朝、ガタガタ鳴る音に目が覚めた。
ベランダで猫の鳴き声がした。
網戸からキジ白の猫がのぞいていた。
至近距離で目が合うとニャァ~ニャァ~と何やら訴えるくせにシャーシャーと威嚇をしてきた。
部屋に入りたそうだが、全く友好的ではなかった。
綺麗な猫で耳には切り込みが入っていなかった。
首輪は無いがきっと飼い猫だ。
私には心当たりがあった。
ペット不可なのに同じフロアの一番端っこのお宅で猫を飼っている。
散歩しているときに窓辺にいたのを私は見逃さなかった。
同じ間取りなので、きっと勘違いしているのだろう。
さて、どうするか?
私は大の猫好きで、モフモフしたい人間だ。
しかしもう大人だから家の中に入れたら面倒なことになることぐらいは分かっている。
そして、猫アレルギー持ちだ。
もう一人、家の息子も私と同様だが彼の場合は分別なくモフモフしに行きそうだ。
親方は動物が嫌いではないが、あくまで動物は動物で家族でもペットでもないと言う人だ。
実家でヤギを飼っていても名前をつけないで、あくまで除草をしてくれる家畜の域を超えない飼い方をしている。
単なるペットとしての犬猫には理解がない。
今朝はこの3人が揃っていた。
息子はまだ寝ていた。
親方が起きてきたので、状況説明をした。
「構うな、そのうちいなくなる」というのが親方の意見だった。
そりゃ、今から仕事に出かけていく人は良いさ。
私はずっとモフモフしたいけど我慢しなければならず、存在が気になって仕方がないじゃないか。
幸いなことに今日は天気が安定していて外にいても寒くも暑くもないが、ずっとこのままいられたら困る。
前に猫を飼っていてバレたと思われる住人は引っ越していった。
管理会社に連絡した人がいたからだ。
私もあまり長いこと居られたら管理会社に連絡しないといけなくなる。
「それも仕方ないね」と親方は言って仕事に出かけた。
そうこうしているうちに息子が起きてきた。
猫はまだベランダにいたが、もう鳴かなかった。
息子はさっさとごはんを食べて何も気づかずに部屋に戻っていった。
いっそ疑惑のお宅にお知らせしに行こうか?
いや、やめた方が良いような気がする。
猫の帰巣本能を信じて今日だけは放置しておこうと決め、悶々としながら過ごした。
たまに様子を見に行くと、じっと座っていた。
私に気が付くとシャーシャー言い出す。
2時間くらい経った頃、猫がうろうろし始めた。
脱出を考えている様子だった。
観察していたら、お隣のベランダに移動していった。
お隣はどうするだろうかと思っていたら、シャーシャーもニャーニャーも聞こえなかった。
結局お隣には長居せず、無事に帰っていったようだった。
下手に動かずに猫の帰巣本能を信じてみて良かった。