*星の王子さま 翻訳(第21章~第27章)* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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星の王子さま

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-星の王子さま序文

朗読 ベルナール・ジロドー 1時間9分55秒から 



第21章
狐が現れたのはそのときでした。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第21章(1)

「こんにちは。」と、狐が言いました。

「こんにちは。」と、王子は礼儀正しく答えて振り向きましたが、何も見えません。

「僕はここだよ」と、その声の主は言いました。「リンゴの木の下さ。」

「君はだれ?」と、王子。「君、とてもきれいだね...」

「僕は狐だよ。」と、狐が答えます。

「こっちに来て僕と遊んでよ」と、王子は誘いました。「僕はすごく悲しいんだ...」

「君とは遊べないよ」と、狐が言いました。「君に≪心を開かれて≫ないからね。」

「ああ!ごめん。」と、王子は答えました。

でも、じっと考えた後、王子はさらにたずねました。

「≪心を開く≫って、どういう意味?」

「君はこの辺の人じゃないね」と、狐は言いました。「何を探しているの?」

「僕は人間を探してる」と、王子は答えました。「で、≪心を開く≫って、どういう意味なの?」

「人間か」と、狐は言いました。「やつらは鉄砲を持っていて、狩りをする。全く困ったもんだよ!雌鶏も飼っているよ。雌鶏を飼うことにしか興味がないのさ。君は雌鶏を探しているの?」

「ちがうよ」と、王子は言いました。「僕は友達を探してる。それで、≪心を開く≫って、どういう意味?」

「ひどく忘れがちなことだけどね」と、狐は答えました。「それは、≪絆(きずな)を作る...≫ってことだよ。」

「絆を作る?」

「そうさ」と、狐は言いました。「僕にとって、君はまだ、山ほどいる男の子たちと変わらないんだ。だから、僕は君が必要じゃない。そして、君も僕が必要じゃない。だって、君にとって、僕は山ほどいる狐たちと変わらないんだから。でも、もし君が僕の≪心を開いて≫くれれば、僕らはお互いに必要になる。僕にとって、君はこの世でかけがえのない存在になるし、僕も、君にとって、この世でかけがえのない存在になるのさ...」

「分かりかけてきたよ」と、王子は言いました。「花が一本あってね... きっとその花は僕の≪心を開いたんだ≫...」

「そうかもね」と、狐は言いました。「地球にはありとあらゆるものがあるから...」

「ああ!それは地球にあるんじゃないよ。」と、王子が言いました。

狐はとても不思議そうな顔をしました。

「別の惑星の話?」

「そうだよ。」

「猟師はいるの?その惑星には。」

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第21章(2)

「いないよ。」

「それは面白いな!で、雌鶏は?」

「いないよ。」

「何もかも完璧ってわけにはいかないね。」と、狐はため息をつきました。

それでも、狐は再び話し始めました。

「僕の生活は単調でね。僕は雌鶏を追いかけ、人間は僕を追いかける。雌鶏はどれもこれも似たりよったりだし、人間もみんな似たりよったりだ。だから少々退屈してるのさ。でも、もし君が僕の≪心を開いて≫くれれば、僕の生活はずいぶん楽しいものになる。僕は他の足音とは違う足音を聞き分けるんだ。他の足音を聞けば、僕は地下の巣穴に帰る。君の足音を聞けば、まるでそれが合図の音楽のように僕は巣穴から出てくるのさ。それに、見てごらんよ!あそこに麦畑が見えるだろう?僕は、パンは食べない。だから僕にとって、麦は無用の物さ。麦畑を見たって、僕は何とも思わないんだ。それって、悲しいことだよ!でも、君は金色の髪をしている。だから、君が僕の≪心を開いて≫しまえば、素晴らしいことになるんだ!麦は金色だから、麦を見ると君のことを思い出すんだよ。そして僕は、麦畑を吹き抜ける風の音が好きになるんだ...」

狐は口をつぐみ、長い間じっと王子を見つめました。

「お願いだ... 僕の≪心を開いて≫おくれよ!」と、狐は言いました。

「喜んで」と、王子は答えました。「でも、僕にはあまり時間がないんだ。友だちを見つけなきゃならないし、知らなきゃいけないことがたくさんある。」

「ものの≪心を開かなければ≫知っていることにはならないんだよ」と、狐は言いました。「人間どもにはもう何も知る時間がないのさ。やつらは商店で出来合いのものを買っている。でも、友だちを売っている商人なんかいやしないから、人間にはもう友だちはいないのさ。もし友だちが欲しけりゃ、僕の≪心を開いて≫おくれよ!」

