これは怪談だが、掟破りと言っていい語りの手法が使われている。
一人称の語りであるが、何とその語り主が死体なのだ。
死体が延々と周りで起こっていることを描写する。
これだけでも読む価値があると言っていい。


ただ、怪談好きの僕からすると、
物語のプロット自体は大して意外なものでもなかった。
主人公は子供なのだが、確かに子供の心理描写はうまい。
でも起こること自体はそれほど怖くもなかった気がする。


エンディングなんてかなりうまくまとめられていたが、
逆にうまくまとめようとした分、
荒削りな力強さが消えてしまったのかもしれない。


この本には2つの作品が収められている。
一つは今言及した「夏と花火と私の死体」で、
もう一つの作品は「優子」というタイトルの怪談だ。


僕には「優子」の方が断然楽しめた。
そこに描かれているのは現実と虚構のはざまの世界。

怪談の魅力は何かと聞かれたら、僕は、
そこに、現実からも乖離しているが、
といって完全に虚構とも言えないものがあるからと答えるだろう。


現実の世界だけでは物足りないと感じる時、
といって、SFのような完全なフィクションにも違和感を感じる時、
リアルな怪談がその架け橋となってくれるのだ。


「優子」はそんなはざまの世界をうまく描いている。
そして最後の最後まで読者は何が事実で何がフィクションなのかわからない。
その辺の語りの妙は何とも言えない。


この作品を学問的に解釈してみるのも面白い気がした。
正気なのは誰か? 狂気なのは誰か?
実際には何が起こったのか?
それを客観的に分析するのも面白いと思う。

これはいろんな楽しみ方ができる作品だと思う。