大学4年の冬、初めて勤めたコンビニは勝どきにある小さな店だった。銀座から流れてくる客がいて立地条件が良く、昼夜を問わず地下鉄工事が行われていたため、夜勤の時間帯も忙しい店だった。先輩が競馬好きで夜勤明けに競馬場へ行ったこともあった。
私のコンビニキャリアはそこから始まった。
勝どきの店を辞めた頃は大学卒業していて、夢見る演劇青年だった。つまりはフリーター。次のバイトも自然とコンビニで清澄にあった。夜勤を少しやったが、生活サイクルに苦しみ、日勤へ転向した。勝どきの店の半分ぐらいの売上で暇な店だった。発注業務にレジ精算、売場作り、銀行送金など店長のような仕事をそこで覚えた。やがて地下鉄が開通して店が軌道に乗った。バイト仲間も沢山いて、シフトが終わってからはバックヤードでバカ話に花が咲いた。
新しい店長とソリが合わず、その店を辞めた。私は次もコンビニを探した。再び勝どきに戻ったが、以前の店ではなかった。そこの店はアルバイトが店の運営を自主的に行うような変わった店で、私が前の店で磨いたスキルが役立った。日々残業だったが、きちんと残業代も出た。
不満はなかったが、清澄の店で知り合った人から手伝って欲しいと請われて店を辞めた。次は船堀の店だった。その頃はもう店長のような立場になっていた。
村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を読んだ。芥川賞らしからぬ軽妙な作風ながら現代的な人間風景を描いた作品だった。
私も同じようにコンビニから出られない人間だったので、共鳴する部分も多かった。主人公のようなコンビニマシンではなかったが・・・。それでも他の店へ行って、商品陳列を直したい衝動に駆られる事は数え切れない。
私がコンビニを離れてからコンビニも様変わりしたように思う。それは私が離れたからそう見えるのであって、中にいれば自然な変化としか思わなかったであろう。コンビニに流れる途切れる事ない時間の流れの心地よさ、それに頷く私もかつて立派なコンビニ人間だった。