「どうすればいいの?」と、王子は言いました。

「辛抱が肝心さ」と、狐は答えました。「先ず、僕から少し離れたところに座るんだ、そう、こんな風に、草の中にね。僕は君を横目で見つめる、でも君は口をきいちゃだめだ。 言葉は誤解の元だからね。でも、君は毎日少しずつ近くに座るんだ...」

次の日、王子はまた狐と会った場所にやって来ました。

「昨日と同じ時間に来てくれた方が良かったな」と、狐は言いました。「例えば、君がもし午後4時に来れば、僕は3時から嬉しくなってくるんだ。時間が進めば進むほど嬉しい気持ちが募(つの)ってくる。で、4時になれば、もう気持ちが落ち着かなくて不安になって来る。幸福の価値をあらためて知ることになるのさ!でも、もし君が、時間にお構いなしに来るようなら、僕は何時に心支度(こころじたく)をしたらよいか分からないじゃないか…≪しきたり≫が必要なんだ。」

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第21章(3)

「≪しきたり≫って何?」と、王子は尋ねました。

「それもひどく忘れがちなことだがね」と、狐が言いました。「≪しきたり≫っていうのは、一日一日を別のものにし、一時間一時間を別のものにするものさ。 例えば、僕を追い回している猟師たちにも≪しきたり≫がある。やつらは毎週木曜日には、村の娘たちと踊るのが≪しきたり≫さ。だから木曜日は素晴らしいんだ!僕はブドウ畑まで散歩に行くってわけさ。もし猟師たちが曜日にお構いなく踊ったりすれば、どの曜日も似たりよったりになってしまう。つまり、僕には全くヴァカンスが無くなるわけだよ。」

こうして王子は狐の≪心を開きました≫。そして王子の出発のときが近づくと、

「ああ!」と、狐が言いました... 「涙が出そうだよ。」

「君のせいだよ」と、王子は言いました。「僕には君を傷つけたい気持ちはこれっぽっちもなかったのだから、でも、君が≪心を開いて≫ほしいと望んだんだよ...」

「勿論さ。」と、狐が言いました。

「でも、君は泣きそうじゃないか!」と、王子は言いました。

「勿論さ。」と、狐は答えました。

「じゃ、君は何の得もしていないよ!」

「得してるさ」と、狐は答えました。「麦の色のおかげでね。」

それから狐は、続けてこう言いました。

「あの薔薇たちに会いに行けよ。君の薔薇がこの世でかけがえのない薔薇だと分かるから。それから、またここに戻って僕にさよなら(アディウ)を言ってくれ。そしたら、君に秘密を一つ教えてあげるから。」

王子は狐のもとを去り、薔薇たちに会いに行きました。

「君たちは僕の薔薇とは似ても似つかないよ。君たちはまだ何者でもないんだ」と、王子は薔薇たちに言いました。「誰も君たちの≪心を開かなかったし≫、君たちも誰の心も≪開こうと≫しなかった。君たちは、以前の僕の狐とおんなじさ。以前はあの狐も、他の山ほどいる狐と変わらないただの狐だった。でも、僕が彼を僕の友達にしたんだ。だから今では、この世でかけがえのない狐なのさ。」

その王子の言葉を聞き、薔薇たちはずいぶん居心地が悪そうでした。

「君たちは美しい、でも、空っぽだよ」と、さらに王子は薔薇たちに言いました。「君たちのために死ぬことなんかできはしない。勿論、普通の通りがかりの人なら、僕の薔薇を見て、彼女が君たちに似ていると思うだろうよ。でも、彼女一人だけで君たち全員集めたより大事な存在なんだ。だって、僕が水遣りをしてあげたのは彼女なんだ。だって、僕がガラスの器を被せてあげたのは彼女なんだ。だって、つい立を立てて僕が風から守ってあげたのは彼女なんだ。だって、その身体に付いた毛虫(蝶になる2、3匹は除くけど)を殺してあげた相手は彼女なんだ。だって、僕が愚痴や自慢話や、ときには、沈黙に耳を傾けてあげた相手は彼女なんだ。だって、それは僕の薔薇だからさ。」

そう言って、王子は狐の所に戻って来ました。

「さようなら(アディウ)。」と、王子が言いました...

