実に痛快でした。
青崎有吾さんの『地雷グリコ』を読んでみました。
『グリコ』とは、ジャンケンで勝った人がグーで勝てばグ・リ・コで3歩分、チョキならチ・ヨ・コ・レ・ー・トで6歩分、パーならパ・イ・ナ・ツ・プ・ルで6歩分進むあの遊びです。
それに物騒な地雷が頭に付き、奇妙な言葉になっています。
この作品は、誰もが知っているゲームにルールをつぎ足し、勝負する様子を描いた小説になっています。
KADOKAWAのサイトには、こう紹介されています。
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。
5章仕立てになっていて、ゲームの簡単な紹介は帯に書かれていました。
1地雷グリコ
ジャンケンで勝ったら階段を上るシンプルなゲーム。
ただし対戦相手の仕掛けた「地雷」を避ける必要あり。
2坊主衰弱
百人一首の絵札を使った神経衰弱。
<男>と<姫>のペアを揃えよ。
<坊主>をめくると一発アウト。
3自由律ジャンケン
グーチョキパーしか出しちゃいけないなんて、だれが決めた?
プレイヤーが考案する<独自手>ありのジャンケン対戦。
4だるまさんがかぞえた
「ころんだじゃなくてかぞえた?」
オニがいつ振り向くかは<入札>しだい。進むか止まるか心理戦。
5フォールームポーカー
4部屋に伏せられた52種のトランプ。
推理と記憶を頼りに、理想の役を作り出せ。
ゲーム好きで、ゲームに一ひねりしたルールを付け足すのが好きな僕としては、この帯に惹かれました。
どのゲームもルールを把握した段階で「ルールはわかったけど、どうやれば勝てるのだろう?」とプレイヤー目線で考えさせられます。
物語が進むにつれてプレイヤーがしっかりと策を練った上で戦っているのがよくわかります。
そして決着したときに勝利者がいかに巧妙な仕掛けを絶妙なタイミングで施していたことが明かされます。
福本伸行さんの『カイジ』シリーズのような「そうだったのか!」感がたまりません。
では、ネタバレなしで一つずつ感想を。
『地雷グリコ』はルールがわかったとき、「あの方法がよさそう。でもそれで相手を嵌めるにはどうすればよいだろう」と思い読み進めました。
方法の予想は的中しましたが、その展開に持っていく戦略はなるほどです。
勝利者はきちんと展開を読み切って仕掛けていました。
『坊主衰弱』は勝ち方の予想が付きませんでした。
この先のゲームにすべてに共通することですが、ほんのちょっとしたことが勝利への布石として利用されています。
勝つためには、視野を広く、よく考えよ、そんな教訓を学びました。
『自立ジャンケン』をはこの作品で一番好きな話、この結末を読んで「この小説面白い!」と感じました。
双方の<独自手>の効果を外野目線で推理しながら楽しかったです。
決着がつき勝利の種明かしがされたとき、「そういうことか……」と思わず声がもれましたよ。
一杯食わされながらもそう快感を味わいました。
『だるまさんがかぞえた』も勝ち方が想像つきませんでした。
ルール説明の段階で必勝パターンを作り上げたのは見事です。
交渉の重要性が一番感じられた話でした。
『フォールームポーカー』はこの物語の締めにふさわしく、設定も凝っているし、双方の策が炸裂します。
プレイヤーが攻略のために謎を解き明かし、相手を出し抜くために仕掛けを施していた様が見事でした。
こんないろいろな戦い方を見せてくれたプレイヤーだけでなく、審判の存在も重要です。
5つのゲームはアナログであり、ルールや設定が一部隠匿されているものもあります。
このため、ルール違反がされていないかを判定する審判の存在が必要なのです。
この審判が中立にして厳格。
憎らしいくらい良い仕事しています。
一般的にゲームのルールは、「●●しなければならない」や「●●してはいけない」がいくつも設定されています。
それは、「自分がしなければならない」や「自分がしてはいけない」だけではなく、「相手がしなければならない」や「相手がしてはいけない」でもあります。
相手にとって都合の悪い状況に追い込むのがゲームの秘訣なのです。
さらにルール上説明がないだけで、ルール違反にならない行為もあります。
先入観にとらわれず、柔軟な発想が勝利への鍵です。
この物語では、そんなゲームの本質に改めて気づかされました。
アナログゲームが好きな方は読んでみてはいかがでしょうか。
試し読みはこちら。
作品中では見られない主人公のイラストもありますよ。