*星の王子さま 翻訳(第10章~第15章)* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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星の王子さま

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-星の王子さま序文

朗読 ベルナール・ジロドー  34分50秒から1時間19秒まで



第10章
王子は小惑星325、326、327、328、329、330が集まっている地域にいました。そこで、職探しと勉強を兼ねて先ずそれらの小惑星を訪れたのです。

最初に訪れた小惑星には、王様が住んでいました。王様は緋色(ひいろ)の衣と白テンの毛皮を身にまとい、とても簡素ですが威厳のある玉座に座っていました。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第10章

「おお! 臣下が参った。」王子に気づくと王様は叫びました。

そこで王子は思ったのです。「王様はなぜ僕が臣下だと分かるのだろう?まだ僕に一度も会ったこともないのに!」

王子は知らなかったのですが、王様にとって世の中はごく単純なもの。つまり、自分以外は全て臣下なのです。

「そなたがもっとよく見えるように、近う寄れ。」臣下が出来たことにすっかり気をよくした王様は王子に言いました。

王子は目で座る場所を探しましたが、惑星は素晴らしい白テンのマントですっかり覆(おお)われていました。そこで仕方なく立っていたのですが、疲れていたので欠伸(あくび)をしました。

「王の面前で欠伸をするとは無礼である」と、王様は言いました。「欠伸を禁じる。」

「仕方がないのです」と、王子はすっかりあわてて答えました。「長旅をして、眠っていないもので…」

「では」と、王様は王子に言いました。「欠伸を命ずる。余はもう何年も人が欠伸をするのを見ておらぬ。余には欠伸が珍しいのじゃ。さあさあ!もう一度欠伸せよ。これは命令である。」

「それではかえって気後れしてしまいます… もう欠伸は出来ません…」と、王子は真っ赤になって答えました。

「ふむ、ふむ」と、王様は答えました。「では、余は…余はそちに命ずる、あるときは欠伸をし、またあるときは…」

王様は少々口ごもり、苛立(いらだ)っているように見えました。

なぜなら王様は自分の権威が尊重されることを何よりも望んでいたのです。彼は命令に従わぬことには我慢がならなかったわけです。王様は絶対君主でした。しかし、とても善良な人だったので、理にかなった命令を下すのでした。

「もし余が」と、今度は王様は口ごもらずにすらすらと言いました。「もし余がある将軍に海鳥に変身せよと命じて、命令に従わなくとも、それは将軍が悪いのではない。それは余が悪いのじゃ。」

「座ってもいいですか?」と、王子はおずおずと尋(たず)ねました。

「座ることを命ずる。」と、王様は答え、厳(おごそ)かに白テンのマントの裾(すそ)を引き寄せました。

しかし、王子は驚いていました。その惑星はごくごく小さかったのです。王様に何が支配できるというのでしょう?

「陛下」と、王子は言いました…「お尋ねしたいことがあるのですが…」

「余に尋ねることを命ずる。」急いで王様は言いました。

「陛下… 陛下は何を支配していらっしゃるのでしょうか?」

「全てじゃ。」と、王様はひどく素っ気なく答えました。

「全てと申しますと?」

王様は何気ないしぐさで自分の惑星と他の惑星と星々を指し示しました。

「その全てでございますか?」と、王子は言いました。

「その全てじゃ…」と、王様は答えました。

というのも、王様は絶対君主であるばかりでなく、宇宙の君主でもあったのです。

「それで、星々は陛下の命令に従うのでしょうか?」

「無論じゃ」と、王様は王子に言いました。「星々はすぐに従う。余は不服従には我慢が出来ぬのじゃ。」

こんな凄(すご)い権力があることを知り、王子はびっくりし、感心もしました。もし自分にそんな力があったら、44回どころか72回、いや100回、いやいや200回だって一日に夕日が見られるのだが。それも一度も椅子を引かずに!それに自分が見捨ててきたあの小さな惑星のことを思い出し、少々悲しい気持ちになっていたので、思い切って王様にお願いしてみたのです。

「僕は夕日が見たいのです… お願いです… 太陽に沈むように命じて下さい…」

「余がある将軍に蝶のように花から花へ飛んで行けとか、悲劇を一つ書いてみよとか、海鳥に変身せよなどと命じて、将軍が余の命令を果たさぬとすれば、余と将軍ではどちらが悪いであろう?」