「さようなら(アディウ)。」と、狐が答えました。「これが、僕の秘密さ。とても簡単なことだ。≪心で見るしか、ものはよく見えない。肝心なものは目には見えない≫。」

「≪肝心なものは目には見えない≫。」王子は、忘れないように繰り返しました。

「君が君の薔薇のために割(さ)いた時間、それこそが君の薔薇をかけがえのないものにしている。」

「≪僕が僕の薔薇のために割いた時間...≫」王子は、忘れないように繰り返しました。

「人間はこの真実を忘れている」と、狐は言いました。「でも、君はそのことを忘れてはいけない。君は≪心を開いた≫ものにはいつまでも責任を持つことになるんだ。君は君の薔薇に責任があるんだよ...」

「≪僕は僕の薔薇に責任がある...≫」王子は、忘れないように繰り返しました。




第22章
「こんにちは。」と、王子が言いました。

「こんにちは。」と、ポイント切り替え係が答えました。

「ここで何をしてるんです?」と、王子はたずねました。

「わんさかやって来る乗客たちを仕分けてるんだよ」と、切り替え係は答えました。「乗客を運ぶ列車を右や左に振り分けているのさ。」

すると、ライトを点けた特急列車が、雷のような轟音を立ててポイント切り替え小屋を揺さぶりました。

「ずいぶん乗客は急いでますね」と、王子は言いました。「何を追いかけてるんですか?」

「機関士だって分からんさ。」と、切り替え係は言いました。

すると、今度は反対方向からライトを点けた特急列車が轟音を立ててやって来ました。

「もう戻って来たんですか?」と、王子はたずねました。

「同じ乗客じゃないよ」と、切り替え係は答えました。「上りと下りのすれ違いだ。」

「乗客たちは、自分の居場所に満足していなかったんですか?」

「人は決して自分の居場所に満足することはないよ。」と、切り替え係は言いました。

すると、三台目の特急列車が雷のような轟音を立ててやって来ました。

「あの人たちは最初の列車の乗客を追いかけてるんですか?」と、王子がたずねました。

「全く何も追いかけちゃいないさ」と、切り替え係は答えました。「乗客は中で眠っているか欠伸(あくび)をしているよ。子供たちだけが窓ガラスに鼻を押し付けてるんだ。」

「子どもたちだけが自分の追いかけている物を知っているんですね」と、王子が言いました。「彼らはぼろきれでできた人形のためにわざわざ時間を使うんです。だからその人形はとても大切なものになる。そして彼らから人形を取り上げたりすれば、涙を流すんです...」

「羨(うらや)ましい限りだね。」と、切り替え係は答えました。




第23章
「こんにちは。」と、王子が言いました。

「こんにちは。」と、商人が答えました。

それは喉の渇きをいやす、とてもよく効く丸薬を売る商人でした。週に一錠飲めば、もう飲みたいという欲求を感じなくなるのです。

「おじさんは、なぜそんなものを売っているの?」と、王子がたずねました。

「たいへんな時間の節約になるのだよ」と、商人は答えました。「専門家が計算したのだがね。週に53分の節約になるのだ。」

「それで、その53分で何をするの?」

「やりたいことをするのだよ...」

「僕なら」と、王子は思いました。「もし使える時間が53分あれば、ゆっくりと泉の方に歩いて行くな...」


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第23章



第24章
砂漠で僕の飛行機が故障して8日目を迎えていました。そして僕は、残された水の最後の一滴を飲みながら王子の語るその商人の話を聞いたのです。

「ああ!」と、僕は王子に言いました。「とても素敵だね、君の思い出は。でも、僕はまだ飛行機を直してないし、もう飲み物が全然ないんだ。だから、もし泉の方へ静かに歩いて行けるものなら僕もうれしいね!」

「友だちの狐がね」と、王子は僕に言いました。

「ねえ坊や、もう狐の話どころじゃないんだよ!」

「なぜ?」

「このままじゃ渇きで死んでしまうからさ...」

王子は僕の言っていることが分かりませんでした。彼はこう答えたのです。

「たとえこれから死ぬにしても、友だちがいたってことは素敵なことだよ。僕は、狐の友だちがいたことがとてもうれしいんだ...」

「この子には事の重大さが分からないのだ」と、僕は思いました。「この子は決して腹も空かなければ喉も渇かない。少々日光が有れば王子には十分なのだ...」

しかし、王子はじっと僕を眺め、僕の心の内を見透かすようにこう答えました。

「僕だって喉は渇く... 井戸を探そうよ...」

僕はうんざりしている気持を身振りで示しました。広大な砂漠の中で、めくら滅法(めっぽう)井戸を探すなんて馬鹿げています。それでも僕たちは歩き始めました。

無言のまま数時間歩くと、日が暮れて星が瞬(またた)きはじめました。僕は喉の渇きのせいで少々熱が有ったので、夢見心地で星を眺めていました。頭の中では、王子の例の言葉が踊っていました。

