アマプラに誤って加入した記念に、気になっていた『犬王』を観ることにした。
気になっていた理由は前向きなものではない。
能や狂言を好む知人が、その前身である猿楽に興味をそそられ映画館に赴いたのだが「思ってたのと違った…」と、怒りでも落胆でもないまさに宇宙猫の表情で一言そう呟いたので…一体何を見せられたのか聞き出そうとしても、当時は共に首を傾げるしかなかった。
いよいよ決着をつける時が来た。
この作品を応援する類いの感想ではないことをあらかじめ述べておく。
そして終盤までしっかりネタバレすることも。
実際に観ると突っ込みが止まらない。
まず友魚(友一、友有)。
初めこそ彼は己のストーリーを持っていたし、犬王との出逢いで「犬王の物語」という新たなストーリーを手に入れた。
そこまでは良かった。
そこからを、友魚は破壊したように思う。それが自力でか他力でかは謎だが、確かにロックではある。
歌唱力は書くべくもない、声優でも歌手でもない人が犬王(本物のミュージシャン)と比べられたらかわいそう、まである。
友魚は琵琶法師なのだから、その中の人とて十八番であろう「語り」をすれば100点満点の演技ができただろう。適材適所の正反対を行く采配はもったいないの一言に尽きる。
だってあの名優ですよ、もったいない。
そして友魚は服装もちぐはぐ過ぎる。
彼は華美を知らない少年の頃から盲目のはずだが、実にいかしたファッションセンスを持っている。
見えないのに、知らないはずなのに、化粧をしてきらびやかに、服をはだけてセクシーに、キラッキラに着飾っている。
明確な理由はただ観ていた限りではわからなかった。
ビジュに振りきるのがロックだとして制作されたから?
幼い頃に盲目になり、歯並びが河原にいる系の人たち(または琵琶法師たち)とお揃いであるにもかかわらず、服と髪だけにはこだわっている姿を、皮肉として描写しているから?
ここに深い意味がなかったら、私が考えた時間を弁償してほしい。
終盤の「イヤだぁ!」取締パートからは、とっっっても良いシーンの連続だったと思う。
中の人も真価を発揮していたのでは?
序盤ときれいに繋がって、打ち捨てられつつ幻想的なエンディングとともに心にストンとオチた。
これで良かったんだよ、ここを丁寧に見たかったんだよ、中盤は紆余曲折だったというわけですかね。
次に、犬王について、まずは演出面から。
舞手が歌い出すのは新しいとかじゃなくて、反則では!? と初めこそ笑ってしまったが、中の人が素晴らしいのでライヴショーは黙って観賞した。
演出面は当時でもできそうなこじつけをしていて、そこが良いなと思った。
それなのに終盤の、池の中から照らすスポットは…蝋燭では無理があるでしょう。
怨念の龍がかなり良い演出だったために、安っぽくて明らかに電気引いてませんかっていうあのスポット照明はいただけなかった。
現実に引き戻されちゃうんです。
そして犬王自身について。
彼が奪われたのは普通の人生とかじゃなくて、異形の犬王という自分自身だと思う。
彼は初め、奪われた側ではなかった。終盤で漸く友魚(友有)側に立ったんじゃないだろうか。
異形であることは、枷ではなかったはずだ。
そのせいでできないことや、放置すると命に関わるとか、そういったデメリットがあるかは観ていてわからなかった。
代わりに、異形だけど何でもできる姿を、だからこそ自分らしくある姿を、犬王は誇らしく披露していたはずだ。
普遍的な体型に戻る、呪いが解けることは一見メリットしかないように思えるが、犬王にとっては実はデメリットだらけだったのではないか。
本人も、長~い腕を自慢げに操って「気に入ってる」と言っていたし。
舞うのに必要な身体が、鍛えられ整ったしなやかな状態なのは数少ないメリットかもしれない。
期待のご尊顔ですら無個性という痛烈なオチ。
メイクは洋画の伝説級ヴィランか、もしかしたら伝説級のロックスター忌◯清◯郎さんのつもりかも知れないが、果たして? ロックのつもりなのか、道化のつもりなのか?
ともあれ、面を外した時点で犬王は手に入れたというより、持っていた最後の個性を失ったように思えた。
友達のことを想い、心まで無個性になることを選んだ場面は、足掻いた友魚と対照的で良いシーンだったと思う。
そしてこのストーリーの根幹にも突っ込みたい。
ロックである必要はあったのか?
そこが、一番腑に落ちていないポイントだ。
とりあえずロック=新しい、だとしたら安直すぎないか?
そもそも、日本の伝統芸能において新しさを体現するものが、海外でそれぞれの歴史を刻んだロックやオペラや、ブレイクダンスやバレエなのはどうして?
猿楽を含めそれぞれのジャンルが開拓してきた歴史にあまりにも失礼では?
ロックのライヴと猿楽を、新しい旧いで比べることはできない。
グリーンカレーとソフトカルビはどっちのほうが美味しい? と聞かれるようなものだ。
「せめて同じジャンルの中で比べさせて」と思うでしょ?
生まれた経緯も育った国も違うんだよ、新しい旧いとかいう基準では、はかれないんだよ。
なんか…なんかこう…??
なんだこれ?
と思った人たちは私と同じく、琵琶法師と猿楽が観たかったんだろう。
そうではなかった。
そういう映画でした。