「それは陛下でございましょう。」と、王子はきっぱり言いました。

「その通り。人にはそれぞれが出来ることを求めねばならぬ」と、王様は答えました。「権威というものは先ず理性に基づくものじゃ。もしそちが人民に海に身を投げよと命じたりすれば、革命が起きるであろう。余に服従を求める権利があるのは、余の命令が理にかなっているからじゃ。」

「では、夕日の件は?」と、王子は再び質問しました。彼は一度質問すると、答えてもらうまでは決して諦(あきら)めなかったのです。

「夕日の件は、叶(かな)えてやろう。命を下すつもりじゃ。だが、余の統治法では、諸条件が整うのを待つことになる。」

「それはいつになるのでしょう?」と、王子は尋ねました。

「どれどれ」と王様は答えて、先ず大きなカレンダーを調べました。「さてさて、それは、まあ、そうだな、今晩の7時40分ごろじゃな!そのとき、余の命令がどれほどきちんと実行されるかそちにもわかるであろう。」

王子は欠伸をしました。夕日の件が上手くいかなかったことを残念に思っていたのです。それに、王子は既に少々退屈していました。

「僕はもうここですることは何もありません」と、王子は王様に言いました。「おいとま致します!」

「出発してはならぬ」と、臣下を持てて鼻高々になっていた王様は答えました。「出発してはならぬぞ。そちを大臣に任命する!」

「何の大臣にですか?」

「司…司法大臣じゃ!」

「でも、裁かねばならぬ人などおりません!」

「それは分からぬ」と、王様はいいました。「余はまだ王国の視察をしておらぬ。余は老齢で、4輪馬車を置く場所もない。歩いていては疲れてしまうし」

「ああ!でも僕にはもう分かっております」と、王子は言って身をかがめ、もう一度惑星の向こう側をちらっと眺めました。「向こうにも誰もおりません…」

「それでは、自分を裁くがいい」と、王様は王子に答えました。「それは最も難しいことじゃ。他人を裁くより自分を裁くことの方がはるかに難しい。もしそちが首尾よく自分を裁ければ、そちは真(まこと)の賢者であるぞ。」

「僕は」と、王子は言いました。「どこででも自分を裁くことが出来ます。ここに暮らす必要はありません。」

「さてさて!」と、王様は言いました。「余の惑星のどこかに年寄りのネズミがおるはずじゃ。夜になると奴(やつ)の物音が聞こえる。あの老いぼれネズミを裁けばよい。ときどき奴に死刑判決を下してやるのじゃ。さすれば、奴の命はそちの判決次第ということになる。ただし、節約のために判決を下したら必ず恩赦(おんしゃ)を与えてやるのじゃ。ネズミは一匹しかおらぬからな。」

「僕は」と、王子は答えました。「死刑判決を下すのは好きじゃありません。やはり、おいとまします。」

「だめじゃ」と、王様は言いました。

しかし、出発の準備を整えた後、王子は年老いた君主に辛い思いをさせたくはありませんでした。

「もし陛下がきちんと命令が実行されることをお望みでしたら、理にかなった命令をお下しになれると思います。例えば、すぐに出発せよとお命じ下さい。諸条件は整っているように思えますので…」

王様は何も答えなかったので、王子は最初ためらったのですが、一つ溜息をついて出発しました。

すると王様は、「そちを余の大使に任ずる。」と、あわてて叫びました。

王様はいかにも威厳のある様子に見えました。

「大人って本当に不思議だ。」と、旅を続けながら王子は思ったのでした。




第11章
二番目の惑星には、自惚(うぬぼ)れ屋が住んでいました。

「やあ!やあ! ファンのご到着だ!」と、王子の姿を見かけるや自惚れ屋は遠くから叫びました。

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何故なら、自惚れ屋にとって他の人間はみな彼の称賛者なのです。