「じゃ、君も喉が渇いているの?」と、僕は王子にたずねました。

しかし、王子は僕の質問には答えず、ただこう言っただけでした。

「水は心の渇きも癒(いや)してくれるんだよ...」

僕はその答えの意味が分からなかったのですが、口をつぐみました... 王子には質問をしてはいけないとよく分かっていたからです。

王子は疲れていたので、腰を下ろし、僕は彼の近くに座りました。そして、しばらく黙った後で、王子は再び口を開いたのです。

「星たちが美しいのは、目に見えない1本の花のおかげなんだよ...」

「勿論さ」と僕は答えて、無言のまま月に照らされた砂の襞(ひだ)を眺めました。

「砂漠は美しいね。」と王子は付け加えました...

実際、その通りでした。僕はいつでも砂漠が好きでした。砂丘の上に座ると、何も見えず、何も聞こえません。それでも、静寂(せいじゃく)の中に何かが輝いているのです。

「砂漠が美しいのはね」と、王子が言いました。「どこかに井戸を隠しているからだよ...」

僕は思いがけず砂の持つあの不思議な輝きの理由が分かり驚きました。幼い頃、僕は古い家に住んでいたのです。言い伝えによると、その家には宝物が埋められていました。無論、誰一人それを発見することは出来なかったし、おそらく探しもしなかったでしょう... でも、その宝物が家全体に魔法をかけていたのです。僕の家はその奥底に、ある秘密を隠していたのでした...

「そうだね」と、僕は王子に言いました。「家にしろ、星にしろ、砂漠にしろ、それらを美しくしているものは目には見えないんだ!」

「うれしいな」と、王子が言いました。「おじさんも僕の狐と同じ考えだね。」

王子がうとうとしてきたので、僕は彼を両腕に抱え、再び歩き始めました。僕は感動していたのです。まるで脆(もろ)くて壊(こわ)れやすい宝物を運んでいるように僕には思えました。それどころか、地球上でこれ以上脆くて壊れやすいものは無いように思えたのです。月明かりをたよりに、僕はその青白い額と、閉じた目と、風になびく髪の房を眺めていました。そして、こう思っていたのです。「僕が見ているのは抜け殻にすぎないのだ。一番肝心なものは目には見えないのだから...」

王子の半ば閉じた唇から微(かす)かに笑(え)みが漏(も)れていたので、僕はさらにこう思ったのです。「この眠っている王子を見て僕はひどく感動している。それは一輪の花に向けた王子の一途(いちず)な想いのせいなんだ。たとえ眠っていても、ランプの炎のように彼の心の中で輝いている一輪の薔薇の姿のせいなんだ...」そして僕は、王子はきっと、それまで思っていた以上に、はるかに脆くて壊れやすい存在なのだと分かったのです。ランプをしっかり守ってやらなければいけない。風が一吹きすれば、ランプは消えてしまうかもしれないのだから...

そして、こんな風に歩いて行くと、明け方、井戸が見つかったのでした。




第25章
「人間は」と、王子は言いました。「特急列車に我先にと乗り込むけれど、もう自分が何を探しているのか分からないんだ。だから、やたら騒いで堂々巡りをしている...」

王子はさらに付け加えました。

「そんな必要はないのに...」

僕たちがたどり着いた井戸は、サハラ砂漠にある普通の井戸とは違っていました。サハラの井戸は砂の中に掘られたただの穴なのです。ところがこの井戸は、村にある井戸に似ていました。でも、この辺には村一つありません。僕は夢でも見ているような気分でした。

「変だね」と、僕は王子に言いました。「何もかもそろってる。滑車に、バケツに、綱に...」

王子は笑って、綱に触り、滑車を動かしました。ところで、滑車は長い間風に吹かれていなかった風見のような軋(きし)んだ音をたてるのです。

「聞こえるでしょう」と、王子が言いました。「僕たちはこの井戸を目覚めさせたんだよ、井戸が歌っている...」

僕は王子に無理をさせたくありませんでした。

「僕にやらせてくれ」と、僕は王子に言いました。「君には重すぎる。」

僕はゆっくりとバケツを井戸の縁(ふち)まで引き上げ、縁石の上に垂直に置きます。耳の中では滑車の歌が鳴りやまず、まだ揺れている水の中で、太陽がゆらゆらしているのが見えました。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第25章

「この水を飲みたくてたまらないんだ」と、王子は言いました。「僕に飲ませておくれよ...」

そして、僕は王子が何を探していたのかが分かったのです!

