「部屋」が、世界の全てだった。

「ルーム」を鑑賞。

見る側の
想像力を強く刺激する作品でした。

監督は、「フランク」のレニー・アブラハムソン。
原作「部屋」の著者であるエマ・ドナヒューが、脚本も手掛けています。


 


「フランク」は嫌いではないけれど、ちょっと不思議過ぎたので・・。

多くの話題作の中から先に見るべきか悩んで
普段見ない宣伝やレビューを見た結果、

余計な先入観を持ってしまったことは否めない。

そういうプロセスで見た、私の感想であり

未見の方にとっても余計なネタバレにならないよう、努力して
書きたいと思います。


 
 
まず、今作は
それほど
サスペンスフルでは、ないです。

魂が慟哭するような衝撃も、ない。

私の印象では、
最後までびっくりするくらい、予想通りの展開でした。


似たような状況(狭い空間から脱出する)とか
人間の関係性や事件性などを含め

本当にサスペンスフルな、
他の優れた作品と比較したり、期待してしまうと、拍子抜けする。 

そういう類の作品ではないです。


作者が脚本を担当しており、
おそらく
原作に忠実なのであろう
生活の背景とか脱出時のシチュエーションにも、

疑問を感じるような
突っ込みどころは、ままありました。

あくまで私の見方なので
見る人によるとは思いますが。


 
 
しかし
つまらない作品というわけでは、決してなく

揺さぶられる、というより
心に静かに浸透してくるのは、
母と子の、

特に息子ジャックにとっての、
すべての世界である「ルーム」、この部屋の世界観。

普通ではないからこその、神聖で、純粋な世界。

それがすべてに、
部屋を出てからの世界にも
つながる、静謐な作品でした。


息子、ジャックを演じるジェイコブ(トレンブレイ)くんの
目線で
ほぼ彼の目から見た

二人の小さな世界と、新しい大きい世界と、
母へ想いが、描かれていて

視覚的に優れた構成は、素晴しかったです。


 

                 ジェイクと同じ名前のジェイコブくんが、可愛い。ハート

当然
ジェイコブくんが担う作品の中の
ウエイトは、最後までとても大きいのですが、
役者として、本当にしっかり重責を果たしている。

この年で
あの力量はなんなんでしょうか。彼の将来が本気で心配になりました。

自然な愛らしさに、観客は度々救われます。

「部屋」しか知らない息子のために
未来への
前向きさと、優先順位を失わずに

賢く、ひたすら愛情深い母親、ジョイは
この環境下では、非現実的に思えるほど。

前に見た、「ワイルド」における母親とも重なって、
泥の中で必死に根をはって生きている花のようで

究極の母親像といえるのかもしれません。


 


小さい子供にとっては、親が世界のすべて。

その親を、なんとしてでも守ろうとするけなげな思いは、
親の子に対する思いよりも、
ずっとずっと、大きい。

昔、子供だったすべての大人は、
幼いジャックの心に、
きっと、よりそってしまう。

そして、同時に
誰もが、赤ちゃんのようにピュアなジャックを、
親目線で励まし、応援してしまうのではないでしょうか。

そういう意味で、サスペンス要素よりも
彼の言動自体に
ドキドキ、ハラハラさせられる。


 

また
音や気配や、
ジャックが見た景色など、

五感に訴える
映画ならではの表現が
独特の臨場感を持って、見る側の想像力をかきたてます。

重くなりがちなところも
婉曲的な表現と、「部屋」の世界観でカバーされており

そういう意味でも、非常に万人向けな作品。

受け止め方は異なると思いますが

脱出の時も
あえてサスペンスな、緊張を高め過ぎる演出を
避けたような印象を受けました。 

むしろ
センセーショナルで過酷な設定が
単調にも思えるあっさりした展開を、引っ張っている。

TIFFでは
観客賞を受賞し、総じて批評家よりも
一般の人に、より評価が高いのが、わかる気がしました。


  


今作で
初ノミネートにしてオスカーを
手にしたもう一人の主役、母親役のブリー・ラーソン。


頼れる体育会系女子な雰囲気と、
華やかなのに
近所にいそうな、親しみやすさが素敵なんですね。

体当たりて、どすっぴんで、
なりふりかまわない感じも、優秀な俳優さんに
必須条件であるプロ根性を感じさせます。


先日見た「ショート・ターム」での
リアルな現場感にも驚いた。

たたずまい自体が、
器の大きさのようなものを感じさせる人ですよね。

複雑な役柄でも体現してしまう
それこそ母のような包容力。



 
 撮影風景

一転、
「部屋」から出た後の世界は
急に現実的で、リズムが変わって、展開が早くて。

なので余計に、こんなに普通なわけない、みたいな
どんでん返し要素を勘ぐり過ぎて

物足りなさを感じた部分は、正直言ってありました。
色々とあっけなくて。

しかし

傷ついた人が
さらに傷つけられる二重被害だとか

必要とする人に、提供されるはずの
繊細な支援のあり方とか

問題を、ダイレクトに伝えるメッセージ性は、強く感じられました。

それと
母親ジョイの父親、ジャックの祖父を演じたウィリアム・H・メイシーが
少ない出番ながら
非常に現実感のある父親像を実力通りに演じていました。

父親も娘も、
ジャックも、それぞれが

善悪に関係なく、
未知の恐怖から逃れられる所に帰りたいと願ってしまう。

それは
むしろ自然な心理で、単純な理屈では人の心は割り切れないんですよね。 

原作が、かなり気になりました。


 


逃げずに
向きあうことが出来た時

辛く哀しい
傷であっても、壁であっても
人は、乗り越え克服し、

忘れることはできなくても
前に向かうことは、出来る。 
きっと。

バイバイ、「ルーム」。キラキラ   バイバイ「世界」。 バイバイ・・・・。

周りの世界に語りかける

ジャックの天使のような声と
母親ジョイのつぶやきは、希望に続いていて。

もう少し
この親子を見ていたいような、余韻を残した幕切れでした。



キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ



ちなみに・・・

 
                              カフェオレとハート


サロンシネマ2で、初日のこの日は
ぎりぎりでなんとか座れましたが、満席完売。 次の回も完売。

休日とはいえ、これは予想外で、
最前列でスクリーンの熱気を感じながら ・・・。汗

劇場鑑賞の醍醐味を堪能しました。はーと




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