当時いたバンド・ZENのメンバーに脱退意志を伝え、残されたライブはあと2本ほど。
快く送り出してくれるメンバーの為にもしっかりやり切ろうと思いながら、俺は一つの懸念を抱く。
ギタリスト・きのぴーとの別れだ。
きのぴーは大概のバンドマンには「ヒロ」と呼ばれるが、だいたいこれは二分化されていて、大学の頃の軽音の頃の友人はみんな彼をきのぴーと呼ぶ。
俺もその1人だ。
大学の時に組んだバンドで外のライブハウスに出るとなった時、きのぴーだとちょっとアレだな、となり外では「ヒロ」と名乗るようになった…気がするが実際どうだっけ?
まぁいい。
俺のバンド人生はきのぴーありきな部分が多い。
実際にZENの楽曲もほぼ彼の作品だし、俺が抜けるより彼が抜ける方が比にならないダメージなはずだ。
で、それだけ彼におんぶにだっこだった俺が、自ら離れる決断をした。
ほんとにきのぴーとはよく一緒にいた。
大学の時は彼の運転する車でよく最寄り駅まで送ってもらってたしその道中はよく話したもんだ。
まぁ年頃の男子2人が話す内容なんてたいがいロクなもんではないけどな。
でもほんと笑いのツボもよく合うしよく飲みにも行った。
友達としてのきのぴーもだし
ギタリストとしてのヒロも
すごい俺にとっては大きかった。
一度、社会人になってから俺たちは別々のバンドで活動するのだが、たまたま同じ日にライブがあった際に「合同打ち上げしようぜ!」となり
自分のバンドメンバーそっちのけできのぴーバンドのメンバーと馬鹿騒ぎしていたら「仲いいね…」とドン引かれた事もある。
ただ、きのぴーは今では考えられないがものすごい人見知りだった。
対して俺は周囲が目を覆うぐらいの距離感のなさで人に近づき、たいがいの確率でウザがられていた。
たぶんコイツはそんな俺にいつもハラハラしていたと思う。
悪い事したなぁ。
まぁ俺のことはいい。
そんな人見知りもあるのか、きのぴーはそのギターの腕前にしては注目度が比例していなかった。
じゃあシャイかってったら、ステージではギターをぐるん!と回して(一回だけストラップが外れて俺のドラムセットに直撃した事がある。あれはビビった)みたり、そこいらのギタリストに比べたらめっちゃ動く。
やめろってぐらい。
ルックスも問題ない。
じゃあなんでだろう?と思った。
別々のバンドやってた時、たまに観に行ってもみんな「ギターがすごい」と言ってた。
な の に、だ。
だから俺は一度考えた。
俺がきのぴーの側にいてはダメだ。
絶対コイツをグングン前に押し出してくれる素晴らしいドラマーがいるに違いない。
ぶっちゃけ、カズポリとバンドを組むと考えた時、きのぴーを誘おうかなんて何度も考えた。
でも、おそらくあの海のものとも山のものとも分からんカズポリとのこれから全く先の見えない珍道中はきっときのぴーの歩もうとする音楽とはマッチしないと思っていたのもあり、そこは踏みとどまった。
これからどんなギタリストと俺は組むのだろう。
今まで本当にきのぴーに面倒かけまくった分、自分らでやらなきゃいけない道のりはそりゃまぁ計り知れない。
が。
もう踏み出した歩みだ。
カズポリと行くと決めた道なんだ。
…なんてな。
わかっていてもやっぱり不安と寂しさはめちゃあったし、残りのライブやっててもほんとコイツの背中をステージ最後列から見てたら色んな思いも蘇ってきた。
そして本当に俺はきのぴーと離れた。
最後のライブ。
終わった後にきのぴーは俺を家まで送ってくれた。
あー、もう未練ないようにさっさと降りようと思ってた時、その時だった。
きのぴーから意外な言葉を聞く。
「カズポリさんとお前のバンドならなんかめちゃくちゃ興味あるな」
…
…
え??
…
今なんと??
次回【BUgHYpER前途多難すぎるメンバー探し】