やった!テレビが来るぞ!
やった!家にテレビが来るんだ!クロテールの家にあるようなテレビさ。クロテールって言うのはクラスメートでクラスのビリなんだ。でもすごく優しい奴だよ。クロテールがビリなのは、算数と文法と歴史と地理が苦手だからだけど、図画は一番ましな科目でビリから2番なのさ。だってメクサンが左利きだからね。パパは猛烈に反対してた。テレビのせいでボクが勉強しなくなるとか、ボクもクラスのビリになっちゃうとか言ってね。それにテレビは目に悪いし、家族の間で会話がなくなるし、もう決して良い本を読まなくなるとも言ってたな。それからママが、結局テレビを持つのはそれほど悪い考えじゃないって言った。それでパパはテレビを買うことに決めたんだ。
今日は、そのテレビが届くんだよ。ボクはすごく待ち遠しかったけど、パパは何でもない振りをしてる。でも本当はパパも待ち遠しいのさ。特にお隣のブレデュールさんにテレビが届くって伝えてからはね。ブレデュールさんちにはテレビが無いのさ。
とうとう配達のトラックがボクらの家の前に来たんだ。トラックからテレビを抱えて出て来るおじさんの姿がみえたけど、テレビはすごく重そうだった。
「こちらでよろしいんですかね、テレビは?」っておじさんが訊いた。
パパはそうですって答えたけど、家に入る前に少々待ってくれるように頼んだ。パパはボクの家の庭とブレデュールさんの家の庭を仕切っている垣根に近づいて叫んだのさ。
「ブレデュール!見に来いよ!」
ブレデュールさんは、きっと窓からボクらの様子を窺っていたにちがいない。すぐに出てきたよ。
「私に何の用だい?」ってブレデュールさんは言った。「ろくに落ち着いて家にいることも出来やしない!」
「うちのテレビを見に来いよ!」って大威張りでパパが叫んだ。
ブレデュールさんは別に急ぐ様子もなくやって来たんだけど、ボクには分かってるんだ。ブレデュールさんは興味津々だったのさ。
「ちぇっ!」ってブレデュールさんは言った。「えらく画面が小さいな!」
「画面が小さい!」ってパパが答えた。「えらく画面が小さいだって?少し頭がおかしいんじゃないか?画面は54センチあるんだぜ!さては妬いてるな?図星だろ!」
ブレデュールさんは笑い出したけど、全然嬉しそうな笑いじゃなかった。
「妬いてる?この私が?」
ブレデュールさんは笑ってこう言った。
「テレビを買うつもりなら、とっくの昔に買ってたさ。うちにはピアノがあるんだよ、君!うちにはクラシックのレコードがあるんだよ、君!蔵書もあることだしな、君!」
「よく言うぜ!」ってパパは大声で言った。「君は妬いてるんだ。それだけの話だ!」
「ほう、そうかね?」ってブレデュールさんが言った。
「そうとも!」ってパパが答えた。するとテレビを抱えていたおじさんがこう訊いたんだ。長くかかりそうですかね?テレビは重いし、他にも配達先が何軒かあるんですよ。
それまでみんなおじさんのことはすっかり忘れていたんだよ。
パパはおじさんを家に入れた。おじさんは顔中汗だらけだったんだ。テレビは本当にすごく重そうだった。
「テレビはどこに置いたらよろしいですかね?」っておじさんが訊いた。
「そうねえ」ってママが言った。ママはキッチンから出て来てすごく嬉しそうだ。「そうねえ、どうしようかしら」。そう言ってママは口の端に指を一本当ててあれこれ考え始めた。
「奥さん」っておじさんが言った。「早く決めてください、重いんですよ!」
「あそこ、隅の小テーブルの上だ。」ってパパが言った。
おじさんがそこに行きかけると、ママがダメ出しをした。家にママの友だちが来たとき、あのテーブルはお茶を出すのに使うって言ってね。おじさんは立ち止まって大きなため息をついた。ママは小型で一本足のあまり頑丈じゃない丸テーブルにするか、ライティングデスクにするか迷ったんだ。でも丸テーブルだと前に肘掛け椅子が置けないし、ライティングデスクだと窓があるので都合が悪いって具合にね。
「さあさあ、決めたかね?」ってパパがイライラした様子で訊いた。
ママは腹を立てて、せっつかないでちょうだい、特に人様の前でそんな口のきき方をしてほしくないわって言った。
