニド 50mg 1カプセルを12時間おきに服用しています。
 
処方内容を詳しく見て行きましょう。心房細動は脳梗塞の原因になるので、予防治療が必要になる病気です。ダビガトランとピルシカイニドはどちらも尿から排泄される薬ですので、腎機能に応じて用量の調節が必要です。腎機能の指標には、eGFRとクレアチニンクリアランスの二つがありますが、用量の調節には、標準の体格に補正されていて腎機能低下のステージの指標に用いられるeGFRではなく、体格を反映させた指標であるクレアチニンクリアランス(CCr)を使用します。AさんのCCrや血清クレアチニンなどの検査値は不明ですが、腎機能は加齢とともに低下しますので、年齢からはおそらくCCr58mL/min程度、軽度の腎機能低下があると予想されます。この推定値を用いて話を進めて行きます。
 
ピルシカイニドの治療域は0.2-0.9μg/mLです。血中濃度がこれを上回ると、徐脈、血圧低下、めまい、眠気などの副作用が起きる場合があります。Aさんはどれくらいの用量が適切なのでしょうか。順を追って見て行きます。

まず、簡便なGuisti-Hayton法による用法用量の計算をしてみましょう。R=1-fu(1-CCr/100)と言う式から、補正係数R=0.62です。ピルシカイニドの尿中未変化体排泄率fu=0.9としました。ピルシカイニドの標準の用法用量を1回50mg 8時間おきとします。
 
まず、服用間隔を変える場合、8時間/0.62=12.9時間ですので、服用間隔を通常の8時間おきから現状のような12時間おきに延長すればよいと考えられます。これがAさんの服用している飲み方そのもので、理論的に妥当な用法用量と推察出来ます。また、この他に服用量を変える方法もあります。50mg x0.62=31mgですので、1回量を25mgに減量し、1日3回服用すればOKです。ちなみにこちらの方法の方が血中濃度の変動幅を狭く出来ます。
 
次に、FSD/Tau=Css.aveCLtot式を用いて、Aさんが処方のピルシカイニド50mg 12時間おきで服用した場合の定常状態の血中濃度を推定してみましょう。計算に必要なパラメーターを見て行きます。添付文書には80>CCr≧50、すなわち腎機能軽度低下の場合、全身クリアランス(CLtot)は0.2L/hr/kgと記載がありました。

ピルシカイニドのバイオアベイラビリティF=0.9、塩係数S=1、1回投与量D=50mg、投与間隔Tau=12時間、全身クリアランスCLtot=7.8L/hrを式に代入して、定常状態の平均血中濃度Css.ave=0.48μg/mL、またFSD/2Vd=0.39μg/mL (分布容積Vd=1.48L/kg 体重39kg)であることから、Aさんの定常状態のピルシカイニド血中濃度は0.48±0.39(0.09-0.87)μg/mLで至適であると推定されます。ただ、個人差はあるので、副作用が疑われる場合はTDMを施行するのが望ましいでしょう。
 
もしAさんのピルシカイニドを減量するのであれば、25mg 1cap 8時間おきで試算すると0.36±0.19(0.17-0.55)  μg/mLなので、まずはこのように減量を提案するのが良いのではないかと思います。TDMを施行しなくても、臨床症状から副作用を疑う事は可能です。徐脈、血圧低下、めまい、眠気などは自覚できる症状ですので、普段からこの辺りに気を配って頂いていると早めに副作用を発見出来るかも知れません。
 
そして最後に、私たち調剤薬局の薬剤師から皆さんへのお願いがあります。身長、体重、そして、検査値の血清クレアチニンを把握していて、薬局のカウンターで教えて下さい。これらは薬の量や飲む回数が適切であるかを判断する重要な情報です。検査値が分かれば、処方せんの内容をリファインし、体調不良や時に命に関わるような副作用を避ける事が出来る場合があります。医師に問い合わせる時、自覚症状の他に具体的な数値があれば、変更になる可能性がぐっと高くなります。医療に不確実性は付き物ですが、その中で薬物療法のリスクを最小に効果を最大にする努力は常に必要であり、それこそ薬剤師の存在理由と私は思っています。

いかがだったでしょうか。ご家族の健康を守るために、ご参考になさってください。