*ニコラ君の新学期 ー恥をかかなくて済んだ話ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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恥をかかなくて済んだ話

 今日は午後、ボクらのパパとママが授業参観に来るんだ。それで、授業中、ボクらはすごくそわそわしてた。女先生の説明だと、先ず校長先生がパパやママを校長室で出迎え、いろいろ話をして、その後、ボクらの教室に連れて来るってことだった。

 「皆さんが、とてもお利口にするって約束すれば」って先生は言った。「ご両親がいる間は、皆さんに質問してご親御さんの前で恥をかかせるようなことはしません。」

 勿論、ボクらはお利口にするって約束して、すごく嬉しかった。アニャン以外はね。アニャンはクラスの一番だから、パパやママの前で質問してほしかったんだろうな。でも奴はルール違反だよ。だってしょっちゅう勉強してるんだもの。そんなわけで、抜け目がなくて、いつでも何でも知ってるんだ。それから先生は、親が来るからといってボーっと待っているわけにはいかない、これから先生が黒板に書く問題を解いてみなさいって言ったんだ。すごい問題だったんだよ。山ほど卵を産む沢山の黒い雌鶏と白い雌鶏を飼っている農夫がいるんだ。それから先生はその黒い雌鶏たちと白い雌鶏たちが一回で産む卵の数を説明して、ボクらは1時間47分後に全ての雌鶏が産む卵の数を考えなきゃいけなくなったってわけ。

 それから、先生が問題を書き終わるとすぐに教室のドアが開いて、ボクらのパパとママと一緒に校長先生が入って来たんだ。

 

 「起立!」って女先生が言った。

 「着席!」って校長先生が言って、「ここが、お子さんたちが勉強している教室です。みなさん、殆どの方がもう担任とはお知り合いだとおもいますが…」って言った。

 すると女先生は父兄の一人一人と握手をした。パパやママたちはニコニコ顔で、指を動かしたり、目を細めたり、うなずいたりしてボクらに挨拶を送ってきた。

 教室は人で一杯だった。パパやママが全員来たわけじゃないけどね。警官をやってるリュフュのパパは来られなかった。その日は当番で、警察署に詰めていなきゃならなかったからだ。ジョフロワのパパとママもいなかった。でもジョフロワのパパは、すごい金持ちでとても忙しい人なんだけど、代わりにお抱え運転手のアルベールを参観に寄越したんだ。アニャンのパパも来られなかった。噂だと、アニャンのパパはしょっちゅう働いていて、土曜の午後も仕事をしてるんだって。でも、ボクのパパとママは来てくれた。二人ともニコニコ顔でボクを見ていたんだ。ママは全身ピンク、すごく綺麗だった。それでボクはすごく鼻が高かったんだ。

 「ところで、先生」って校長先生が言った。「お子さんたちの進み具合についてご父兄の方々に少しお話していただけると思うのだが…褒めるにしろ、叱るにしろ、ケース・バイ・ケースってことで。」

 その言葉で、みんな笑ったんだけど、クロテールのパパとママは別だった。クロテールはクラスのビリで、奴の家では学校の話がでると笑った例(ためし)がないのさ。

 「そうですね」って先生は言った。「嬉しいことに、今月お子さんたちは勉強の面でも素行の面でも本当に努力してくれたと思います。私はお子さんたちにたいへん満足しております。少し遅れ気味のお子さんもいらっしゃいますが、きっとやる気を出してお友だちに追いついてくれると思いますわ。」

 クロテールのママとパパはクロテールを睨みつけた。でもボクらはすごく嬉しかったんだ。女先生はステキなことを言ってくれたんだもの。

 

