*ニコラ君の新学期 ークロテールの誕生日ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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クロテールの誕生日

プチ・ニコラ

 今日の午後、クロテールの家ですごいパーティーがあるんだ。クロテールはクラスのビリで、パーティーっていうのは彼の誕生日パーティーのことだよ。それでボクらクラス全員がおやつに招待されてるってわけ。
 クロテールの家に着くと、もうみんな来ていた。ママはボクにキスして、6時に迎えに来るって言った。それから、お利口にするのよって言ったんだ。勿論ボクは普段通りにお利口にするさって答えた。するとママはボクを見つめて、5時半に迎えに来られるかどうか確かめてみるって言った。
 玄関のドアを開けてくれたのはクロテール本人だった。
 「プレゼントに何を持って来てくれた?」ってボクは訊かれた。
 包みを渡してやると、クロテールは早速それを開けた。写真や地図が載っている地理の本だったのさ。
 「まあ、とにかくありがとうよ。」ってクロテールは言って、ボクをダイニングに連れて行った。そこにはおやつを食べに他の連中も来ていたんだ。
 片隅に、友だちのアルセストの姿が見えた。大食いの太っちょで、片手に包みを一つ持っていた。
 「あげなかったのか、君のプレゼントを?」ってボクは訊いた。
 「まさか」ってアルセストは答えた。「ちゃんとあげたさ。この包みはプレゼントじゃなくて自分用さ。」そう言ってアルセストは包みを開けると、中からチーズサンドを一つ取り出して食べ始めた。
 クロテールのパパとママもそこにいた。二人ともすごく優しい人なんだ。
 「さあ、子供たち、テーブルに着きなさい!」ってクロテールのパパが言った。
 みんなは椅子に向かって駆けだした。するとジョフロワは冗談にウードに足を引っかけたんだ。ウードはアニャンの上に倒れて、アニャンの方は泣き出したのさ。アニャンはしょっちゅう泣くんだ。でもウードに足を引っかけるなんて馬鹿な話だよ。だって、ウードはすごく強くて、相手の鼻にパンチを喰らわせるのが好きなんだ。ジョフロワも例外じゃなかった。それで、ジョフロワの奴は鼻血が出てテーブルクロスを汚しちゃったんだ。クロテールのママには迷惑な話だよ。なにしろ染み一つ無いテーブルクロスをかけていたんだからね。それに、クロテールのママはこういう悪ふざけは好きじゃなかったから、ボクらにこう言ったんだ。
 「もしお行儀よくしてくれないなら、ご両親を呼んですぐに家に連れ帰ってもらいますよ!」
 でもクロテールのパパが言った。
 「まあまあ、カッカとしなさんな。まだ子供じゃないか、楽しくて仕方ないのさ。じきお利口になるよ、そうだろう君たち?」
 「ボクは楽しくなんかありません、すごく苦しいんです。」ってアニャンが答えた。奴はそのときメガネを探していたんだけど、すごく弁が立つんだ。なにしろクラスの一番だからね。
 「ボクはプレゼントを持って来たんだ。だからおやつを食べる権利がある。おやつの前に帰されてたまるもんか!」ってアルセストは叫んで、チーズサンドの切れっ端を吐き出した。
 「みんな座りなさい!」ってクロテールのパパは叫んで、もう笑っちゃいなかった。

 ボクらはテーブルを囲んで席に着いた。クロテールのママがチョコレートを配ってる間、パパの方は頭に被る紙の帽子を配っていた。おじさんも赤いポンポンのついた水兵帽を被っていたんだ。

 「君たちがお利口にしていれば、おやつの後でおじさんが人形芝居をやってあげよう。」ってクロテールのパパが言った。

 「おじさんはそんな帽子を被ってるんだから、お道化をやるのは朝飯前だね(注:faire le guignolには「道化る」の意味もある)。」ってウードが言った。それで、おじさんはウードに紙の帽子を被せたんだけど、あまり器用じゃないんだ。だって、首のあたりまですっぽり被せちゃったんだから。

 おやつはケーキも沢山あってまあまあだった。それからロウソクを立てたバースデー・ケーキが運ばれてきた。ケーキにはホワイト・クリームでこう書いてあった。≪嘆生日おめでとう≫。クロテールの奴、鼻高々にこう言ったのさ。

 「これをケーキに書いたのはボクなんだぜ。」って。

 「みんなが食べられるように、ロウソクを吹き消してくれるか?」ってアルセストが言った。

 クロテールが吹き消すと、ボクらはケーキを食べた。でもリュフュはクロテールのママと一緒に走って部屋を出て行かなきゃならなかった。何故って、気分が悪くなっていたからだよ。

