■④負の遺産を被る世代■




オクサレさまの大湯係を命じられた千尋



献身的に客に尽くします。




これは正直な話



書こうかどうしようか
迷ったんですが




この一連のシーンは明らかに



ソー○ランドを連想させます。



誤解があるといけないので
一応再度言っておきますが


これも比喩や風刺を


強烈にするための手法です


常人の想像力を
遥かに超越した


宮崎駿監督だからこそ
なせる業なんですよね






結果的に


オクサレさまからは


豊かな時代の負の遺産が


次々に湧き出てきます。




バブル景気による

スクラップ&ビルド

過度の開発によって


生み出された


大量のゴミに
環境破壊





そういった負の遺産を


押し付けられながらも、


受け入れて強く生きていかなければならない世代への



強烈なメッセージなんだと思います。








■⑤カオナシとは何か?■



次に「カオナシとは何か?」


これについて考えていきます。




宮崎駿監督はインタビューで



カオナシは「寂しさや孤独の象徴」である。



と、意味深な答え方をしたそうです。



ではこの「寂しさ」とは何か?



紐解いていきましょう。





まず



カオナシは手から無限に金を出します。


そして金を欲しがり、群がり狂喜乱舞する周りの者たちを


次々に飲み込んでいきます。



しかし千尋のように、自らそれを欲しがらない者を飲み込むことはできません。



そして最終的には
カオナシが出した金は


泥になってしまいます。



つまりカオナシが生み出した豊かさは


虚構・まやかし



だったわけですね。



あとに残るのは
虚無感だけです。









あれ...?


ちょっと待ってください。




これって何かに似てませんか?






無限のごとく豊かさを生み出してきたバブル経済と



それを欲しがり続けた
強欲な人間たち



でもバブルがはじけて


残ったものは


山積する社会問題と


価値が下落した土地や不動産
紙キレになった有価証券


熱に浮かされた後の虚無感





笑えるほどそっくりですね...





そこで僕は


カオナシをこう定義します。




カオナシとは



バブルが残した
偽りの豊かさ


物質的な豊かさばかりに固執し
それを欲し、追求してきたが
後に何も残らなかった現代人の


虚無や寂しさ



それを表しているんだと思います。




バブルがはじけても


未だに物質的な豊かさこそが
人生の幸せだと信じて疑わない


哀れな現代人への
アンチテーゼです




「カオナシがバブル経済である」



という考察を



さらに信憑性のあるものにしていきましょう。





バブル経済そのものは
意志をもたないので



欲しない人に害を与えません



おとなしい時の
カオナシと同じです




しかし


欲にかられるまま
土地や不動産を転がし


もっとほしい!
もっとほしい!と


物質的豊かさを追求し
巨額の投資を繰り返し



バブルに飲み込まれた人間たちが

バブルを狂気に変えたのです。







金を差し出すカオナシに


千尋は哀れみをこめて
こんな言葉をかけます



『いらない。私の欲しい物はあなたには絶対に出せない』





では千尋が欲しい物とは...



いったい何でしょうか?





それはまさに




『愛や慈しみ』



物質的な豊かさとは対極にある



『心の豊かさ』です。




両親への愛。
ハクへの愛。

周りの人から受ける
恩への感謝の気持ち



不思議なことに


千尋に深く関わった
キャラクターはみな


「愛や慈しみ」を持っています。



ハクの優しさ。
リンの優しさ。
カマジイの優しさ。
ゼニーバの優しさ。


この人たちの愛に導かれ
千尋の心は豊かに育った



というわけです。



千尋はこの形無きモノの力で


不思議な世界を変えていきます。



さぁ、僕は最初に


この不思議な世界を


「バブル崩壊後の失われた10年」と


定義しましたね。




つまり



宮崎駿監督がカオナシや様々なキャラクターを使って、具現化したかったメッセージはこれではないでしょうか?



物質的な豊かさとは全て虚構であり、本当に大切なのは心の豊かさだ。


心の豊かさこそが混沌とした世の中を切り開いていく鍵になるのだ。




そんなふうに



荒廃した日本を背負っていく世代に



本当の意味での豊かさを



諭してくれているような気がします。










■⑥生きる力の再生■




千と千尋の神隠しで


宮崎駿監督が描きたかったこと




それは



『生きる力の再生』です。






バブル崩壊後の
失われた10年に


あぶり出された
今の日本の本当の姿




そんな混沌とした時代においても



今後の日本を背負っていく世代に


自分という人間を
決して見失わずに


強く生きていってほしいという願いだと僕は思います。




『生きる力をもつ』とは



『心の豊かさをもつ』ことです。




物質的な豊かさ至上主義の時代は


終焉を迎えました。




『心の豊かさ』の価値の復権です。






最後に千尋は両親とともに



トンネルをくぐり



現実の世界に帰ってきます。



道には草が生い茂り
車は埃にまみれてます


相当な時間が経っているようです。





「失われた10年」が


明けたんですね。


きっと。




ピカピカの高級外車も


時が経てばボロボロになります。




でも千尋が不思議な世界で育んだ


『心の豊かさ』は



時が経っても決して
消えることはありません。




『心の豊かさ』をもった



子供たちが



日本を変えていくんです。




ラストシーン



ゼニーバからもらった


髪留めがキラリと光り輝きます




あれが、



明るい未来への願いだと






僕は信じたいですね...








【fin】





僕は「千と千尋の神隠し」を
このように紐解きました。


もしあなたが僕と全然違う解釈を持っていて、この考察に違和感を感じるとしたら



それはとても素晴らしいことです。


観た人の数だけ解釈がわかれるのは、それだけ作品に無限の可能性があるという証です。



そもそもこういったものに
正解もハズレもありません



これはあくまでも


千と千尋の神隠しを観て


僕が感じたことであり


この解釈をみなさんに押し付けるつもりは微塵もありません。



もし仮に


あなたがこの考察に
同意したのだとしたら


僕とあなたの価値観には
重なる部分があるという



たったそれだけの話なんです。





いろんな読み取り方があるから


世の中はおもしろいんです。



長文・乱文失礼いたしました。




PRINCE.YK