*ニコラ君の新学期 ー ボンボン ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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ボンボン

 今日の午後、学校から帰るとママがこう言ったんだ。

 「ニコラ、おやつが済んだら、悪いけど粉砂糖を500グラム買って来てちょうだい。」

 ママからお金をもらうと、ボクは大喜びで食料品屋に行った。なぜって、ボクはママのお手伝いをするのが大好きだし、店の親爺のコンパニさんはすごくステキな人だからさ。コンパニさんはボクを見かけるといつも何かくれるんだ。ボクが一番好きなのは、大箱の底に残っているビスケットなのさ。割れてるけどまだすごくおいしいんだよ。

 「おや、ニコラじゃないか!」ってコンパニさんは言った。「いやあ、いいところに来たな。君にすごくいい物をあげるよ!」

 そう言って、コンパニさんはカウンターの後ろで身体をかがめ、また立ち上がると両腕に猫を一匹抱えていた。まだほんの子猫で、すごく可愛くて眠っていたんだ。

 「この子はビスコットの息子だ」ってコンパニさんは言った。「ビスコットは4匹子供を産んだんだが、全部は飼えないからね。でも子猫を殺したくはないから、君のような優しい男の子にあげる方がいいと思ったのさ。それで、おじさんが3匹手元に置いて、このボンボンを君にあげるよ。ミルクを飲ませて、よく面倒を見ておくれ。」

 ビスコットって言うのは、コンパニさんが飼っている雌猫だよ。すごく大きくて、しょっちゅうショーウィンドーの中で眠ってるんだけど、絶対に箱を落としたりはしないんだ。撫でても大人しくて、爪を立てたりはしない。「ゴロゴロ」って喉を鳴らすんだ。

 ボクは、言葉に出来ないほど嬉しかった。両腕にボンボンを受け取ると、ボンボンの体はすごく熱かった。ボクは走ってお店を出て、それからまた500グラムの粉砂糖を取りにお店に戻ったんだ。

 

 家に入ると、ボクは大声で言った。

 「ママ!ママ!見て、コンパニさんがボクにくれたんだよ!」

 

 

 ママはボンボンを見ると、目を真ん丸にして、眉毛を吊り上げてこう言ったんだ。

 「まあ!猫じゃないの!」

 「そうさ」ってボクは説明した。「ボンボンて言う名前でね、ビスコットの息子なんだ。ミルクを飲むんだよ。これからボクはこいつに芸を仕込むんだ。」

 「ダメよ、ニコラ」ってママは言った。「もう口が酸っぱくなるほど言ってるでしょ。ママは家の中で動物は飼いたくないの。これまでも犬や、それにオタマジャクシも連れて来たわよね。その度に大騒ぎになったじゃないの。ダメって言ったらダメなの!その子猫をコンパニさんに返してらっしゃい!」

 「ええ?ママ!だって、ママ!」ってボクは叫んだ。

 でもママは全然聞く耳を持たなかった。だからボクは泣いて、こう言った。ボンボンがいなけりゃボクも家になんかいない。もしボンボンをコンパニさんに返したりしたら、コンパニさんに殺されちゃう、そうなったらボクだって生きちゃいない。ボクには家で何もする権利がないんだ。でも友だちはボクが家で出来ないことを山ほどやらしてもらってるって。

 「それなら」ってママは言った。「すごく簡単な話だわ。ニコラのお友だちは何をしてもいいんだから、お友だちの一人にその猫をあげればいいってだけよ。だって、この家に猫は居られないんだからね。これ以上うるさく言うなら、今夜は夕食抜きで寝てもらいますからね。分かった?」

 

 それで、もうどうしようもないことが分かって、ボクはボンボンを連れて外に出た。ボンボンは眠ってたんだ。ボクはボンボンの世話をどの友だちに頼もうかって考えた。ジョフロワとジョアシャンは家が遠すぎるし、メクサンは犬を飼っている。ボンボンがメクサンの犬を好きになるとは思えない。それでボクはアルセストの家に行った。気のいい奴で、しょっちゅう何か食べてるんだ。

