『せいぜい月の光を浴びるがいいよ。』
『月光には何か不思議な魔力でもあると云うの?』
『お伽話じゃあるまいし、月は太陽の光を反射しているだけだ。だからね、太陽の光は動物や植物に命を与えてくれるけれども、月の光は一度死んだ光だから、生き物には何も与えちゃあくれないのさ。』
『それじゃあ無意味じゃない。』
『意味があればいいってもんじゃない。生きるってことは衰えていくってことだろ。つまり、死体に近づくってことさ。だから太陽の光を浴びて動物は精一杯に幸せな顔をして、力一杯に死んでいく速度を速めているんだ。だから私達は月に反射した死んだ光を体中に浴びて少しだけ生きるのを止めるのさ。月光の中でだけ生き物は生命の呪縛から逃れることが出来るんだ。』
月の光は一度死んだ光り、生き物には冷たすぎる。
『月光には何か不思議な魔力でもあると云うの?』
『お伽話じゃあるまいし、月は太陽の光を反射しているだけだ。だからね、太陽の光は動物や植物に命を与えてくれるけれども、月の光は一度死んだ光だから、生き物には何も与えちゃあくれないのさ。』
『それじゃあ無意味じゃない。』
『意味があればいいってもんじゃない。生きるってことは衰えていくってことだろ。つまり、死体に近づくってことさ。だから太陽の光を浴びて動物は精一杯に幸せな顔をして、力一杯に死んでいく速度を速めているんだ。だから私達は月に反射した死んだ光を体中に浴びて少しだけ生きるのを止めるのさ。月光の中でだけ生き物は生命の呪縛から逃れることが出来るんだ。』

by京極夏彦