僕は王子の唇の所までバケツを持ち上げると、王子は目を閉じたまま水を飲みました。それは浮き浮きするほど心地好いことでした。この水はただの飲み物ではなかったのです。それは、僕たちが星空の下を歩き、井戸の滑車が歌い、僕が両腕を使って苦労して汲み上げたことから生まれた水だったのです。それは、ちょうど贈り物のように心を癒す水でした。幼い頃、クリスマスツリーの光や、真夜中のミサの音楽や、人々の優しい微笑みは、僕が受け取るプレゼントをこんな風に輝かせていたのです。

「おじさんの惑星の人たちは」と、王子は言いました。「たった一つの庭で5千本の薔薇を育てている...でも、彼らが探している物はそこには見つからないんだ...」

「見つからないね。」と、僕は答えました。

「でも、それはたった一本の薔薇や少しの水の中に見つかるかもしれないんだよ...」

「勿論さ。」と、僕は答えました。

王子は更にこう言いました。

「でも、目には見えないんだよ。心で探さなくちゃいけないんだ。」

水を飲むと、僕は息が楽になっていました。夜が明けると、砂漠の砂は蜜色になります。その色も僕を幸せな気持ちにしてくれたのです。なぜわざわざ苦労して...

「おじさんは約束を守ってくれなきゃ。」と、静かに王子は言いました。彼は再び僕の傍(そば)に座っていたのです。

「何の約束?」

「ほら...僕の羊にはめる口輪だよ...僕はあの花に責任があるんだ!」

僕はポケットからデッサンの下書きを取り出します。王子はそれらをちらっと見て、笑いながら言いました。

「おじさんの描いたバオバブはちょっとキャベツに似てるね...」

「おいおい!」

僕はバオバブにはとても自信があったのです。

「おじさんの狐は...耳が...耳がちょっと角(つの)に似ている...それに、長すぎるよ!」

そう言って、王子はまた笑いました。

「ひどいな、坊やは、僕はボアの外側と内側以外のデッサンは描けなかったんだ。」

「ああ!だいじょうぶだよ」と、王子は言いました。「子どもには分かるから。」

そこで僕は、鉛筆で口輪を一つ描きました。そして、それを王子に手渡すとき、胸が締め付けられるような感じがしたのです。

「君は僕が知らないことを考えているね...」

しかし、王子はそれには答えず、こう言いました。

「ねえ、僕が地球に降りた日...明日がその記念日なんだ...」

それから、しばらく黙った後、王子はさらにこう言いました。

「僕はこのすぐ近くに降りたんだ...」

そして王子は顔を赤らめたのです。

すると再び、なぜか分からぬまま、僕は不吉な悲しみを感じたのです。それでも、ぼくにはある疑問が浮かびました。

「じゃ、8日前に僕が君と知り合った朝、君がこんな風にたった一人で人里から千マイルも離れたところを歩いていたのは偶然じゃなかったんだ!君は降りた所に戻る途中だったのかい?」

王子は再び顔を赤らめました。

そこで、僕はためらいながらも重ねて質問したのです。

「それは多分、記念日のためなんだね?...」

王子の顔がまた赤くなります。彼は決して質問には答えなかったのですが、人が顔を赤らめるとき、それは「イエス」の意味ではないでしょうか?

