秋華賞は振り返りがいのある好レースだった。

 

どの馬もみんなデアリングタクトに抵抗した。

無敗のクラシック三冠牝馬という日本競馬史上初の存在に

対してどの馬も挑みかけた。勝てないと白旗をあげ、

デアリングタクトは気にせずというスタンスがなかった。

 

内枠から先行したのはトライアルレースを制した

馬たち。マルタ―ズディオサが引っ張り、リアアメリアが

その直後につけ、自分が残ろうと抑えたりせず、

あくまでデアリングタクトを倒すためにレースをつくった。

早めに同馬が進出するとそれを突き放そうと

先行勢は苦しいところであっても動いた。

結果は大敗だったが、やるべきことをやった上での

着順、気にすることはない。

 

後方に控えたソフトフルートは道中でデアリングタクトが

外目を走るとそのさらに外を走り、同馬が3角で

ロスを避けるように内に少し寄せると、マネするように

内へ行く。ターゲットの動きに合わせる徹底ぶり。

まさにスナイパーのようだった。4角で8頭分ぐらい

外を回ったことで脚力及ばずだったが、この馬も

すべきことはやり遂げた。

 

2着にきたマジックキャッスルはオークス5着馬。

当時は瞬発力の差でデアリングタクトに進路を奪われ、

切り替えるロス。そこからまた伸びて5着と

悔いが残る敗戦。

それを秋華賞で忘れていなかった。

代打で乗った大野拓弥騎手はとにかく進路を

頑なに守り通した。勝負所で外から押され内から

張られて進路を失いかけたが、それを決死の覚悟で

突っぱねて最後まで進路を守り抜いた。

視界が開けた淀の直線を最後までしっかりと

走りぬき、春のうっ憤を晴らせた。

ただ前にいたデアリングタクトを捕らえられるような

場面はなかった。

力負けだが、力を出し切った負けは

必ず次にいきる。

 

ライバルたちの決死の挑戦をすべて退けた

デアリングタクト。文句なしの無敵の女王。

 

日高に希望を与える偉業達成。

 

ノーザンFとは無縁な方面から生まれた

最強牝馬。

 

競馬がつまらないという嘆き声が聞こえる

昨今にも希望となろう。

 

さあどの馬が強いのは決めよう。

古馬の女王たちかデアリングタクトか

はたまた菊花賞に挑むコントレイルなのか。

 

かつて胸躍り、緊張してしまうような競馬があった。

 

最強馬決定戦を実現してほしい。

 

打倒デアリングタクトを掲げ、

各馬がやるべきことをやった競馬は

後世に語り継ぐに値する、醍醐味の詰まった

好レースだった。

 

一度と言うわず、二度三度と

こんなレースを見たいと思うのは

少し欲張りだろうか。