 「さて、おやつも食べ終わったことだ。みんなには客間の方に来てもらおう」ってクロテールのパパが言った。「これからおじさんが人形芝居をやるからね。」

 そう言って、おじさんは素早く振り向いてウードを見つめたんだけど、ウードは何も言わなかった。そのかわり、アルセストが口を開いてこう言ったんだ。

 「じゃ、何?おやつはこれで終わりかよ?」

 「客間に行きなさい!」ってクロテールのパパは怒鳴った。

 ボクは大満足だった。だって、人形劇が大好きだからさ。クロテールのパパってすごくステキなんだ!客間では椅子と肘掛け椅子が小さな舞台の前にもう並べてあった。

 「あの子たちをよく見てておくれ。」ってクロテールのパパがクロテールのママに言った。でもおばさんは、自分はダイニングの掃除をしなきゃいけないって答えて行ってしまった。

 「それじゃあ」っておじさんは言った。「静かに席に着いてくれよ。おじさんはこれから舞台の後ろに行って芝居を始めるからね。」

 ボクらは大人しく腰を下ろした。ひっくり返した椅子は一つだけだったんだから。でも、そこにアニャンが座っていたのは生憎(あいにく)だったな。奴はまた泣き出したのさ。それで幕が開いたんだけど、人形が見える代りにクロテールのパパの顔が見えたんだ。それも真っ赤になって不満そうな顔だ。

 「君たち、これから静かにしてくれるな!」っておじさんは叫んだ。

 するとウードの奴が拍手を始めてこう言った。人形の恰好をしたクロテールのパパはすっごくイカスぜって。おじさんはウードを見つめて大きなため息をつくと、顔を引っ込めちゃった。

 舞台の後ろで、クロテールのパパは3回手を叩いて、これから人形劇が始まる合図をした。幕が開くと、両腕に棒切れを抱えた人形が見えた。そいつは憲兵(注:警察業務も担当する)をボコボコにしてやろうと思っていたんだ。それでリュフュはむっとした。だってリュフュのパパは警察官だからね。ウードの方はがっかりしていたよ。クロテールのパパの顔が登場する第一部の方が面白いと思っていたんだ。ボクは人形劇はかなりの出来だと思ってた。それにクロテールのパパはとことん熱心にやっていて、棒切れを抱えた人形とその奥さんとの激しい口論を演じていたんだ。声色まで変えてね。それってきっと簡単なことじゃないよ。

 ボクは劇の続きは見なかった。何故って、アルセストはダイニングのテーブルに何か残ってないか見るために客間を出てったんだけど、戻って来てこう言ったんだ。

 「おーい、みんな!この家にはテレビがあるぜ!」

 それでボクらはみんな見に行ったんだけど、素晴らしかったよ。だって、その時間テレビでは鉄の鎧を着た人たちが登場するすごくステキな冒険映画を流していたのさ。それは昔のお話で、金持ちどもから金を盗んで貧しい人々に分けてやる若者が出て来るんだ。どうやら若者はとてもいいことをやっているみたいで、みんなにとても愛されていたのさ。若者から金を盗まれた悪人どもは別だけどね。ジョフロワはそのとき、お父さんから鉄の鎧を買ってもらった話をしていて、今度鎧を着て学校に来るぜって話してたんだけど、その途中、ボクらの後ろから大きな喚き声が聞こえた。

 「君らはこの私を馬鹿にしているのか?」

 ボクらが振り返ると、クロテールのパパの姿が目に入った。いかにも腹を立てている様子なんだけど、頭に水兵帽を被り、両手にそれぞれ指人形を嵌めてる姿はすごく面白かったなあ。でも、リュフュが思わず笑っちゃったのは拙かった。だってクロテールのパパから憲兵の人形を嵌めた手でビンタを喰らったからさ。そのせいできっとリュフュの奴は自分のお父さんのことを思い出したんだ。でも、嬉しくはなかったんだね。大声で泣き出したのさ。クロテールのママが一体何事が起きたのかと思ってキッチンから駆けつけると、アルセストの奴がまだ何か食べ物は残っていないかって訊いてた。

 

 

 「もうたくさんだ!静かにせんか!」って怒鳴って、クロテールのパパが拳でドンとテレビを叩くと、テレビは変な音を立てて消えちゃった。残念だったなあ。だってボクはそのときテレビを観てたんだけど、ちょうど若者が彼に金を盗まれた悪人どもの手で絞首刑にされるところだったんだ。彼ならきっと上手く切り抜けると思うけどね。

 

 

 クロテールのママはクロテールのパパに、落ち着きなさいよ、相手は子供でしょ、それに誕生パーティーをやってクロテールの仲良しさんたちを招待しようって思いついたのは結局あなたじゃないのって言っていた。クロテールの方はベソをかいてた。だってテレビがもう点かなくなっちゃったからさ。ボクらはみんな本当に楽しかった。でも、もう6時になってたんでパパやママが迎えに来て、ボクらを家に連れ帰ったんだ。

 その翌日学校で、クロテールはすっかりしょげていた。奴の話だと、ボクらのせいで自分は将来機関車を運転出来なくなるって言うんだ。奴の説明によると、自分は大人になったら機関車の運転士になりたかった、でも、昨日の誕生パーティーの後、自分はもう大人になれない、何故ってもう二度とおまえの誕生パーティーなんかやってやらないってパパに言われたからなんだって。

 

 

 

(ミスター・ビーン訳)

 

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