 「では授業を続けてください、先生」って校長先生は言った。「きっとご父兄の皆さんは、お子さんたちが勉強する姿を見て喜ばれると思いますよ。」

 「実は」って女先生が説明した。「生徒さんたちにちょっとした問題を出したんです。先ほど黒板にその問題文を書き終えたところです…」

 「それを私はさっき見ていたんですよ」ってクロテールのパパが言った。「易しそうには見えませんな、その問題は…」

 「362個になりますよ。」ってアルセストのパパが言った。

 するとパパやママたちは一斉にアルセストのパパの方を向いた。アルセストのパパは太っちょのおじさんで、顎が何重にもなってるんだ。するとジョアシャンのパパが言った。

 「お言葉に逆らいたくはないのですがね、でも一見したところ、お間違いになったように私には思えるのですが…ちょっと失礼…」

 そう言って、ジョアシャンのパパはポケットから手帳を出してペンで何かを書いたんだ。

 「ええと…ええとですな…」ってジョアシャンのパパは言ってた。「黒い雌鶏は4分毎に卵を産みます…9羽の黒い雌鶏がいて…」

 「362個ですよ。」ってアルセストのパパは言った。

 「7420個ですな。」ってジョアシャンのパパが言った。

 「いや違います!412個だ。」ってメクサンのパパが言った。

 「どうやって答えを出したんです?」ってウードのパパが訊いた。

 「代数を使ったんです。」ってメクサンのパパが答えた。

 「何ですって?」ってクロテールのママが訊いた。「子供たちに代数をやらせてるんですか?この年齢で?何であの子たちが授業についていけないのか今分かりましたわ。」

 「いや違いますよ」ってアルセストのパパが言った。「これは単純で簡単な算数の問題です。答えは362個です。」

 「なるほど、多分単純な算数でしょうな」ってメクサンのパパがニッコリ笑って言った。「でもあなたは間違われたわけだ。」

 「間違い?間違いですって?どこが間違ってるんです?」ってアルセストのパパが訊いた。

 

 「先生!先生!」って人差し指を立てた手を挙げてアニャンが言った。

 「黙りなさい、アニャン!」って先生は大声で言った。「発言は後になさい。」

 先生は困ってるようだった。

 「私も412個になりましたよ」ってボクのパパがメクサンのパパに言った。「あなたと同じ答だ。」

 「ああ!」ってメクサンのパパが言った。「勿論ですよ。一目見りゃ分かる… おや… ちょっと待ってください… こりゃ計算違いだな… 卵は4120個だ… 小数点を打ち間違えてました!」

 「おやまあ!私もだ!」ってパパが言った。「その通り。4120個。それが答です。」

 「何とでもおっしゃるがいいわ。でも、すごく難しい問題よ。」ってクロテールのママが言った。

 「いや違いますよ」ってアルセストのパパが言った。「私の考え方を聴いてください…」

 「先生!先生!」ってアニャンが大声で言った。「ボクの答は…」

 「黙りなさい、アニャン!」先生はアニャンを睨みつけながら言った。

 それでボクらは驚いたんだ。だって、先生がアニャンを睨むなんて滅多にないことだからさ。なにしろ奴は先生のお気に入りなんだからね。それから先生はボクらのパパやママたちにこう言ったんだ。これで授業の進め方がお分かりになったと思います。テストではきっとみんな良い点を取ってくれると思いますわってね。すると校長先生が、そろそろ退出して頂く時間ですって言った。それでパパやママたちは先生と握手をしてボクらにニッコリ微笑みかけた。クロテールのパパとママは最後にもう一度クロテールを睨みつけて、父兄はみんな教室を出て行った。

 「みんなとてもお利口にしてくれました」って先生は言った。「ご褒美に、この問題はやらなくてもいいことにしましょう。」

 それで、先生は黒板を消し、それから休み時間の鐘が鳴ったので、ボクらは教室から出た。でも全員じゃない。何故って、アニャンには話したいことがあるから教室に残るようにって先生が言ったからさ。

 ボクらは校庭に出ると、こう言ったんだ。約束を守ってくれたなんて、すごくステキな先生だな。パパやママたちの前でボクらに恥をかかせないでくれたんだものってね。

(ミスター・ビーン訳)

 

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