「お前なんか客じゃねぇー!早く消えろや!」、「てめぇ、絶対殺す!」
凄い剣幕で、力いっぱい警察官2名を引きずる酔っ払い。
「Mさんも、あんまり挑発するんじゃないっ!!」・・・・
私が繁華街にあるラブホテルを担当していた時の話です。さすが日本でも有数の繁華街、地域柄ガラの悪いお客様はどうしても多いのです。とある日の夕刻。
「早く部屋から出してくれや。」「お客様はお支払いがお済みではないようですが・・・?」「もう金がねえんだよ。早く出せよ。」後ろではケラケラと連れの女が笑っている。「お支払いが済むまで、お帰り頂く訳には行きません。一名様は残ってお金をおろしに行くか、知人を呼んでいただいてお金を持ってきてもらって下さい。」「早く出せ。ドア壊すぞコノヤロー。」あまりの傍若無人ぶりにフロントMは電話をガチャ切りし、ジャミラを呼ぶ事にした。
フロントMは、私の会社がこのホテルの運営を引き継ぐ前からフロントをしていた女だ。私の上司からも信任の厚い、強い女を絵に描いたような人間である。お客様にはとても気の利く素晴らしいスタッフだ。「あ、ジャミラ?○○号室の客、酔っ払いみたいなんだけど・・・」一通り話しを聞いた私は、Mの待つホテルへ。
私がホテルへ到着すると、怒り心頭のMが待っていた。「アイツ、ドアをガンガン叩いて、大声でわめき散らしてる。」「とりあえず、私が話をしてみよう。」部屋へ内線をかけると、連れの女が出た。「お客様のお連れ様は手持ちが足りないようなのですが、お客様にお支払い頂けないのでしょうか?」「私も無いもん。あの人も払う必要ないって言ってるし・・・w」知人に持ってきてもらえるよう頼んでみるものの、無理だ、の一点張り。電話をしている間も後ろでは、男ががなり散らし、ドアをガンガン蹴っている音がする。「ドアを叩くのやめてもらえませんかね・・・。他のお客様にも大変迷惑なのですが・・・。」「え~w あの人暴れてる時って、私にもどうしようも無いんですよ」舐めた口調で抜かしやがる・・・。こりゃMもキレるわ。警察を呼ぶ事にした。「今から警察の方に来てもらうので、静かに待っててください。」「警察呼ぶって~。どうする~?」「呼んでみろ!呼んだら殺すっ!!」・・・よっぽどドア開けて、Mと二人で殴りこんでやろうかと思ったが、そんなワケにもいかずMが警察を呼ぶ。
「○○交番です。」日本有数の繁華街の治安を守る○○交番。私はここの警察官をとっても信頼している。以前も何度か来てもらっているが、どれも対応が親切だった。そしてみんな強そう筋肉メン。 到着を待っている間も、ヤツはガンガンとドアを蹴り続け、わめき続けていた。ドアの前まで来た私とM。ドアを開けれない、という事もあったのだろうが、Mがヤツに向かって怒鳴り始めた。「テメェ、ガンガンやってんじゃねぇよ!!うるせえだろ」「なんだお前は!客に向かって舐めてんのか!?そこで待ってろ。ドア開けて殺してやっからな!」幸いな事にこのフロアにお客様はおらず、この会話は聞かれていない。制止する私をよそに、なおもMはバトルを繰り広げていた。10分程してから屈強な警察官4名到着。私達にお任せ下さい、と言わんばかりに威風堂々としたものだった。待ってました。強そうね、あんた達( ̄ー ̄)
もう一度事情を説明しドアの前へ。「警察だ。うるさいよ。やめなさい。今ドア開けるからね。」と、警察。ヤツは警察に向かっても暴言を吐き続けていた。と、Mがまた一言。「うるせぇっつってんだろ。サルか、てめぇは?」で、ドアをガチャリ。
勢いよく飛び出してきた男、体がデカイ・・・。180cm以上はあり、ラグビーでもやってたの!?って体。顔あわせて話してなくてよかったです。飛び出してきた勢いでよろつくと、すぐにMへ視線を向けた。「お前かっ!」の言葉を発すると同時に、床を蹴った。
うわっ!やべぇ、と思った瞬間、横にいた警察が酔っ払いの左腕を取り、背中に回した。すぐに他の警察官3人も取り押さえに入る。危ねぇヤツだ・・・。○○交番の警察官4人がかりで取り押さえられては、このレスラーみたいな男もさすがに振りほどけなかった。しかし、なんとか振り払おうと、力いっぱいの抵抗を試みていた。血管がびっしり浮き出た太い腕と顔。警官も4人で来て正解だったと思った事であろう。押さえつけられながらしばらく抵抗を続けていたが、ふっ、と力を抜いた瞬間、警察官も力を緩めた。この隙を利用してMに飛び掛ろうとするも、すぐに警察に取り押さえられていた。これを何度か繰り返している間に、冒頭の会話になったのである。しかし、警察もMの暴言には一切注意をせず、一方的に私達の味方をしてくれてよかった。
私は連れの馬鹿女に借用書を書かせ、連絡先もすべて控えておいた。今後当グループホテルを2度と使わないように警察と共にこの2人に話をし、今度来た場合はすぐに警察を呼ぶ、という約束をした。ヤツ等を警察と共に外まで見送り、事は収まった。それ以降彼が来た形跡はない。
この日、Mが退勤する際私に言った。
「そこまで一緒に来てくんない?やっぱちょっと心配・・・」「・・・おう。もちろん。」
Mさん。本当にお疲れ様でした。