 本人が出て来て玄関のドアを開けてくれたんだけど、アルセストは首からナプキンをぶら下げて、食べ物を頬張っていた。

 「今、おやつなんだ」そこら中にパン屑をまき散らしながらアルセストはボクに言った。「何の用だい?」

 アルセストにボンボンを見せると、ボンボンは欠伸を始めた。それからボクは彼にこう言ったんだ。この子猫を君にあげる、ボンボンて言う名前でミルクを飲む、ボクもたびたび様子を見に来るからって。

 「猫かい?」ってアルセストは言った。「ダメだよ。親ともめちまう。それに、猫は見張ってないとキッチンに入って食べ物を沢山食べちまうしね。ショコラが冷めちまうな、じゃあね!」

 そう言ってアルセストはドアを閉めてしまった。それで、ボンボンとボクはリュフュの家に行った。ドアを開けてくれたのはリュフュのママだった。

 「リュフュに用なの、ニコラ?」そう言って、おばさんはボンボンを眺めていた。「今、宿題をやっているのよ… いいわ、待ってて、呼んでくるから。」

 おばさんが行ってしまうと、リュフュがやって来た。

 「ああ!すてきな猫だな!」ボンボンを見てリュフュはそう言った。

 「ボンボンて言う名前なんだ」ってボクはリュフュに説明してやった。「ミルクを飲むんだ。君にあげるけど、ときどきボクにも会わせてくれよな。」

 「リュフュ!」家の中からおばさんが大声で呼ぶ声が聞こえた。

 「待ってて、今行くよ。」ってリュフュはボクを前にして言った。

 リュフュが家の中に戻ると、二人の話し声が聞こえた。戻って来ると、リュフュは真顔になっていた。

 「ダメだよ。」ってリュフュはボクに言った。

 それから玄関のドアを閉めてしまった。ボクの方は、だんだんボンボンのことが心配になってきた。ボンボンはまた眠っちゃったんだ。それで、ボクはウードの家に行った。ドアを開けてくれたのはウード本人だ。

 

 「ボンボンて言うんだ」ってボクは言った。「猫で、ミルクを飲むんだ。君にあげるけど、ボクにも会わせてくれよな。リュフュとアルセストは親がうるさいから要らないって言うんだ。」

 「何てこった!」ってウードは言った。「オレは、家では好きにやれるんだ。親の許可なんて要らないのさ。猫を飼いたきゃ、飼うぜ!」

 「じゃ、飼ってくれよ。」ってボクは言った。

 「お安いご用だ」ってウードは言った。「許可なんて要らないさ、マジな話!」

 それでウードにボンボンを渡すと、ボンボンはまた欠伸をした。それからボクは帰ったんだ。

 家に帰ると、ボクはすごく悲しかった。だってボンボンが大好きなんだ、ボクは。それに、ボンボンてすごく利口そうに見えたしね。

 「ねえ、ニコラ」ってママがボクに言った。「そんな顔をするもんじゃないわ。あの子猫ちゃんはこの家にいても幸せじゃなかったのよ。さあ、もうそのことは忘れて二階に行って宿題をやってちょうだい。夕食には、美味しいデザートが出るわよ。それから、いいこと、特にパパにはこのことは絶対内緒よ。この頃パパはとても疲れているの。だからパパが帰って来たとき、つまらない話で煩わせたくはないの。たまには静かで落ち着いた晩を過ごしましょう。」

 夕食を食べているとき、パパはボクを見つめてこう訊いたんだ。

 「おや、ニコラ?浮かない顔をしてるな。どうしたんだ?学校で嫌なことでもあったのかい?」

 ママがボクを睨みつけたんで、ボクはこう言っておいた。何でもないよ。この頃すごく疲れてるんだって。

 「パパもだよ」ってパパは言った。「きっと季節の変わり目のせいだな。」

 すると玄関のベルが鳴った。ボクが立ち上がって出ようとすると-ボクは玄関のドアを開けに行くのが大好きなんだ-パパが言った。

 「いや、いいよ。パパが出るから。」

 パパはテーブルを離れ、帰って来ると両手を背中の後ろに隠してニコニコ顔だった。それからママとボクにこう言ったんだ。

 「当ててごらん、クロテールがニコラに何を持って来てくれたか?」

(ミスター・ビーン訳)

 

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