歯医者に行った帰り道、駅ビルでプレツェルを見つけ、ちょっと一人で感動していた。

 

ひねり鉢巻をそのまま頭から外したような形のパンである。塩味の小さなビスケット様、油で揚げた大きな甘いドーナツ味は、コンビニでよく見る。今日見つけたのは、別物。柔らかくない、酵母パンである

 

NYの貿易ビルが襲撃された直後、まだその跡地から煙が上がっていた時、私は一人NYにいた。帰国予定日の前日、まったくのフリーの時間ができ、観光船に乗ってNY市の周りを一周することにした。時節柄、ほとんどの米国人観光客は静かにしていた。しかし静かにしていてもお腹はすくもの。船上の売店で売っていた、大人の顔ほどの大きさもある、プレツェルをかじり出した。そうするとなる。いつもの賑やかな米国人となる。

 

私も買うことにした。売店にあったのは「ホット・プレツェル」。ザラメのような塩がはりついている暖かい隙間だらけの固いパン。 噛み応えのある、味のあるパン。おいしかった。一個、食べきれなかった。

 

以後、プレツェルを食べてない。私の周りにはなかったのだ。家に帰るとすぐにオブントースターで温めて食する。あの日の塩付きプレツェルとは違うが、塩が練りこまれている。懐かしい日々が思い出された。もうあの事件から20年近くたつのだ。お世話になった人々の顔、声が浮かんだ。みんなもうあの世にいってしまったけれど、若いまま、私の中には生きている。