*シューマンの歌曲 (32)-詩人の恋 第14曲 毎晩 僕は君の夢を見るー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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≪エンデニヒ療養所①≫

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-エンデニヒ療養所
旧エンデニヒ療養所(現シューマンハウス)

1854年3月4日、シューマンはボン郊外のエンデニヒ精神療養所に
入ります。

この施設は精神科医フランツ・リヒャルツ博士が1844年に開設し
た療養所でした。
人道的な「無拘束の原則」に基づく治療法で知られており、可能
な限り患者に自由を与えることを理念としていたのです。
患者は食事や薬を強要されることはなく、面会者も部屋の壁に作
られた面会窓を通して患者と接触することができました。

当初の診断は「精神錯乱を伴うメランコリー」ということでした
が、近親者との接触は治療の妨げになるとの方針でクララとの面
会は許されませんでした。
クララがシューマンと面会できたのは、1857年7月27日、夫の死
のわずか二日前のことです。

6月11日には、末子フェリクスが誕生します。父ロベルトの詩才を
受け継いだのか、25歳という短い生涯を閉じる前に幾篇かの詩を
書き残しています。

7月にはシューマンからクララに「最初の愛のしるし」として花束
が送られ、病状が安定してきたということで9月8日にはシューマン
宛のクララの手紙が届けられます。
9月14日にはシューマンからクララに宛てた手紙の執筆も許されま
した。
ブラームス、ヨアヒム、ジムロックらとの文通も始まり、11月、12
月にはクララ宛の手紙も書かれます。

クリスマス・イヴにはヨアヒムが訪れ、3回目の面談を果たします。
しかしヨアヒムの印象では、初回の印象は慰めに満ちたものだった
が2回目、3回目では希望の光はすっかり消え、肉体的にも精神的に
もシューマンは目に見えて消耗していたということでした。

今日の曲は1840年、あの「歌の年」に書かれた名曲

「Die beiden Grenadiere Op.49-1 二人の擲弾兵」

歌曲集「ロマンスとバラード第2集Op.49」の第1曲目の曲で、ロシア
で囚われた二人のフランス兵士の祖国フランスと皇帝ナポレオンに
寄せる熱き想いを歌った曲です。最後の一節はフランス国歌「ラ・マ
ルセイエーズ」が用いられていることでも有名です。
歌唱は、イギリスのバス・バリトン、ブリン・ターフェルです。



Die beiden Grenadiere Op.49-1 二人の擲弾兵
Heinrich Heine ハインリヒ・ハイネ
Nach Frankreich zogen zwei Grenadier,
フランスへ向かう二人の擲弾兵、
Die waren in Rußland gefangen.
彼らはロシアで捕らわれていた。
Und als sie kamen ins deutsche Quartier,
ドイツの宿舎についた時、
Sie ließen die Köpfe hangen.
彼らは悲しみで首を垂れた。

Da hörten sie beide die traurige Mär:
そこで二人は悲しい知らせを聞いたのだ。
Das Frankreich verloren gegangen,
フランスは敗れ去り、
Besiegt und geschlagen das tapfere Heer
勇敢な軍隊は敗れ打ち負かされ
Und der Kaiser, der Kaiser gefangen.
そして皇帝が、皇帝が捕われたのだと。

Da weinten zusammen die Grenadier
そこで泣き合う擲弾兵、
Wohl ob der kläglichen Kunde.
この悲しい知らせの為に。
Der eine sprach: “Wie weh wird mir,
一人が言う「ああなんて事だ、
Wie brennt meine alte Wunde!“
古傷も燃えるように痛む!」

Der andre sprach: “Das Lied ist aus,
もう一人が言う「もうお終いだ。
Auch ich möcht mit dir sterben,
俺もおまえと死んでしまいたい、
Doch hab ich Weib und Kind zu Haus,
だが俺には家に妻と子がいる、
Die ohne mich verderben.“
あいつらは俺無しでは路頭に迷う。」

“Was schert mich Weib, was schert mich Kind,
「妻がなんだ、子がどうした、
Ich trage weit besser Verlangen;
はるかにましな望みが俺にはある。
Laß sie betteln gehn, wenn sie hungrig sind-
そいつらが飢えているなら乞食でもさせておけ―
Mein Kaiser, mein Kaiser gefangen!
皇帝が、俺の皇帝が捕われたんだぞ!

Gewahr mir, Bruder, eine Bitt:
兄弟、俺の願いを聞いてくれ。
Wenn ich jetzt sterben werde,
俺がここで死んでしまったら、
So nimm meine Leiche nach Frankreich mit,
俺の亡骸を一緒にフランスへ持っていき、
Begrab mich in Frankreichs Erde.
フランスの地へ埋めてくれ。

Das Ehrenkreuz am roten Band
緋色の帯のついた十字の勲章を
Sollst du aufs Herz mir legen;
俺の胸に付けてくれ。
Die Flinte gib mir in die Hand,
手には銃を持たせ、
Und gürt mir um den Degen.
腰には剣を帯びさせてくれ。

So will ich liegen und horchen still,
そしたら俺は横になってじっと耳を澄まそう、
Wie eine Schildwach, im Grabe,
墓の中で歩哨の様に。
Bis einst ich höre Kanonengebrüll
いつか大砲の轟きと
Und wiehernder Rosse Getrabe.
いななく馬たちの蹄の音を耳にするまで。

Dann reitet mein Kaiser wohl über mein Grab,
その時俺の皇帝が俺の墓の上で馬に乗り、
Viel Schwerter klirren und blitzen;
数多の剣が鳴り響き煌く、
Dann steig ich gewaffnet hervor aus dem Grab-
その時こそ俺は武器を持ったまま墓を出て―
Den Kaiser, den Kaiser zu schützen!“
皇帝を、皇帝をお護りするんだ!」

ブリン・ターフェル(Bar.)




≪今日の1曲≫

歌曲集「詩人の恋」も残すところ3曲となりました。
今日はその14曲目

「 Allnächtlich im Traume seh’ ich dich 毎晩 僕は君の夢を見る」

詩人の心は穏やかな心情に転換するかに見えても、歌は途切れがちにな
り、その喪失感の深さをあらわします。


14. Allnächtlich im Traume seh’ ich dich 毎晩 僕は君の夢を見る
Allnächtlich im Traume seh’ ich dich
毎晩 僕は君の夢を見る
Und sehe dich freundlich grüßen,
君が優しく挨拶してくれて、
Und laut aufweinend stürz’ ich mich
僕は大声で泣きながら
Zu deinen süßen Füßen.
君の愛らしい足元に身を伏せる。

Du siehest mich an wehmütiglich
君は憂鬱そうに僕を見て
Und schüttelst das blonde Köpfchen;
ブロンドの頭を振る。
Aus deinen Augen schleichen sich
君の瞳からひそかに流れ出る
Die Perlentränentröpfchen.
真珠のような涙の粒が。

Du sagst mir heimlich ein leises Wort
君は僕にこっそりと小さな声でささやき
Und gibst mir den Strauß von Zypressen.
糸杉の枝の束を僕にくれる。
Ich wache auf, und der Strauß ist fort,
目が覚めると、束は消え去り、
Und’s Wort hab’ ich vergessen.
君の言葉も思い出せない。



フィッシャー=ディースカウ(Bar.) 5分2秒から


シュライアー(Ten.)