仏滅後 正法 像法 そして二千年の時を経て末法の時代

 

 

 世の人々は満たされぬ思い 苦しみ

 そして悲しみから逃れる術を見つけられず

 もがくしか無かった

 

 

 そして人々は祈った 

 自分達を苦しみから救い出してくれる聖者が

 自分達を導いてくれる賢者が現れる事を・・

 

 

 

 

 ここは近江の国 とある山里

 そこに1人の青年が居た

 

 

 

 

 

 

 へへ・・・

 

 

 こりゃ 美味そうだ

 

 

 うわっ

 

  くそっ 渋柿だっ!

 

 くそったれめ

 

 こらーっ!

 

  たくろうっ!

 

  お前 今 柿を盗んだだろうっ

 

 はぁ~ 渋柿だろうが・・

 

 悪さばっかり しよってっ!

 死んだ親父さんが泣いてるぞっ!

 

 うっせえな・・解ったよ

 じゃあ返してやるよ

 

 ほらよっ

 

 

 うわっ!

 

 はははっ

 

 お前と言う奴は~・・

 

  ふん

 

 アホらしい・・

 

 お前なんか とっとと村から

 出て行けーーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて奴だ・・

 

 ここ数日 奴を見ていたが

 とんでも無い悪ガキだ

 

 あの男が本当に先代様の お子なんだろうか

 

 まあとりあえず 話だけはしないと

 いけないだろう・・

 

 

 

 男の名は たくろう 歳は16歳

 一ヶ月前に父が死に 天涯孤独の身となった

 母親は居ない

 

 元々 素行の悪い男だったが 父親が

 亡くなってからは それは更に酷くなって行く

 

 そして今ではもう誰も手を付けられない

 無法者になっていた

 

 そして その日の夜・・

 

 

 

 くそー 腹減ったなー

 

 明日 畑に行って 芋でもかっぱらって

 来るか

 

 

 

 ごめんください

 

 ん・・?

 

 誰だ・・

 

 村の奴等か・・

 

 面白い・・

 

 

 

 誰だ・・

 

 はい 大和の国からやって参りました

 伊助と言う者でございます

 

 大和の国・・伊助?知らねぇな・・

 

 何の用だ

 

 はい 実は貴方様の本当の父上様の

 事についてお話しようと参上致しました

 

 父親? この間死んだ 親父の事か?

 

 いえ そうではございません

 実の父上様の事でございます

 

 ・・・・

 

 入れ・・開いてるぞ

 

 

 

 

 じゃあ聞かせてもらおう

 本当の親父の事って言うのは

 どういう事だ

 

 はい・・

 貴方様の本当の父上様は 大和の国

 真正寺のご住職 鏡円上人です

 

 住職? 坊主って事かっ?

 

 さようでございます

 

 じゃあ この間死んだ親父ってのは・・

 

 里親でございます

 

 里親だと・・そうか何となく話が

 見えてきた

 

 鏡円上人様は元々はある商家で丁稚をされて

 いました

 

 そして その商家のお嬢様と なさぬ仲に

 なったのです

 

 しかしそれをお嬢様の父親 つまり店の

 旦那様に知れてしまい 2人は

 引き離されます しかしその時既にお嬢様は

 身籠もっておられました

 

 そして店を放りだされた 貴方様の父親は失意の

 内に出家なさいます そしてお嬢様は暫くして

 お子をお産みになられました

 

 もうお解りでしょう

 そのお子と言うのが貴方様 たくろう様で

 ございます

 

 貴方をお産みになった お嬢様は心労が

 祟り暫くしてお亡くなりになられます

 そして残された貴方・・たくろう様は

 里子に出されたと言う訳です

 

 なるほど そういう事か・・・

 ふん・・まあしかし・・バカな親父だな・・

 

 

 (この男・・)

 

 (これ程の話を聞いても 全く動揺していない)

 

 (何と言う男だ・・)

 

 で、そんな事をわざわざ言いに来たのか

 

 いえ・・これからが本題です

 

 何だ

 

 鏡円上人が お亡くなりになられました

 

 何だと

 

 で、鏡円上人のご遺言ですが・・

 

 貴方様に寺を継いで欲しいと言う事です

 

 はぁ?俺が寺を・・?

 

 はい・・

 

 俺に坊主になれって言うのかっ

 

 さようでございます

 

 ぷ・・

 

 ハハハッ

 

 この俺が坊主だと それは傑作だっ

 

 はははっ

 

 

 では引き受けてはもらえませぬか・・

 

 当たり前だっ 何で俺が坊主なんて

 しなきゃいけないんだっ

 

 

 解りました・・

 

 (これでいい こんな男を寺に入れたら

  大変な事になる)

 

 (これで私の役目は終った)

 

 ん・・?

 

 (ちょっと待てよ・・)

 

 (寺に来る じいさんばあさんから

 金を巻き上げるなんて簡単だろう)

 

(絞り取るだけ絞り取ってやるか・・

 で、具合が悪くなったらトンヅラしたらいいか)

 

 おい行ってもいいぜ

 

 え・・・

 

 行ってもいいって言ってんだよ

 

 ・・・・

 

 (私は・・)

 

 (別にここに来なくても良かった)

 

 (この男の行状を報告して寺の跡目として

 ふさわしくないと報告するだけで良かった)

 

 (でも確かめたかった もう1度確かめたかった)

 

 (私は今まで多くの賢者、聖人と呼ばれる

  僧侶 神職の方々を見て来た)

 

 (大導師と呼ばれる方々 そしてそう呼ばれるに

 ふさわしい方々の行いも つぶさに見て来た)

 

 (逆に身分だけ高いが 口だけの者

 欲にまみれた僧侶 神職者達も多く見て来た)

 

 (だから私には解る 多くの僧侶 神職者達を

 見て来て その人が偉大な方かどうかが解る)

 

 (その偉大な賢者 聖者達の共通している事)

 

 (それは目だっ)

 

 (目の輝きが違っていた 何事にも負けない

 意思の強さを感じた あきらかに常人とは

 違っていた)

 

 (私がここへ来た理由がそれだ)

 

 (でも何故だ 何故だ・・何故なんだ)

 

 (何故 この男は)

 

 (その賢者達と同じ目をしているんだっ)

 

                      続く