【ネタバレを含みます。まだ読んでいない水島新司ファンはご注意を】

 

2023年8月29日、漫画家水島新司先生が残したすべての作品を紹介する『水島新司全仕事』が発売されました。クラッカークラッカークラッカー

 

 

●全巻が並んだ絶景な本棚

期待以上の本です。

各作品の主人公達が描かれた裏表紙からしてワクワクさせられます。

 

表紙の裏に掲載されている、貴重な初期の作品も含めて全作品が本棚に並んでいる様子は圧巻です。

初版の帯ももれなく付いていたらいうことなかったのですが、なくても素晴らしい。

こんな家に住んでみたい!

 

●『水島新司の世界 ドカベン&大甲子園』との関係

8月16日には『水島新司の世界 ドカベン&大甲子園』が先行して発売されましたが、今回の本にも『ドカベン』シリーズはしっかりと紹介されています。

 

むしろ、この本が基本で、この中で『ドカベン』シリーズが語りつくせないので別冊にしたのではないかと思いました。

 

●レアな表紙たち

全作品の表紙がカラーで図鑑のように掲載されているのがいいですね。

 

特に、貸本時代やご自身がプロデュースされた雑誌まで網羅されているのは涙ものです。

デビュー当時と後の数多くの野球漫画のタッチを比較すると全然違っていて、歴史を感じます。

 

『ドカベン』シリーズの文庫版の特典ボックスのほか、『球道くん』や『ストッパー』など同じ巻でもバージョン違いの別イラストももれなく紹介されているところも素晴らしい。

 

今回も雑誌の表紙が数多く掲載されています。

左のアンダースローでお馴染みの水原勇気がオーバースローで投げる姿もありました。

 

欲を言えば、表紙は本編で、背表紙は本棚の写真で見ることができたので、裏表紙も載せていてくれたらもっとありがたかったですね。

 

●作品の裏話

冒頭には、水島先生の漫画家人生が文章で紹介されていて、『ドカベンドリームトーナメント編』にあぶさんが登場しなかった理由も明らかにされています。

先生のこだわりというか作品の成り立ちからすると、ごく自然なことだったのでしょう。

それでも、あぶさんと山田達が共演するドリームは見てみたかったですけどね。

 

●東京メッツの主力選手といえば

貴重なイラストが盛りだくさんですが、おやっと思うところも三つありました。

 

一つは、東京メッツの主力選手が紹介されているページ。

5名が紹介されていたのですが、水原勇気、岩田鉄五郎、火浦健、国立玉一郎、この4人は納得です。

ですが、5人目は大田原明。エピソード『バットファーザー』の主人公です。

 

大田原はベストファイブに入るほどのキャラなのかは疑問です。

それなら、作品初期に登場し、『ドリームトーナメント編』にも登場したジンクスや金太郎の方がふさわしいのではないかと思います。

もう少し幅を広げるなら、主力選手ではなく主要キャラとして、五利さんを紹介してもよかったのではないかと思いました。

 

●2種類の平成野球草子

二つ目は『平成野球草子』。

これは、2種類発行されています。

どちらもビッグコミックスゴールドですが、表紙や本の大きさがまったく違います。

 

表紙を見比べると、先に発行された方は表紙が昭和感漂う野球選手の写真で、後に発行された方は作品中の登場人物のイラストが描かれています。

 

さらに違うのが、同じ全10巻でも収録されているエピソードがガラッと変わっていることです。

例えば1巻は、

先に出た方は、10月12日晴れ、主婦たちのマジック、父と娘のプレイボール、白球の蹉跌、一面屋、雲はわき光あふれての計6作品。

後に出た方は、10月12日晴れ、夕顔の詩、4月馬鹿、ホームランダービー、父と娘のプレイボールの計5作品なのです。

 

このようにどの巻も収録されているものの組み合わせが変わっています。

10巻全部としては、漏れはないのですけどね。

この作品の紹介ページでは、この点も触れてもよかったのではないかと思います。

 

●希少作品『それがどないしたちゅうねん』

最後の三つ目は、希少雑誌を紹介するコーナーがありましたが、そのうちの一つ『それがどないしたちゅうねん』です。

この作品は、NHK出版が「コミックムウ」という雑誌の創刊号に掲載されたものの、正式に発行されることはなく、幻の作品となった、と紹介されています。

 

ん?そうだっけ?雑誌以外で読んだ記憶があるぞ、と思って確認してみたところ、この作品は、単発のコミックス『水島新司珠玉傑作選』にちゃんと収録されていました。

この傑作選自体がレアなので幻の作品には違いないですが、コミックス化されている点も触れてほしかったなと思います。

 

ちなみに、『それがどないしたちゅうねん』には大阪シャークスが登場します。

そう、『平成野球草子』に出てくる架空のプロ野球チームです。

もしNHKの雑誌が正式に発行されていたら、『野球狂の詩』の水原勇気編のように、『平成野球草子』の外伝として一人の主人公に焦点を当てた作品として描かれたのかもしれませんね。

 

●最高の図鑑です

と惜しいポイントもありましたが、知らない情報もたくさんあったし、何より水島新司作品を網羅した図鑑なので、大満足です。

 

これが水島新司関連作品のこれが最後になるのでしょうかね。

寂しいです。

 

でも、一生の宝になります。

水島先生、出版してくれた三栄さん、ありがとうございました。