「急いでください!手を放しちまいますよ!」っておじさんが叫んだ。それでママはすぐにさっきパパが言っていた小テーブルを指さしたんだ。
おじさんはテーブルにテレビを置くと、大きな声で「やれやれ」って言った。きっとテレビは本当に重かったんだと思うよ。
おじさんがコンセントにプラグを差して、たくさんあるつまみを回すと画面が点いた。でもクロテールの家のテレビのようにカウボーイやプロレスをやる不細工な大男が見えるかわりに、たくさんのチラチラひかる点が見えたんだ。
「これ以上上手く映らないのかね?」ってパパが訊いた。
「アンテナを接続しなきゃならないんです」っておじさんが答えた。「でもお宅で時間を取られ過ぎたんで、他の配達が終わったらまた戻ってきます。長くはかかりませんよ。」
そう言って、おじさんは行ってしまった。
ボクはテレビがまだ点かないのがとても残念だった。パパとママもそうだったと思う。
「さてと、当然の話だが」ってパパが言った。「部屋に行って宿題をしなさいとか部屋に行って寝なさいと言われたら、ニコラは言うことを聞かなきゃいけないよ!」
「はい、パパ」ってボクは言った。「でも、もちろん、西部劇のときは別だよ。」
パパは真っ赤になって怒って、こう言ったんだ。西部劇だろうが何だろうが、部屋に行けと言われたら行くんだ!それでボクは泣き出した。
「もう、あなたったら」ってママが言った。「何でそんな風にガミガミこの子を怒鳴るのよ、かわいそうに、泣かしちゃったじゃないの!」
「そうとも」ってパパは言った。「この子の肩を持つがいいさ!」
ママはすごくゆっくり話し始めた。ママが本当に怒るといつもこうなんだ。それでパパにこう言ったんだよ。思いやりをもったらどう?結局あなただってあのひどいサッカーの試合を観ちゃダメって言われたら嬉しくはないでしょうって。
「ひどいサッカーの試合だって!」ってパパは怒鳴った。「いいかね、君の言うそのひどいサッカーの試合を観るために私はテレビを買ったんだ!」
ママは、それはさぞかしお愉しみねって言った。その点、ボクはママの意見に賛成だった。だってサッカーの試合は素敵なんだもの!
「もちろんだ」ってパパは言った。「私は料理番組を見るためにテレビを買ったんじゃない。でもまあ、君には料理番組が大いに必要なようだがな!」
「私には大いに必要ですって?」ってママが言った。
「そうさ、君には大いに必要さ」ってパパが言い返した。「多分、昨日の晩のようにマカロニを焦がさない方法を覚えてくれるだろうからな!」
ママの方は泣き出してこう言ったんだ。こんな恩知らずな言葉をそれまで一度も言われたことはなかった、母(つまりボクのばあちゃんさ)の家に帰らせてもらいますって。ボクは何とか丸く収めなきゃって思った。
「昨日のマカロニは焦げてなかったよ」ってボクは言った。「焦げてたのは一昨日のピュレの方だよ。」
でも何の役にも立たなかった。3人ともすごくピリピリしてたからね。
「人の話に余計な口を挟むんじゃない!」ってパパが言った。それでボクはまた泣き出してこう言ったんだ。ボクはすごく悲しい、そんな言い方は酷いじゃないか、いいさ、ボクはクロテールの家に行って西部劇を見てやるって。
パパは、ママとボクを見つめると両腕を天井の方に挙げて、少し客間を歩いてからママの前に立ち止まった。それからママにこう言ったんだ。ピュレで自分が一番好きなのはお焦げのところだ、ママの料理はもちろんテレビの料理よりずっとおいしいって。ママは泣き止んで何回か小さな溜息をつくとこう言った。結局自分もサッカーの試合は大好きなんだってね。
「いや、いいんだ、いいんだ。」ってパパは言って、二人はキスをした。
ボクの方はこう言ったのさ。西部劇なんか見なくたって平気だよって。するとパパもママもボクにキスしてくれた。3人とも大満足だった。
あまり満足しなくて、すごく驚いた人が一人いる。それはテレビを配達してくれたおじさんさ。何故って、アンテナを繋ぐために戻って来ると、おじさんは、番組が気に入らないって言われてテレビを返されちゃったからだよ。
(ミスター・ビーン訳)