「ああ!」と、僕は王子に言いました。「ひょっとして君は...」

かわりに王子はこう答えたのです。

「おじさんはもう働かなくちゃいけないよ。飛行機のあるところに戻らなきゃ。僕はここでおじさんを待っている。明日の晩またおいでよ...」

でも、僕はまだ不安でした。狐のことを思い出していたのです。人は≪心を開かれて≫しまうと少々涙もろくなるようです。




第26章
井戸の近くに古い石塀の残骸(ざんがい)がありました。翌日の晩、作業から戻って来ると、遠くから、石塀の上に座って両脚ををぶらぶらさせている王子の姿が見えました。そして、王子が何か話し込んでいる声が聞こえたのです。

「じゃ、君は憶えていないの?」と、王子は言っていました。「ここはピッタリ同じ場所じゃないでしょ!」

おそらく、別の声が王子に答えたのでしょう。王子はこう言い返したのです。

「いやいや!日付は合っているよ。でも、場所はここじゃない...」

僕は塀の方に歩き続けました。相変わらず誰の姿も見えず、声も聞こえません。それでも王子はまた言い返しました。

「...勿論さ。砂に残る僕の足跡がどこから始まるか見てごらんよ。君はそこで待ってればいいんだ。今夜そこに行くから。」

僕は塀から20メートル程のところに来ましたが、相変わらず何も見えません。

しばらく黙った後、王子が再び口を開きました。

「君の毒はよく効くの?本当に僕は長い間苦しまなくてすむの?」

僕は胸が締めつけられる思いで、立ち止まりました。でも、相変わらず訳(わけ)が分かりません。

「さあ、もう行ってくれよ」と、王子が言いました...「僕は降りたいんだ!」

そこで、僕も塀の下の方に視線を落とし、それから跳び上がりました!そこには例の黄色い蛇が一匹、王子に向かって鎌首(かまくび)を持ち上げていたのです。それは30秒で人をあの世に送ってしまいます。ポケットを探りピストルを取り出しながら、僕は駆け出しました。しかしその足音に気づいて、蛇はまるで噴水が流れを止めるように静かに砂の中に身を沈め、たいして慌(あわ)てもせず、軽い金属音をたてながら石の間に潜り込みました。
$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第26章(1)
僕は塀に駆けつけ、間一髪、両腕で愛(いと)しい王子の体を受け止めました。王子の顔は雪のように青ざめています。

「いったい、どういうことなんだ!君は今度は蛇と話をするのか!」

僕は王子がいつも首に巻いている金色のマフラーを解き、両こめかみを水で濡らし、それから王子に水を飲ませました。それが終わると、僕はもう王子に何も訊く気にならなくなったのです。王子は僕を真剣な眼差(まなざ)しで見つめ、両腕を僕の首にからめました。王子の心臓は、空気銃で撃たれ、死にかかっている小鳥のように、ドキドキと脈打っていました。王子は僕にこう言いました。

「よかったね、おじさん、あの機械に欠けていた部品が見つかったんだ。これで家に帰れるね...」

「どうして君は知ってるんだ!」

僕はまさに、絶望的だと思われていた作業が奇跡的にうまくいったことを王子に伝えに来る途中だったのです。

王子は僕の質問には何も答えず、こう付け加えました。

「僕も、今日、自分の惑星に帰るんだよ...」

それから、憂鬱な面持ちで、

「そこはおじさんの所よりはるかに遠い...それに帰るのは,はるかに難しいんだ...」

僕は何か異常なことが起きていることをひしひしと感じていました。僕は王子を、まるで幼児(おさなご)のように両腕にしっかりと抱きしめていたのですが、僕にはくい止める術(すべ)がないまま、王子は真っ逆さまに深い淵(ふち)に沈んでいくように思えたのです。

王子は、はるか遠いところを見つめるような真剣な眼差(まなざ)しをしていました。

「おじさんが描いてくれた羊はあるな。それに羊をいれる箱もある。それに口輪も...」

それから王子は憂鬱そうに微笑(ほほえ)みました。

僕は長い間待ちました。すると王子の体が少しずつ温かくなっていくのが感じられたのです。

「ぼうやは、怖かったんだね...」

勿論、王子は怖かったのです!しかし彼は静かに笑いました。

「僕は今晩、もっとずっと怖い思いをすることになるんだ...」

再び僕は、何か取り返しのつかないことが起きているという気持ちになり、心が凍りつきました。そしてもう二度とこの笑い声を聞くことが出来ないと考えると、それは自分には耐えられないと分かったのです。王子の笑い声は僕にとって、砂漠の中の泉のようなものだったのです。

