公園のベンチで、葉月は一息ついていた。今日も仕事が忙しく、少し休憩を取ろうと立ち寄った公園だ。ベンチの隣では、子どもたちが元気に遊び回っている。その中で、ひとりの小さな女の子が葉月に気づいて、じっとこちらを見つめていた。

その子はみさきという名前の7歳の女の子で、いつもこの公園に来るのが日課だった。みさきは大人に興味津々だ。特に、ひとりでベンチに座っている人は、どんなことを考えているのか気になって仕方がない。大人は忙しそうに見えるし、難しい顔をしていることが多い。みさきにとって、大人は別の世界の住人のように感じられた。

一方、葉月は子どもたちの無邪気な笑顔を見て、自分が子どもだった頃を思い出していた。あの頃は、時間が無限にあるように感じられ、何もかもが新しく、驚きに満ちていた。葉月は、自分もいつの間にかそんな無邪気さを失ってしまったのかもしれないと、少し寂しい気持ちになった。

みさきは勇気を出して、葉月に話しかけてみた。「こんにちは、お姉さん!何してるの?」その突然の声に葉月は少し驚いたが、微笑みを浮かべて答えた。「こんにちは、ちょっと休憩しているの。君は何して遊んでいるの?」

「ブランコに乗ったり、砂場でお城を作ったりしてるの!」みさきは目を輝かせながら答えた。「お姉さんも一緒に遊ばない?」その無邪気な誘いに、葉月は少しだけ戸惑ったが、「そうだね、少しだけなら」と立ち上がった。

みさきは葉月の手を引いて、砂場へと連れて行った。二人は一緒に砂のお城を作り始めた。みさきは嬉しそうに笑いながら、葉月にいろいろな遊び方を教えてくれた。葉月は久しぶりに心から笑い、みさきの無邪気さに引き込まれていった。

時間が経つにつれ、葉月はみさきに問いかけた。「ねえ、みさきちゃん。どうしてそんなに大人に興味があるの?」みさきは砂のお城を見つめながら、少し考え込んだ。「大人って、いつも忙しそうで、何を考えているのか知りたくなるの。私たち子どもには、まだ分からないことがいっぱいあるから。」

葉月はその言葉にハッとさせられた。大人になると、確かに多くのことが見えるようになるが、その分、子ども時代の純粋さや疑問を忘れてしまうことも多い。葉月は、自分ももっと柔軟な視点を持って、物事を見つめ直す必要があると感じた。

逆に、みさきは葉月と遊ぶ中で、大人が必ずしも難しいことばかりを考えているわけではないことに気づいた。大人も時には楽しむことを知っているし、心の中には子どもの頃の気持ちを持っているのかもしれないと感じた。

日が傾き、葉月は立ち上がり、「今日はありがとうね、みさきちゃん。楽しかったよ」と言って、優しく頭を撫でた。みさきは満面の笑みを浮かべて、「また一緒に遊ぼうね!」と手を振った。

帰り道、葉月は心が軽くなったような気がした。子どもたちの無邪気さと好奇心に触れ、自分もまた、新しい視点を持って物事を見てみようと思ったのだ。大人と子ども、それぞれの世界には違いがあるけれど、互いに学び合い、理解し合うことができる。それを教えてくれたみさきとのひとときは、葉月にとって貴重な時間となった。

みさきも、家に帰る道すがら「今日のお姉さん、すごく優しかったな」と思い返していた。大人も楽しいことが好きで、遊び心を持っていることを知ったみさきは、また新たな疑問とともに、公園に行くのがますます楽しみになった。

それぞれの視点から見た世界は違うけれど、時にはその境界を超え、互いの世界を少しだけ覗き見ることができる。大人から見た子ども、子どもから見た大人、それぞれが違う視点を持ちつつも、共に過ごすことで新たな発見が生まれる。葉月とみさきの出会いは、そんな瞬間の一つだったのかもしれない。