「こんにちは」と、王子は言いました。「変わった帽子をかぶってますね。」

「これは挨拶をするためさ」と、自惚れ屋は王子に答えました。「拍手喝采を送られたときに挨拶をするためさ。残念なことに、この辺は誰一人通りかからんがね。」

「へえ、そうなんですか?」と、王子は言いましたが、訳(わけ)が分かりません。

「両手を合わせて叩いてみたまえ。」と自惚れ屋は王子に助言しました。

そこで王子は両手を合わせて叩いてみます。すると自惚れ屋は帽子を持ち上げ恭(うやうや)しく挨拶をしたのです。

「こりゃ、王様を訪問するよりおもしろいや。」と、王子は思いました。そこで、もう一度両手を合わせて叩いてみます。自惚れ屋は再び帽子を持ち上げ恭しく挨拶をしました。

5分もやっていると、王子はその単調な遊びに飽き飽きしてしまいました。

「じゃあ、帽子が落ちるようにするにはどうしたらいいの?」と王子は尋(たず)ねました。

でも、自惚れ屋には聞こえません。自惚れ屋というのは褒(ほ)め言葉しか聞こえないものなのです。

「君は本当に私を大いに褒(ほ)め称(たた)えてくれるかね?」と、彼は王子に尋ねました。

「褒め称えるってどういう意味なの?」

「それはね、この惑星で私が一番ハンサムで、一番身だしなみがよく、一番金持ちで、一番頭が良いと認めることさ。」

「でも、惑星にはおじさんしかいないよ!」

「それでもお願いだ。私を褒め称えておくれ!」

「おじさんを褒め称えます」と、王子は少し肩をすくめて言いました。「でも、おじさんにはこのどこが面白いのさ?」

それから王子はさっさと逃げ出しました。

「大人って、どう考えても変てこりんだ。」旅を続けながら、王子はただただそう思うのでした。




第12章
次の惑星には飲兵衛(のんべえ)が住んでいました。この訪問はとても短かったのですが、王子をひどく憂鬱(ゆううつ)な気分にさせたのです。

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おじさん、そこで何してるの?」と、王子は飲兵衛に言いました。彼は空の酒瓶(さかびん)の山とまだ封を切っていない酒瓶の山を前にして、黙然(もくねん)と座っていたのです。

「飲んでるのさ。」と、飲兵衛は陰気に答えました。

「なぜ飲んでるの?」と、王子が訊(き)くと、

「忘れるためさ。」と、飲兵衛は答えました。

「何を忘れるの?」もうその男が気の毒になってきた王子は重ねて尋(たず)ねました。

「恥ずかしいのを忘れるためさ。」うつむきながら飲兵衛は告白しました。

「何が恥ずかしいの?」彼を救ってやりたいと思って、王子は尋ねました。

「酒を飲むことがさ!」飲兵衛はそう言い終わると、沈黙の殻(から)にすっかり閉じ籠(こも)ってしまいました。

そこで訳(わけ)が分からなくなった王子は、その惑星からもさっさと逃げ出しました。

「大人って、どう考えてもへんてこりんだ。」旅を続けながら、王子は再びそう思うのでした。




第13章
4番目は、ビジネスマンの惑星でした。彼はひどく忙しかったので、王子がやって来ても顔さえ上げません。

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「こんにちは」と王子は声をかけました。「タバコが消えてますよ。」

「3足す2は5。5と7で12。12と3で15と。こんにちは。15と7で22。22と6で28。火を点けなおす暇がないんだ。26と5で31。ふー!ということは全部で5億162万2千7百31だな。」

「5億の何?」

「えっ? まだいたのか? 5億100万の… もう分からん… 仕事が山積みなんだ!わしは真面目な男だからな、くだらない話に付き合っちゃいられん!2と5で7…」

「5億100万の何?」と王子は繰り返しました。王子はそれまで、一度質問をすると答えを貰うまでは決して諦(あきら)めたことはなかったのです。

ビジネスマンは顔を上げました。

「わしがこの惑星に住んで54年になるが、邪魔されて間違えたのは3回しかない。最初は22年前のことだが、どこからか落ちてきたコガネムシのせいだった。やつはひどい騒音をまき散らしたんで、足し算を4回間違えてしまった。2回目は11年前だ。リュウマチの発作のせいだった。運動不足なんだ。ぶらぶら散歩してる暇はないんでね。わしは真面目な男なのさ。3回目が…今さ!たしか5億100万…」

