小坂井氏が絶賛する高橋和巳。

オーディブルで『堕落』を聴いたが、今回はKindleで作品を手に取った。

 

主人公・信藤は地方都市のメーカーで研究員として働きながら、労働組合の委員長も務めている。

仕事にも組合活動にも全力を注ぐ信藤だが、妻子がいながら、組合活動を通じて知り合った久米と不倫関係に陥る。

経済不況のあおりを受けて会社の業績は悪化し、人員整理が始まる。組合活動もいよいよ佳境に入る。

 

組織内で経営側と従業員側の板挟みに苦しみながら、家庭と不倫相手との関係にも思い悩む。

この、どうにも答えが出せないグレーな状況と、揺れ動く心情を見事に描写する。

 

なるほど、高橋和巳の作品は、白黒つかないこの世の中や、答えのない問いに対して、

深く掘り下げ、向き合い続けるとはどういうことかを伝えようとしている。

答えなんて簡単に見つかるものではない。けれど、生きていかなくてはならない。

 

この作品でも、誰一人として結果的にハッピーになってはいない。

だが、答えが見つからずに悩み、状況を打開できないままの状態が現実に存在することを、

こうした作品を通じて知ることで、「自分だけじゃない。だから、もう少し頑張ってみよう」と思えるのかもしれない。

 

また、高橋和巳の作品を読みたくなった。

 

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  • 人間というものは、誰かのために存在し、誰かのために働く。そしてその誰かの笑顔や喜び、あるいはその人との諍いすらが、生甲斐となる。私はその時、自己の自由の拡大や経済生活の向上のためにのみ人は闘うものではないこと、究極においては何者かへの奉仕こそが人を支え勇気づけるものであることを再確認した。どんな自由もそれを真に享受し喜びあう他者が存在しなくては意味をもたない。
  • 謂わば政治とは、窮極のところ人間の病める部分に関する技術の総称にすぎず、それを本来あるべき正常な形に戻す制度の医師が必要なことは当然ながら、いま特別苦痛のない人に、お前も病気なのだ、顔を苦痛にひんまげよ、と言ってみてもはじまらない。