愛
握手をした後、ばあちゃんとてもいい顔してるので写真撮ってもいいですか、と尋ねると
とても恥ずかしそうに、「あらあらどうすればいい」と顔を赤らめ両手を揃えた
仙台から北へ
大崎というところを走っていると
これぞ日本の原風景、という素晴らしい田園風景が広がった
思わず車輪を止めた
その先にある何かを期待して、少し上り坂になったわき道があったので、そこを抜けようとすると
田んぼで作業をしてたばあちゃんが、その手を止めてこっちへやってきた
なんだ?と思い、慌ててイヤホンを取ると
どうやら
「おめえ、なにしにきたっぺ」と言ってるらしい
雰囲気で察した...
そこは、抜け道ではなく、民家の入り口だったのだ!
これは悪い事をした。
とっさに合掌をするように申し訳ない、と訳を話した
ばあちゃんは顔を崩して、
「誰にでも間違いはあるっぺ、気にするな」と
不安げな顔が人懐っこい顔に変わり
警戒のシワが笑顔のシワへと変わった
「びっくりしだ、楽器みての持ってるし、楽団の人がうちに演奏しに来てくれたのかと思っだ」
と真顔で話す
どうみても普段、楽団が演奏しにくるようなお宅には見て取れなかったので、その動揺は計りしれない
この若き気ままな放浪者が、思慮の足りない一つのアクションで、一人の素朴なばあちゃんの農作業を中断させてしまったことに、ととも情けなく、申し訳なく感じた
「これから何処さ行くだ」
「この津軽三味線を持って弘前の大会に行くんです」
と話すと、まるで自分の孫を見守るように目を輝かせてくれた
「そりゃあ大したもんだ 一生懸命やれば いいことあるからな 優勝したら、またうちに寄って、教えにきてよ がんばってよ!」
と言ってくれた
僕は、すかさず軍手を外した
農作業で荒れたそのカサカサな手は、泣けるほど暖かかった
バックのチャックが空いてる、落ちたらあぶね、と一生懸命チャックを閉めてくれたり、ほんとに優しいばあちゃんだ
「遠い遠い道のりだが、一つ一つゆっくり進んでいけば、大丈夫 必ずたどり着くからな」
どんな哲学者の博愛論より、 どんな政治家の街頭演説より、どんなポップシンガーのラブソングより
その言葉一つ一つが熱を持って僕の胸に響いた
「ばあちゃんまたね」と優勝を誓う
東北弁のシャワーがあまりにも心地よくて、優しくて、僕の心は溶けた
その素晴らしき余韻が余計なものにかき消されぬように「無」を感じながら、次の目的地へとゆっくり車輪を進めた
ふと思い立って、ばあちゃんの田んぼを振りかえると
とおもろこしを作ってるというその老婆は
遠くで手を振ってくれていた