「100万の何さ?」

ビジネスマンはどうにも王子の質問から逃れられないことが分かりました。

「ときどき空に見えるあの何百万もの小さな物だよ。」

「ハエのこと?」

「違うよ、キラキラ光っている物だ。」

「ミツバチ?」

「ちがうちがう。怠け者どもをぼんやり夢見心地にさせる金色の小さな物だ。しかし、真面目なんだ、わしは!夢想にふける暇などないのだ。」

「あっ!お星さまのこと?」

「そう、それだ。星だよ」

「で、おじさんは5億の星をどうするの?」

「5億162万2千7百31だ。わしは、真面目で正確な男なんだ。」

「それで、おじさんは星をどうするの?」

「星をどうするかって?」

「そうだよ。」

「何も。星はわしの物になるのさ。」

「星はおじさんの物なの?」

「そうさ。」

「でも、僕はある王様に会ったんだけど、王様は…」

「王様に所有権はない。支配するだけだ。全く別の話さ。」

「星を自分の物にすると何の役に立つの?」

「金持ちになれるね。」

「お金持ちになると何の役に立つの?」

「さらに星が買えるのさ、もし誰かが見つければ。」

「このおじさんの考え方は」と、王子は思いました。「あの飲兵衛(のんべえ)と少し似てるな。」

それでも、王子はさらに質問を続けました。

「どうやって星を自分の物にできるの?」

「星はだれの物かね?」と、気難(きむずか)しげに、ビジネスマンは訊(き)き返しました。

「さあ… だれの物でもないでしょう。」

「それなら星はわしの物だ。わしが最初に考えたのだからな。」

「それでいいの?」

「もちろんだ。持ち主のいないダイヤを見つければ、それは君の物だ。持ち主のいない島を見つければ、それは君の物さ。最初にあることを思いつけば、特許を取る。そうすれば、それは君の物だ。だからわしは星の持ち主なのだ。なにしろわしより前に星を所有することを考えた者は誰一人いないのだから。」

「それはその通りだ。で、おじさんはその星をどうするの?」

「管理するのさ。星の数を数え、さらにまた数える」とビジネスマンは言いました。「簡単じゃないが、なにしろわしは真面目な男だからな。」

王子はまだ腑(ふ)に落ちませんでした。

「僕がもしネッカチーフを持っていれば、首に巻いて持って行ける。僕がもし花を持っていれば、摘(つ)んで持って行ける。でもおじさんは星を摘むことはできないよ!」

「そりゃそうだ、だが銀行に預けることはできる。」

「どういうこと?」

「つまり、小さな紙切れに所有している星の数を書くのさ。それからその紙を引き出しに入れて鍵をかける。」

「それだけ?」

「それだけだ。」

「そりゃ楽しいな」と、王子は思いました。「かなり詩的でもある。でも、あまり真面目じゃないな。」

王子は「真面目なこと」については、大人とはずいぶん違った考えを持っていたのです。

「僕はね」と、再び王子は言いました。「毎日水遣(みずや)りをしてあげる花を一輪持っている。火山も三つ持っていて、毎週煤(すす)掃除をしてあげるんだ。三つって言ったのは、消えてる火山も煤掃除をするからだよ。いつ爆発するかわからないからね。だから僕が持ち主だということは、僕の花にも火山にも役に立つことなんだ。でも、おじさんは星たちには何の役にも立たないね…」

ビジネスマンは口を開きましたが、答える言葉が見つかりません。そこで王子はその星からも立ち去りました。

「大人って、まったくもって変わっているなあ。」と、旅を続けながら王子はただただ思うのでした。




第14章
5番目の惑星は、とても面白い惑星でした。それは全ての中で一番小さな惑星でした。広さは、街灯が一つと街灯の点灯人が占めるスペースしかなかったのです。王子は空の片隅にあり、家もなく住民もいない惑星で街灯と点灯人が何の役に立つのかどうしても理解できませんでした。それでも、王子はこう思いました。

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「多分、このおじさんのやってることは馬鹿げている。でも、王様や自惚(うぬぼ)れ屋、ビジネスマンや飲兵衛(のんべえ)ほどは馬鹿げていないな。少なくとも、このおじさんの仕事には意味がある。街灯をともせば、星をもう一つ、あるいは花をもう一輪生み出すようなものだ。そして街灯を消せば、その花や星を眠らせることになる。とても素敵な職業じゃないか。この仕事は本当に役に立つ、素敵な仕事なんだから。」

