「今の野球部は、昔のように上下関係が厳しいとかは無いです。

下級生でも楽しんで活動できるような雰囲気を大事にしています。

試合も学年関係なく背番号を渡しています。」

 


  福山監督からLINEの返信が届いた。

 

安心して先生をお任せできそうだ。

 


  「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

野球部主将の久米です。

我々野球部は、練習で泣いて、試合で笑う、をモットーとしています。

練習は厳しいですが、その先には公式戦で成果として表れるものと考えます。

今年は福山監督のもと、県大会出場を目指しています。」

 


  入学式の後、各部主将から部活動の紹介と、新入生に対する歓迎のお言葉をいただいた。

 

先生は迷わず野球部に入部届を提出した。

 


 チームメイトだった香田玲奈は青葉中女子ソフトボール部に入部。

 

田中幸輔は同じく青葉中野球部へ入部した。


  今年の1年生は15人が入部した。

 


  「それでは、一人ずつ簡単に自己紹介をお願いします」


  「千堂慶です。ポジションはピッチャーです。」

 


  練習初日、中学野球部の練習に体力の隅々まで使い果たされた。

 

体力自慢の先生だが、ここまでくたくたになったのは記憶にない。


  練習メニューを訊くと、1年生は筋トレ中心だそうだ。

 

筋トレと云ってもマシンを使った本格的なものでなく、昔ながらの腕立て伏せや腹筋、肩車ダッシュなどなど。

 

女子の私からすると、途方もない内容なのだが、先生は弱音を吐くことなく、何とかこなしてきた。 

 

夕飯はどんぶり飯を3杯お替り。

 

そんな練習してきたんだから、そりゃこのくらいは食べるわよね。

 

なんだか先生の身体が、毎朝見るたびに大きくなっている気がしてならない。

 

成長期の真っただ中なのだろう。

 

母は、食育の面で全面サポートするよ。

 

顔つきも少しづつ大人びてきたし、ひげが生えだしたり、声変りもしてきた。

 

こうして、少年から少しづつ大人の階段を登り始めるんだろうな。

 

この頃って、母親としては成長を感じるから嬉しいのだが、あどけない少年がいなくなる寂しさも覚えるんだよね。

 


  久米主将の話によると、今年はピッチャーを中心とした守り重視のチームだとか。


  絶対的エースの堤君は球速はこの世代でトップクラス。

 

ただ、少し荒れ球のようだ。

 

コントロールが冴えた時は誰も打てないようなボールを投げる。

 

反面、見極められると四球を連発しては、大きいのを打たれる悪い面がある。


  ある日、バッティング練習をしている時、監督から直接指導をされて、それ以降急激にバッティング技術が向上した。

 

5月に市内総合大会があるのだが、メンバー発表の時、何と、

 

 


  「20番、千堂」


  これには本人が一番びっくりしている。

 

確かに打撃センスはある方とは思ってはいたが、入部して間もないのに1年生で唯一背番号をもらってきたのだ。

 

試合の前夜、心を込めて背番号を縫り付けたよ。


  大会は3回戦まで勝ち進み、迎えた4回戦の対戦相手は強豪の明秀中だ。

 

エース堤君が6回まで無失点、6回裏に4番の3塁打で先制する。

 

7回に疲れの見えた堤君が捕まり3失点。

 

9回裏の攻撃前、監督から声を掛けられた。

 

 

 

 

 

 

 

「代打で行くぞ」

 


  2アウトながら1,2塁の一打同点のチャンスを迎えたその時。

 


  「タイム!代打20番」


  こんな大事な場面で先生が代打でバッターボックスに立った。