JR武蔵野線船橋法典駅を降り、駅前のスタンドで競馬新聞と赤ペンを買って逸る気持ちを抑えるように灰皿の前でタバコに火をつける。今何レースなのか横目でモニターを確認する。
待ち合わせの人たちの楽しそうな会話が聞こえる。
私は余り誰かと競馬場に行かない。以前は妻を連れて行ったこともあるが、子供が出来てからは行かなくなった。子連れを見ると、一緒に連れてこようかと思う事もあるが、いやいやとそれを打ち消す。私にとって競馬場は一人で行くところだからだ。男一人、一匹狼を気取れる場所はそうはない。競馬場はそういう貴重な場所だ。誰にも相談せず、一人で決め、一人で責任を取る。男の醍醐味が待っている。

タバコを灰皿に投げ捨て、地下道を進む。逸るな逸ったら負ける。早足になる自分に言う。
歩くエスカレーターは決して歩かない。じっと止まり、追い抜いていく人々をやり過ごす。
やがて、内馬場を通り過ぎてスタンドに入る。地下スタンド入ってすぐにある喫煙所に入る。
すぐにでもパドックへ行くエスカレーターを駆け上がりたい。
タバコを吸いながら競馬新聞を開き、これから始まるレースの馬柱を眺める。買うべきか見送るべきかを決めねばならない。
競馬場に行けば最後、買えるレースは全部買うなんて事は昔の話。それで何度痛い目に遭ったか。自らを省み、過去の経験から学んでこそである。

買うにしても見送るにしても、まずはスタンドへ出る。
エスカレーターに身を任せ、視界に段々と馬場が見えてくる。実に美しい緑と広い空。この瞬間を楽しみに私は一週間頑張ってきた。云わば最高の褒美だ。
表に出て、手すりに手を掛け、深呼吸をする。喜びの絶頂と同時に立ち込めてくる逸る気持ちを封じるように。

それからは競馬に没する。
買うべきか見送るべきか、買うならどの馬を軸にし、どの馬へ流すのか、一人黙々と考える。単調な繰り返しこそ男の仕事。目移りは禁物。周りのオジサンたちの予想に耳を傾けてはいけない。集中が試される。

やがて最終レースを迎える。
その時、鳥千のフライドチキンを食べているかいないかで私の勝負は判定される。
メインレースを見て帰る人の気持ちは私には分からない。
最終レースの風景はたまらない。勝ちたい騎手たちが早仕掛けをし、今までとは真逆の差し競馬になってしまう。人間味溢れる姿だ。
私は最終レースに強い。それまで負けていて追い詰められた時、普段は絶対に出せない集中力を発揮できる。この時、もう周りは気にならない。話しかけられる相手がいないのは実に都合がいい。

1日かけた己との戦いに勝てば、悠々と地下道を引き上げて行く。帰って家族と外食でもしようかと歩くエスカレーターをドンドン進む。
負けた時は負けた時。正門から外へ出て徒歩で西船橋駅へ向かう。ゆっくりと1日を振り返らねばならないからだ。春は桜並木に慰められ、冬は木枯らしが吹き付ける。暮れには眩しそうにイルミネーションをひと睨み。

これぞまさに男の休日。家族を忘れる日だってあっていい。