渥美清さんと秋野太作さん | 谷口礼子オフィシャルブログ「じゃこのおもしろいこと」

八重洲ブックセンターで行われたトークショーを観覧してきた。

「私が愛した渥美清」という本を出版された俳優の秋野太作さんと、映画史・時代劇研究家の春日太一さんのトークショーだ。

 

こないだ突然緑川さんからメールが来て、URLだけが貼りつけられていたのを開いたら、このトークショーのお知らせだった。

私が「男はつらいよ」が好きなのを緑川さんはよく知っていて、情報をくれたのだ。

 

秋野太作さんは「男はつらいよ」の映画の初期に出ていらっしゃった。実は映画の前身であるテレビ版の「男はつらいよ」から、レギュラー出演していらしたのだという。若かりし頃の秋野さん(津坂匡章さんというお名前だった)が、渥美さんとどんな交流をしたのか、どんなエピソードがあってどう感じられたのか、という、本の中の一部をさらに詳しく語ってくださった。

俳優座の新劇俳優でありながら、下町生まれで喜劇が好きな秋野さんが、軽演劇出身の渥美さんに出会ってカルチャーショックを受けたお話から・・・。

それは、ちょっと突っ込んだ演技論でもあったり、秋野さんの芝居観でもあったりして、役者の大先輩が私たちに語り掛けてくれるようでもあり、この人が渥美さんと繋がっているのだと思うと、私はとても胸がいっぱいになってしまった。

 

秋野さんが著書にサインを入れてくださるというので、列に並び、わたしの名前を書いていただいた。

わたしは、

「「男はつらいよ」に影響を受けて、舞台の俳優をしています。それから、旅のライターをしています。あまり売れていませんけれど、頑張ります。今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。」

と震えながらやっと言って、握手してもらった。

秋野さんは顔をあげて私の顔を見てくれて、明るい表情で「ああ、そうなんですか!」とおっしゃった。

わたしは「お元気で」と言って、本を受け取って帰った。

 

緊張と感動で、涙が出て、帰り道、泣いた。

はじめて「男はつらいよ」を見たのは、渥美さんがなくなった、わたしが中学1年生の時。20年以上前だ。

私はセーラー服を着て、「男はつらいよ」が撮影された松竹の大船スタジオのむこう、鎌倉まで電車通学していた。

20年後、こんな東京のど真ん中で、こういう話を聞く大人になれるとは、ぜんぜん思えなかった。

そう考えたら、ありがたいようなせつないような、何とも言えない気持ちだった。

 

いつかまたお会いできたら、その時はお仕事でお会いしてみたい。

がんばっていきたい。