珍しく私が食事の後片付けを行うことにした。
正確に言うと、彼女のサラダを食べてしまったからすることになった。
罰を受けた、ともいう。
そうだ。さっき音楽を変えてって言ってたんだった。BGMを変える。
「これいいよね。”Natural Woman”でしょ。
こんな渋いの聴くようになって笑
けど、これ聴くと昔の私を思い出すんだよね、肩肘張って生きてて疲れ切ってた、あの頃。
そんな時、健に出逢ってから、なんか自然に肩の力が抜けて、naturalに、あるがままでいれば良いんだって思えるようになってから、楽になったんだよね」
これでおやじギャグの汚名を返上できた。
ジョニーの店で聞いた曲の事は、もう少しだけ自分の中で温めてから話そう。シチューを煮込むように。
食事の後片付けを終えて、テーブルに戻り、新しいワインを開ける。
今日は、ソファーで寛ぐ真由美の話に耳を傾けよう。
今日ずっと一人でいたから話したいはずだ。
「昔さ、3高ってあったじゃない。高身長、高学歴、高収入の男性が理想の結婚相手の条件ってやつね。
当時は本気でそういう人を求めたり付き合ったりしてた。
でも今思うとなんて解ってなかったのかと。
確かに見た目はいいかもしれないし、裕福な暮らしが期待できるかもよ。
でもそういう人たちに限って、付き合いが続かなかった。
付き合ってみたらマザコンだったり、スポーツがダメだったり、表面だけ取り繕ってるのが見えてきちゃって、あー、男は見てくれや社会的地位とかじゃないんだ、中身のある人じゃなきゃ、って気付いたの。」
『それ、男からみても同じだよ。
顔面偏差値が高い奴ほど薄っぺらい。
そうでない人の方が漢気があったりして、魅力を感じるよ』
「うん。健はさ、高身長ではあるけど、社会的な地位が高いって訳でもない、でも最初から自然でいられたの。
あ、ごめんね。これ褒めているんだけど、伝わりにくいよね。
多分、フィーリングとか価値観が似てたのかな。
今だって、お互い好きなcarole kingを聴いているし。
今はね、フランス料理店よりジョニーの店みたいなのが好きだし、高価なシャンパンより手ごろな赤ワイン、キャビアよりいくら丼が好き、笑。
でね、相手には、私を自然でいさせてくれること、現実の生活も大事だけど同時に夢を持ってること、私のわがままな面をやさしく包み込んでくれること、普段着の私が良いと言ってくれること、こんなのが良いな。’友達以上恋人未満’、じゃなくって、’友達 ≒ 恋人’を極限まで突き詰めた関係。分かる?」
『何となくね。
俺はさ、親から授かったこの身体だけで十分だよ。
あとは、自分で道を切り開いて行けばいい。
自分のやりたいことを自由にすればいい。
だから、相手にも多くは望まない。かっこは付けない、飾ったりもしない。
そんなのはすぐに剥がれてしまうって解ってるし余計カッコ悪いから。
18歳の頃からそうやって生きてきた。
だから俺は、キャビアでもいくら丼でもなく、鮭の塩焼きがいい、笑』
「健のお父さんが亡くなったの、確かそのころだったんだよね」
昼間の千秋やジョニーとした話を聞かせた。
『それで千秋が言うには、あのシーンあのドクのセリフには3部作通じての最終着地点を表現しうる含蓄が含まれているんだって。
誰もが白紙の紙に、自分で物語を描いていくんだと。
じゃぁいいものにしなきゃ、って言う場面。
これ名言選手権堂々の1位だよ。
昔の映画なのに、はっとさせられたね』
彼女の話を聞くはずだったのに、しゃべりすぎてしまった。
彼女の様子をうかがうと、楽しそうに微笑んで聞いてくれている。
その笑顔、Priceless.
きっとこれが、心が裸な状態
natural woman ...