「おーい鈴木君、ちょっと事務所に来てくれるか。」
その日の仕事終わり、
工場の詰め所に戻り、
着替えのためにロッカーに向かおうとしていた時、
課長に呼ばれた。
なんだろう。
何で僕だけなんだろう。
この場で話してくれれば良いのに。
そんなことが少し気になったが、
制服のまま事務所のドアをノックした。
「まあ、入って。」
いつもの感じで課長が座っている。
僕は課長の前にちょこんと座った。
「あのなあ、まあちょっといいにくいんやけど、
まあ、率直に言わせてもらうと、
来月以降の契約を解除してくれ、ということになってな・・・」
「・・・・・・」
「・・・人員を再編する、ちゅうことで・・・」
「・・・・・・」
その後のことはよく覚えていない。
どんな足取りで自宅のあるボロアパートに帰ったかも。
ただ、思い返してみれば理由はなんとなく分かっていた。
「上司からも同僚からも好かれていない」
そう、僕は人と上手に付き合うことができない人間なのだ。
でも、今まで自分から仕事を辞めたことはあっても、
辞めてくれ、と言われたことは初めてだった。
「こんな漫画みたいなシチュエーションって本当にあるんだ」
まるで、他人事のようにしばらくは実感がわかなかった。
だが、時間が経つにつれ、
徐々に深刻な現実が重くのしかかってきた。
貯金はわずかだ。
このままではすぐに家賃も払えなくなる。
これからどうやって生きてゆけばいいんだろう・・・・・。
飾り気のないワンルームで
灰色の壁や天井を眺めながら、
日がな一日ぼんやりと考えていた。
だが、やがてとうとう結論を下した。
「そうだ、死のう。」
「だが、どうせ死ぬなら、かっこよく、あまり苦しまずに死にたいな。」
そうして、思い浮かんだ案が、
「中東あたりの砂漠を歩いていて、
そのまま疲労で意識をなくして倒れて死ぬ」
というものだった。
それまで海外に行ったことはなかったし、
行きたいとも思わなかった。
だがその時はなぜか、
外国で野垂れ死ぬ、という行為がとても格好よく思えた。
「今までつまらない人生だったし、
最後くらいパーッと冒険してみるのもいいかもしれない。」
僕の初めての海外放浪は、
こんな風にして計画された。
(つづく)
今日のレポートが面白いと思って頂けた方、
クリックして頂けるとやる気がでます↓
にほんブログ村