出張で数日前から小倉に来ていた。
そして昨日、いよいよ帰京する予定だった。

ところが、台風の影響で雲行きが怪しい。

「羽田空港上空の状況によっては、着陸できない可能性があります」

そんなアナウンスを聞けば、こちらとしては当然こう思う。

「それなら、もう早めに欠航を決めてください。」

欠航が早く決まれば、まだ新幹線で東京へ帰るという手がある。
ところが、そう簡単にはいかなかった。

どうやら、この状況でも実際に空港まで行って、そこで待たなければならないらしい。

「うーん……」

この時点で、すでに嫌な予感がしていた。

 

 

画面の一番上が、私が予約していた便である。

その下を見ると、JALの後の便は早々に欠航が決まっている。

「そっちは欠航になったのか……。では、こちらもそろそろ……」

と思うのだが、なかなか決まらない。

そして、これが後になって効いてくる。

飛行機が欠航になれば、当然、乗客は一斉にホテルを探し始める。
早く欠航が決まった便の乗客からホテルを確保していくことになるので、遅くまで判断を待たされた我々は、ホテル争奪戦において圧倒的に不利になる。

つまり、

「飛ぶかもしれないから待ってください」
↓
「やっぱり飛びません」
↓
「さて、今夜どこに泊まろう?」

という、なかなか厳しい展開である。

出発ゲートの表示も、すっかり台風仕様になっていた。

 

まず20分の遅延がアナウンスされた。

これは羽田から来る機材の到着が遅れたためとのこと。

まあ、20分くらいなら仕方がない。

ところが、その後は羽田管制から飛行許可が出ない。

さらに1時間ほど待つ。

「もしかしたら、飛ぶのでは?」

「いや、これは無理なのでは?」

乗客としては、ただ待つしかない。

そして、しばらくしてついにアナウンスが入った。

飛行許可が下りず、欠航。

 

 

……やっぱりか。

しかも、もっと早く決めてくれていれば、新幹線でその日のうちに東京へ帰ることもできた。

ところが、この時点ではもう遅い。

次の日の早い便は満席。
結局、振り替えてもらったのは、元の便と同じ15時55分。

つまり、帰宅が丸一日ずれた。

そして当然、その日のホテルもこれから探さなければならない。

しかし、すでにホテルはかなり埋まっている。

 

そして、気持ちが変わった

ここからが、今回の話で自分でもちょっと面白いところである。

欠航が決まり、悶々とした気持ちのまま、空港から小倉へ戻るバスに乗った。

「もう、どうするかなあ……」

頭の中では、

「新幹線で帰るか、もう一泊するか」

を行ったり来たり。

新幹線なら、まだその日のうちに東京へ帰れる。

そう考えていた。

ところが、小倉に着いてバスを降りた、その瞬間だった。

ふっと、体を撫でるような風が吹いた。

気持ちがいい。

時刻は夕暮れ時。

さっきまで空港で欠航に振り回されていたのに、小倉の街は何事もなかったかのように賑わっている。

人が歩いている。
街に明かりがつき始めている。

その光景を見ながら、ふと思った。

「……もう一泊してみようかな。」

え?

さっきまで、何としてでも今日中に帰ろうと思っていたのに。

ほんの一瞬である。

風が気持ちよかっただけ。
夕暮れの街が、なんとなく楽しそうに見えただけ。

それだけなのに、気持ちが変わってしまった。

そして、最後の最後で新幹線をやめた。

人間というのは、分からないものである(笑)。

 

人生初のカプセルホテルへ

とはいえ、もう一泊すると決めたからには、今夜の宿を探さなければならない。

しかし、すでにホテルはかなり埋まっている。

そこで私は、人生で初めての選択をすることになった。

カプセルホテルである。

「まあ、こういう機会でもなければ、一生泊まらないかもしれない。」

そう思い直し、挑戦してみることにした。

ちなみに、小倉から北九州空港までのシャトルバスの運賃も、結果的には無駄にならずに済んだ。
そこは良かった……ということにしておこう。

 

せめて鰻くらいは……

さて、災難ばかりでは面白くない。

小倉に着いてすぐ、以前から気になっていた「田舎庵小倉本店」で鰻を食べた。

 

 

メニューを見ると「せいろ」という珍しいものがあったので、それを注文してみた。

鰻そのものは、さすがに美味しい。

しかも、鰻の大きさを考えると、値段の割にはかなり満足感がある。
東京と比べると、コストパフォーマンスも良さそうだ。

ただし、一つ問題があった。

ご飯がせいろで蒸されていて、ものすごく熱い。

とてもではないが、熱々のご飯をかき込むようには食べられない。

「熱っ、熱っ」と言いながら、少しずつ食べる。

まあ、これはこれで美味しい。

欠航で気分は沈んでいたが、鰻のおかげで少し復活した。

飛行機は飛ばなかったが、鰻は飛ばない。

これは今回の旅の、数少ない確実な収穫である。

 

人生初のカプセルホテル

そして、いよいよ人生初のカプセルホテル。

これまで、カプセルホテルにも漫画喫茶にも泊まったことがなかった。

今回は、まさかの形で初体験となった。

お風呂は、銭湯にサウナが付いているくらいの感じ。
もちろん十分ではあるのだが、何度も入りたくなるほどのものではない。

風呂から出ると休憩室へ。

大画面テレビがあり、その前のソファーで、皆さん思い思いにスマートフォンや端末をいじっている。

しかも、意外なほど空いている。

食事もできるようだが、長時間カプセルホテルにいずらいので、今回はパス。

(外に出て,黒酢チキン南蛮定食を食べてきた。)

そして、いよいよカプセルへ。

カプセルの中に入って寝る。

当たり前だが、狭い。

しかし、横になってみると、それほど問題はない。

「これなら寝られそうだな」

と思った。

ところが、夜はそう簡単ではなかった。

最初は耳栓なしで、そのまま寝落ちしそうになった。

すると突然、

「うおおお……」

という獣のような声が聞こえてきた。

「何事か!」

と思って目を覚ましたら、なんと下のカプセルの人のイビキだった。

なるほど。

カプセルホテルとは、こういう世界なのか。

慌てて耳栓をする。

しかし、耳栓をしても完全ではない。

咳の音や、何やらいろいろな物音が聞こえてくる。

結局、すぐには眠れなかった。

ようやく眠ったのは、1時くらいだっただろうか。

そして6時過ぎには目が覚めた。

さすがにもう一度寝るには中途半端な時間だったので、しばらくカプセルの中でうつらうつら。

その後、9時頃までそんな状態で過ごし、風呂へ。

そしてまた休憩室へ。

そんなこんなで、初めてのカプセルホテル体験は終了した。

正直なところ、

やっぱり普通のホテルの方がいい。

これは間違いない。

しかし、意外だったのは、ベッドのクッションと枕がとても良かったこと。

狭い空間ではあるが、横になってしまえばそれほど苦痛ではない。

むしろ、思った以上に疲れが取れた。

「なるほど。緊急時なら、これはこれで十分ありだな。」

というのが、初めてカプセルホテルに泊まった私の結論である。

とは言え、そうならないよう極力策を練ることにする。