王子はその惑星に近づくと、点灯人に恭(うやうや)しく挨拶(あいさつ)しました。

「こんにちは。何故おじさんは街灯を消したの?」

「そう指示されているからさ」と、点灯人は答えました。「こんにちは。」

「指示って何?」

「僕が受け持ってる街灯を消すことさ。こんばんわ。」

そう言って、彼はまた街灯をともしました。

「でも、何故また街灯をともしたの?」

「そういう指示だからさ。」と、点灯人は答えました。

「分からないなあ。」と、王子が言いました。

「分かる分からないの問題じゃないんだ」と、点灯人は言います。「指示は指示なのさ。こんにちは。」

そう言って、彼は街灯を消し、赤い格子縞(こうしじま)のハンカチで額の汗を拭いました。

「全くひどい仕事だ。昔はちゃんとしていたんだ。朝になれば街灯を消し、夜が来たら点けていた。仕事の後、昼間は休息し、夜は寝ていたのさ…」

「じゃ、その後、指示が変わったの?」

「指示は変わってないよ」と、点灯人は言いました。「でも、それが悲劇のもとさ!惑星の自転速度は年々速くなっているのに、指示は変わってないんだ!」

「ということは?」と、王子が尋ねました。

「つまり、今は毎分1回自転するから、もう一秒たりとも休息できないのさ。毎分1回、点灯しそれから消灯するんだよ!」

「そりゃ面白いや!おじさんの惑星では一日が一分なんだ!」

「全然面白かないよ」と、点灯人は言いました。「もう一か月も君と僕は一緒におしゃべりをしてるんだ。」

「一か月?」

「そうさ。30分。つまり30日だ!こんばんは。」

そう言って、点灯人は街灯を点けました。

王子は点灯人を眺(なが)め、これほどまでに指示に忠実な彼を好きになりました。王子は、昔、何度も椅子を引きずりながら見に行った夕日のことを思い出したのです。彼はこの友人を助けてあげたいと思いました。

「ねえ、おじさん… 僕はおじさんがいつでも好きな時に休める方法を知っているよ。」

「いつも休みたいさ。」と、点灯人は答えました。

というのも、人は職務に忠実であると同時に怠(なま)けたいものなのです。

王子は続けました。

「おじさんの惑星はすごく小さいから大股で三歩も歩けば一周しちゃうよね。だから、おじさんはいつでも日向(ひなた)にいられるぐらいのゆったりした速さで歩けばいいんだよ。休みたくなったら、歩いてごらんよ… そうすれば、好きなだけ長く昼間が続く。」

「それじゃ大して役に立たないな」と、点灯人は言いました。「人生で僕が好きなのは、眠ることだからね。」

「仕方ないね。」と、王子は言いました。

「仕方ないさ」と、点灯人は答えました。「こんにちは。」

そう言って、彼は街灯を消しました。

「あのおじさんは」さらに遠くに旅を続けながら、王子は思いました。「他のどの連中からも、つまり王様や自惚れ屋、飲兵衛やビジネスマンからも軽蔑されるかもしれない。でも、あのおじさんだけは僕にはこっけいだとは思えない。それは、多分、彼が自分以外のことに一生懸命になっているからだ。」

王子はなごりおしそうにため息をつき、さらにこう思いました。

「あの人だけは僕が友達になれた人だな。でも、彼の惑星は本当に小さすぎる。二人分のスペースはないから…」

王子はあえて認めようとはしなかったのですが、彼があの恵まれた惑星を離れがたく思ったのは、特に、24時間で1440回の夕日が見られるためだったのです。




第15章
6番目に訪れた惑星は10倍も広い惑星でした。そこには大変大きな本を何冊も書いているお年寄りが住んでいたのです。

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「おや!探検家が来たぞ!」王子に気づいて、お年よりは叫びました。

王子はテーブルに腰を下ろし、一息つきました。もうずいぶんと旅をしてきたのです!