「ぼうや、僕はまだ君の笑い声が聞きたいんだよ...」

しかし、王子はこう言いました。

「今夜で一年になるんだ。僕の星が、去年僕が着陸した場所の真上に来るんだよ...」

「ぼうや、悪い夢を見ているんじゃないか?蛇だの、(蛇との)約束の場所だの、星だのって話は...」

しかし、王子は僕の質問には答えず、こう言ったのです。

「大切なものは、目には見えない...」

「勿論さ...」

「あの花も同じさ。もしおじさんが、一つの星に咲く一本の花が好きになれば、夜空を眺めると気持ち良くなるんだ。夜空の星全部が花で覆(おお)われるんだよ。」

「勿論だ...」

「あの水も同じだよ。おじさんが僕に飲ませてくれた水は音楽のようだった。滑車や綱のおかげでね...憶えてるよね...あの水は美味しかった。」

「勿論だとも...」

「おじさんは、夜、星を見るといい。僕の星は小さすぎるから、何処にあるのか僕はおじさんに教えられないけどね。でも、その方がいい。僕の星はおじさんにとって、全ての星の中の一つなんだ。だから、おじさんは星全部を眺めるのが好きになるよ...星は全部、おじさんの友だちになるんだ。それに、僕はおじさんにプレゼントをするからね...」

王子は再び笑いました。

「ああ!ぼうや、僕は、ぼうやのその笑い声を聞くのが好きなんだ!」

「それこそ僕のプレゼントなのさ...それはあの水のようなものだね...」

「どういう意味だい?」

「星は人によってそれぞれ意味が違うんだ。旅人にとって、星はガイドさ。星はただの小さな光だっていう人もいる。学者にとっては、星は研究課題になる。例のビジネスマンにとっては、星は富だった。でも、そういう星はどれも音を出さない。おじさんにとって、星は、そういう星とは全然別のものになるんだよ...」

「どういう意味だい?」

「おじさんが夜空を見つめると、僕が夜空の星の一つに住んでいるのだから、僕が夜空の星の一つで笑っているのだから、おじさんには星全部が笑っているように見えるんだよ。おじさんは笑うことの出来る星が手に入るのさ!」

そう言って、王子はまた笑いました。

「そして、心が慰められれば(いつでも慰めてもらえるよ)、おじさんは僕と知り合ったことに満足してくれるのさ。おじさんは、これからもずっと僕の友だちだよ。おじさんは僕と一緒に笑いたくなるんだ。そしてときどき、ただ楽しい気持ちになりたいために、こんな風に窓を開けるんだ...お友だちは、おじさんが夜空を眺めて笑っているのを見て、さぞびっくりするだろうね。そしたら、おじさんはこう言ってやるのさ。『そうとも、僕は星を見るといつも笑いたくなるんだよ!』ってね。お友だちはおじさんを気が狂ってると思うだろうな。僕はおじさんにずいぶん性質(たち)の悪い悪戯を仕掛けたってことになる...」

そう言って、王子はまた笑いました。

「それはまるで、星の代わりに、笑うことの出来る小さな鈴を山ほどおじさんにあげたようなものだね...」

そう言って、王子は再び笑い、それから真顔に戻りました。

「今夜は...いいかい...おじさんは来ちゃだめだ。」

「君のそばを離れるものか。」

「僕は苦しそうに見えるかもしれない...少し、死にそうに見えるかもしれない。こんな風にね。だから、そんなものを見に来ちゃだめだ、それには及ばないよ...」

「君のそばを離れるものか。」

しかし、王子は心配していたのです。

「僕がおじさんにこんなことを言うのは...蛇のこともあるからさ。おじさんが蛇に咬まれてはいけないんだ...蛇は意地が悪いからね。遊び半分に咬むかもしれない...」

「君のそばを離れるものか。」

でも、王子は何かに安心したようでした。

「でもきっと、二回目は蛇にもう毒はないよね...」

その夜、僕は王子が出かけるのを見ませんでした。王子は音も立てずに出て行ったのです。僕がなんとか王子に追いつくと、王子は意を決したように、早い足取りで歩いていました。王子は僕に、ただこう言ったのです。

「ああ!来たんだね...」

それから、王子は僕の手を取りましたが、まだ悩んでいました。

「おじさんは来ちゃいけなかったんだ。辛い気持ちになるかもしれない。僕は死んだように見えるかもしれないけれど、本当はそうじゃないんだ...」
$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第26章(2)
「分かるでしょう。遠すぎるんだよ。この身体を運ぶことは出来ないんだ。重すぎるからね。」

