昨日たまたま、夜、家でネットを見ていたら、津田沼駅前「BOOKS昭和堂」、閉店までの舞台裏
ミリオンセラーを生んだ書店員の葛藤とは?という記事を偶然見つけてしまいました。
BOOKS昭和堂なんて、まったく縁もゆかりもないんですが、マイナーだった「白い犬とワルツを」という本を、POP一つででベストセラーに押し上げた、あの、カリスマ書店員のいた店ということで、書店員では知らない人はあまりいないでしょう。
わたしも、元書店員としては反応せずにはいられませんでした。
しかし、この記事を見て驚いたのは、そのカリスマ店員、その後、出版界のレジェンドとして、特別な地位にでもいるかと思いきや、静かにすでに退職しているというのだ。
一般的な書店員では、ほぼ成しえないことを、達成した人だというのに・・・。
大体書店の仕事というのは、散々言っている通り、カリスマや凄い人を生みにくい現場だ。
というのは、全国どこの書店で買っても、すべて同じ値段という、再販制度があるのと、本を全国に、売上ランクに応じて配本数を決めて送る、書店界の支配者、取次会社の存在がある。
個人が奇跡を生み出しにくいのは、まずこの二つの存在が大きいと個人的には思います。
まあ、共産主義みたいな環境であり、この制度では、売れ筋を大量に仕入れられる、メガ書店が当然有利になります。
そんな中、書店員達は、己の実力をどうアピールしているのかというと、大半の書店員は、「俺が作ったこの棚陳列は特別だ!!」 「そのおかげでこういう結果を残した!」と、口で勝負しています(笑)
まあ、結果は数字に表れ、どこも出版不況で前年割れが当たり前ですが、そんな結果が出ているのに、「俺だからこの程度で済んでいる!」と、素晴らしく優秀な書店員様たちはそうアピールしていました、みんな。
そんな中、白い犬をメガヒットに育てた人は、無名の本をPOP一つで、記録的ベストセラーに導いたのです。
きちんと目に見える数字で結果を残した、数少ない奇跡的な、本物のカリスマ的偉業だと思いますね。
そんな人は、わたしの知る限り、出版界ではその人しか知りません。
でも記事を読むと、そういう状況にした功績があるにもかかわらず、メディアや世間になびかず、頑固に書店員魂を続けたようですね。
〈新しさや部数の大きさでしかものを測れない人を軽蔑してください〉
うん、書店にたまにいる、頑固なザ・書店員の典型という感じです。
正論だと思いますが、出版関係者というのは・・・、特に取次から来る担当者はみな、この人が軽蔑する、部数の大きさだけで語るようなヤツばっかりですよ。
「この店は、文庫の売上比率が12%なので、在庫数も12%にして、S・Aランク商品のみにしましょう!無駄をなくして効率よく売り上げましょうよ!!」
わたしも店長時代、優秀だと評判らしい、取次の若い担当者にそう提案(半ば命令)されました。
エリア長からも、親会社がこの取次だったため、指示に絶対従えという命令もあり、泣く泣く在庫をそうしてみたら、やはり・・・、効率よく売れるどころか、面白いように売上が落ちました。
書店の魅力は、いろんな本を、実際手に取って見てみる、発見する、というところに、醍醐味があります。
どうせそんな売れないんだし、話題のSランクだけ置いとけばいいんだよ!というものではありません。
これは、文化芸術系全般に言える事で、だから、これだけネットが充実した今は、唯一、在庫をたんまり置けるメガ書店だけが、書店の存在意義をかろうじて維持しているんだろうと思います。
まあ、私のいた店もそうでしたが、中堅書店はそうした、なにもかも中途半端、ネット書店などに対し、優位性がどう考えても思い浮かばないという、ジレンマを抱えていました。
そんな中、あのカリスマさえ生き残れなかった・・・。
そこに、書店という形態の、問題の根深さを感じます。
この記事では、そのカリスマの部下だったという、現店長もコメントに答えていました。
自分の師匠を、わたしは絶対正しいと思うと、絶賛しているのかと思いきや、割と批判しています。
こういう部分も、ああ、書店員時代を思い出すなって思います。
書店店長は、割と前任者を否定する傾向があるんですよね。
この現店長は、ここ4,5年、売り上げの低下が激しいと語っていますが、やはり想像もつきません。
というのも、わたしがいた10年前でさえ、かつてない危機という感じで、この状況でどうやって生き残るの??という感じでした。
あの時代が、まだいい時代だったなんて、今が全く考えも及びませんよ。
そういえば、たまに、駅前の書店などに行っても、今びっくりするくらい人がいませんね。
立ち読みもほとんどなくて、シーンとしている感じ。
こんなの、わたしたちの時代では考えられませんでしたよ。