「君はどこから来たのかね?」と、老人は王子に尋(たず)ねました。

「その大きな本は何ですか?」と、王子は言いました。「この惑星で何をしているのですか?」

「私は地理学者だよ。」と、その老人は言いました。

「地理学者って何ですか?」

「それは、海や川や都市や山や砂漠がどこにあるかを知っている学者のことだ。」

「それは面白いなあ」と、王子は言いました。「それこそ仕事と呼ぶにふさわしい仕事だ!」それから王子は地理学者の惑星を一渡り見てみました。それまでこれほど壮麗な惑星を見たことは一度もありません。

「とても美しいですね、おじいさんの惑星は。大洋はあるのですか?」

「私には分からんよ。」と、地理学者は答えました。

「へえ!(王子はがっかりしていました)じゃ、山はありますか?」

「私には分からん。」と、地理学者は言いました。

「じゃ、都市や川や砂漠は?」

「それも分からん。」と、地理学者は答えました。

「でも、おじいさんは地理学者でしょ!」

「その通り」と、地理学者は言いました。「しかし、私は探検家ではない。探検家が圧倒的に足りないのだ。都市や川や山や海や大洋や砂漠の数を数えに行くのは地理学者じゃないからな。地理学者の仕事は重要だから外でうろつくわけにはいかないのだ。書斎を離れないのさ。その代り、書斎に探検家を迎える。彼らに質問し、そして彼らの記憶を書きとめる。それでもしその記憶が面白いと思えば、探検家の品行を調査させる。」

「なぜそんなことを?」

「なぜって、もし探検家が嘘つきなら地理の本に大変な支障をきたすからだよ。探検家が大酒のみの場合もそうだ。」

「なぜですか?」

「酔っ払いには物が二重に見えるからだよ。そうなると、地理学者は実際には山が一つしかないところに二つ書き込むことになる。」

「僕の知り合いにもいますよ」と、王子は言いました。「探検家には向かない人が。」

「そうだろうな。だから、探検家の品行が正しいようなら、彼が発見したものを調査するのだ。」

「実際に見に行くんですか?」

「いやいや。それでは煩雑(はんざつ)すぎる。代わりに、探検家に証拠を出すように要求するのだ。例えば、大きな山が発見された場合、その山の大きな石を持ち帰るように要求するのさ。」

突然、地理学者は興奮した面持ちになりました。

「ところで君、君は遠くから来たんだなあ!君は探検家だよ!君の惑星のことを詳しく話してくれ給え!」

それから地理学者は記録台帳を開き、鉛筆を削りました。探検家の話は先ず鉛筆で記録されるのです。探検家が証拠を提出するのを待ってインクで記録するという段取りです。

「それで?」と、地理学者は尋ねました。

「ああ!僕の惑星は」と、王子は言いました。「あまり面白くありませんよ、ごく小さい惑星なんです。火山が三つあります。二つが活火山、一つが死火山。でも、いつどうなるか分かりませんから。」

「いつどうなるか分からんな。」と、地理学者は言いました。

「花も一本あります。」

「花は記録せんよ。」と、地理学者は言いました。

「どうしてですか?すごく綺麗なんですよ!」

「花ははかないものだからね。」

「どういう意味ですか?『はかない』って。」

「地理書は」と、地理学者は言いました。「全ての書物の中で最も貴重な書物なのだ。決して時代遅れにはならない。山が場所を変えることはめったにないし、大洋の水が空(から)になることもめったにない。我々地理学者は永遠不滅の物を書き記すのだよ。」

「でも死火山が目を覚ますこともありますよ」と、王子が口をはさみました。「どういう意味ですか?『はかない』って。」

「火山が死んでいようが生きていようが、我々地理学者にとっては同じことだ」と、地理学者は言いました。「大事なのは、それが山だということさ。山が変わることはないからな。」

「でもどういう意味ですか?『はかない』って。」と、王子は重ねて訊(き)きました。王子はそれまで、一度質問をすると答えてもらうまでは諦(あきら)めなかったのです。

「それはだねえ、『近いうちに消えてなくなるおそれがある』という意味だ。」

「僕の花は、近いうちに消えてなくなるおそれがあるんですか?」

「もちろんだ。」

僕の花ははかないものなんだ、と王子は思いました。それにあの子は世の中から身を守るのに4本の棘(とげ)しかもっていない!それなのに、僕はあの子を一人惑星に置き去りにしてきた!

そこで初めて王子は後悔の気持ちにとらわれました。しかし、再び気を取り直して、

「おじいさんは、僕が訪ねて行くとしたらどこがお勧めですか?」と尋ねました。

「地球という惑星だな」と、地理学者は答えました。「評判の良い惑星だし…」

そこで王子は、花のことを考えながら地理学者の惑星を後にしました。



(ミスター・ビーン訳)