■②失われた10年と夜の歓楽街■



日が落ちると


ネオンが灯り
一気に活気づく街



そこに八百万の神々が
癒やしを求めやってきます



文字通り『お客様は神様』の



夜の歓楽街ですね。






前回までのまとめで



僕は


トンネルの先の
不思議な世界を


「バブル崩壊後の失われた10年だ」


と定義しましたね



バブル崩壊後の失われた10年と
夜の歓楽街で働く女の子たち



一見すると結びつきづらいように思える両者ですが、密接に関係しています。



今からこの両者を説明を交えて結びつけていきます。




バブル崩壊後の失われた10年で


表面化した社会問題とは何か?





それは若年層における
雇用の不安定化です。



いわゆる就職氷河期です。



ちなみに就職氷河期に
社会に出ていくに至った


『ロストジェネレーション』


と呼ばれる世代は



バブルの好景気を背景に

生活が豊かになり

進学率が飛躍的に伸びた


という統計があります。





進学率は伸びた


就職活動をする学生が増えた




しかし企業は


バブル崩壊後の経営悪化から


新規雇用を減らす経営方針を取らざるをえませんでした。



雇用を渋る湯バーバの姿が
まさにそれを表してますね




その結果


たくさんの学生たちが
就職難民となりました







ここまで説明すると


なんとなく上記の2つの
接点が見えてきますね??





学校を卒業して
右も左もわからないまま


夜の世界に飛び込んでいく
女子学生が急増したのが


この「失われた10年」なんですよ。




まさに千尋は


夜の世界に飛び込んでいった
女子学生の姿ともいえます






さて


ここで千尋に関する考察をさらに進化させていきましょう。



この女子学生たちを


千尋に重ねてみると


意外や意外




ピッタリとハマります。




急激に豊かになった生活
親世代に守られすぎて育ち

進学はしてみたものの
取り立ててスキルはない



年齢は違えど


やっぱり千尋に似ています。




ここに宮崎駿監督が


千尋を


今までのヒロインのような


特殊な力や才能を持たない


普通の女の子として描きたかった理由がでています。





さらに



こんな逸話があります。



鈴木敏夫プロデューサーの


『挨拶もろくに出来ない女の子がキャバクラで働いて成長するということがあるらしいよ』


という話に


宮崎駿監督は大いに感心し、インスピレーションを受けたといいます。




これはボイラー室で


リンから



「はい」とか「お世話になります」とか言えないの?



「カマジイにお礼言ったの?」
「世話になったんだろ?」



と注意されるシーンがあります。




このことからも



キャバクラインスピレーション説の信憑性は非常に高いと思われます。




カマジイに心を込めて

「ありがとうございました」


と言う千尋。


エレベーターで最上階まで連れて行ってくれた「おしらさま」にも


しっかり頭を下げます。



ゼニーバの家に入る時も

「失礼します」


と自然に言葉が出ました。



さぁ


無菌状態で育てられ
何もできなかった
無気力な女の子が



まず


きちんと挨拶ができるようになりましたよ。



少しずつですが


千尋の心の中で


何かが生まれ始めてます。








■③誠の名前とは■




次にこの作品における


『名前』の意味合いについて


考えていきましょう。





千尋は湯バーバに


『ここで働かせてください!』と

雇用を願い出ますね。




その結果


荻野千尋という名前を奪われ


油屋で働くために



『千』という名をつけられます。




鋭い人はもうピンときましたよね



これは言うなれば




夜の世界で生きてくための




「源氏名」ですね。




自分の本当の名を
忘れかけていた千尋に



ハクはこう諭します



『いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくんだよ』


『名を奪われると帰り道がわからなくなるんだ』



このハクの言葉は



自分をしっかりもって生きていかないと、夜の世界に飲み込まれてあがれなくなってしまうよ。



というメッセージとも受けとれます。





ここで重要なことを1つ、



誤解があるといけないので
一応言っておきますが



夜の世界の描写は
メッセージを伝えるための
比喩に使われただけであって



宮崎駿監督は別にキャバクラや夜の世界を描きたかったわけではありません。



今のカオスな世の中を


「夜の世界に」


例えたかったわけです






「夜の世界」は



言うなれば



人間の欲が集まるドス黒い世界




しかし


その中に身をおいても



自分をしっかりもって
人間として成長していく
女の子のたちの健気な姿に



宮崎駿監督は感心し、未来のあるべき姿を見たわけです。




今の世の中は


夜の世界だけじゃなく


おひさまの下だろうが


至る所に欲が溢れかえり


すべてがドス黒いんですよ。





「誠の名前」に込められた意味とは



『名前』=『確固たる自分』




コレです。



確固たる自分をもって
生きていかないと


急激な時代の流れや
ドス黒い世の中に


飲み込まれてしまうよ



という警鐘です。







いやはや、


監督さん、天才です。





【3】に続く