僕は言葉がありませんでした。

「でも、身体は古い抜け殻みたいなものだ。抜け殻なんて悲しくはないさ...」

僕は言葉がありませんでした。

王子は少し気持ちがくじけましたが、再び勇気を奮い起こしました。

「ねえ、素敵だろうね。僕も星を見ることにするよ。全部の星が錆(さ)びた滑車のついた井戸になるんだ。全部の星が僕に飲み水を注(つ)いでくれるんだよ...」

僕は言葉がありませんでした。

「すごく楽しいだろうなあ!おじさんには5億の鈴が手に入り、僕には5億の泉が手に入るんだ...」

そう言って、王子も口をつぐみました。王子は泣いていたのです。

「あそこだ。僕一人で行かせてくれ。」

そして王子は座り込みました。王子は怖かったのです。
$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第26章(3)
再び王子が口を開きました。

「ねえ...僕の花...僕はあの子に責任がある!それにあの子はすごく弱いんだ!おまけにひどく世間知らずだし。世間から身を守るものと言えば、取るに足らない4本の棘(とげ)しかない...」

僕は座り込みました。もう立っていることができなかったのです。王子は言いました。

「これで...話は済んだ...」

王子はまだ少しためらい、それから立ち上がり、前に一歩進みました。僕は動くことが出来ません。

王子の踝(くるぶし)の近くには、黄色く光るものだけがありました。王子の動きが一瞬止まります。そして王子は叫び声も上げず、木が倒れるようにゆっくりと倒れたのです。砂のせいで、それは物音ひとつしませんでした。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第26章(4)



第27章
そして勿論、今はもうあれから6年経っています... 僕はこれまで決してこの話を人に話したことがありません。僕に再会した仲間たちは、僕の生きているのを見てとても喜びました。僕はそのとき悲しかったのですが、彼らにはこう言っておきました。「疲れているせいだよ...」と。

今、少しは元気になりました。少し、つまり...完全に立ち直ったというわけではありません。でも、王子が自分の惑星に帰ったことはよく分かっています。というのも、明け方、王子の亡骸(なきがら)は見つからなかったのです。王子の体は王子が言うほど重くはなかったのですね... そして、僕は今、夜、星の音を聴くのが好きです。それはまるで5億の鈴が奏(かな)でるような音色(ねいろ)なのです...

ところが、思いがけないことが起きています。王子に描いてあげた口輪ですが、僕はそれに革紐を付けるのを忘れていました!これでは王子は口輪を決して羊に付けることは出来なかったでしょう。そこで、こう思うのです。「王子の惑星はどうなったのだろう?多分きっと、羊は花を食べてしまったな...」

あるときは、こう思います。「そんなことがあるものか!王子は毎晩、花にガラスの器を被せ、羊をよく見張ってるさ...」そう考えると、嬉しくなります。すると全ての星が優しく笑うのです。

またあるときは、こうも思います。「だれでも、一度や二度うっかりすることはある。でもそうなったら万事休す!ある晩、王子がガラスの器のことを忘れたり、羊が夜中に音もなく抜け出したりしたら...」そう考えると、鈴はみんな涙に変わってしまうのです!

これはまさに大きな謎です。僕にとっても、同じように王子を愛する読者の皆さんにとっても、どこか知らない場所で、見も知らぬ羊が、一本の薔薇を食べたかどうかによって、宇宙の様子が変わってしまうのですから...

空を眺めてごらんなさい。そして自分にこう問いかけるのです。「あの羊はあの花を食べたのだろうか、それとも食べなかったのだろうか?」と。すると、空の様子がガラッと変わるのが分かります...

そして大人はだれ一人として、それがどんなに大事なことか決して分からないでしょう!

下にあるデッサンは、僕にとって、世界で最も美しくそして最も悲しい風景です。それは、前のページの風景と同じですが、皆さんによく見てもらうためにもう一度描きました。まさにここで、王子は地上に姿を現し、そして姿を消したのです。

もし皆さんがある日、アフリカの砂漠を旅することがあれば、しっかりこの場所が分かるように、この風景をじっくり眺めてください。そして、もしその場所を通ることがあれば、どうか急がずに、あの星の真下でほんの少し待っていただきたい!そのとき、子どもが一人皆さんの方にやって来て、笑い、髪が金髪で、こちらが質問しても答えなければ、それがだれなのか皆さんにもよくお分かりになるでしょう。そのときは、お願いです!僕をこんな深い悲しみの中に放っておかないでほしい。すぐに、「王子が帰って来たよ」という手紙を僕に送ってほしいのです。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第27章

(ミスター・ビーン訳)


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