17 なんだ、これは!
今考えると栄養状態は極度に悪く、凍死寸前の状態だったのです。食べ物が欲しい。着るものが欲しい。誰か話し相手が欲しい。頼る人が一人でもいてくれれば。お金はみるみる底をついていき、孤独、辛さに、このまま生き続けられるのだろうか。不安のどん底に陥りました。父が、やっとの思いで作ってくれたお金、周りの反対を黙って押し切ってくれたこと。あの拗ね顔を思い出すと、おめおめと島へ戻る訳にもいかず、自分自身が情けなく、疲れ果てたある日、一人で天井を見つめ、孤独を噛みしめながら、何気なく手を胸に当ててみました。「なんだ、これは!」思わず、声が出ました。これだけ辛い思いをし、苦しく悲しんでいるはずなのに、鼓動は平常通り、何事もなく、すがすがしい響きで脈を打っていたのです。身も心も一心同体、体全体で苦しんでいるはずが、孤独、寂しさ、辛さは、精神だけの問題にすぎず、鼓動は平常通り淡々と打ち続ける。私にとっては、生まれて初めての悟りで、自分の精神がいかにひ弱なのか、情けなくなりました。強い心が欲しい。よーし、生き延びてみせる!自分にとって、後戻りはできない。辛くても前へ進むしかない。こう心に固く誓いました。以後、生涯、精神と鼓動の葛藤が続くようになったのです。後の 鼓動哲学、原点は二十歳(はたち)の悟りでした。