親方が実家から貰ってきた蟹が一つ冷蔵庫内にあった。

親方は貰ってきた当日に一つ食べてもう一つをご親切に私の分として残していた。
私はその翌日も食べる気にならず、いよいよ3日目には食べなければならない状況になった。
 
蟹は好きだし美味しいとは思う。
でも両手を使って蟹をバキバキ割りながら食べるのが面倒で億劫だ。
それからお腹のふんどしを剥がすと出てくる中のびらびらした食べられない箇所が虫っぽくて苦手だ。
さらに私は過去に唇を切ったり指を切ったりして流血戦を演じたことがあった。
蟹と格闘するには覚悟が必要だ。
 
テーブルには蟹以外に食べ物を置かない。
蟹と一対一だ。
あちこちに身を飛ばしながら、かなり長い時間を費やし勝負は終わった。
無事無傷で済んだし、今回の蟹は当たりだったので味も良かった。
蟹との勝負に勝ったかに思えた。
 
しかし蟹は解体されてもなお、存在感を放っていた。
それは蟹臭。
洗っても長い間両手から離れない、蟹臭。
はい、参りました。
私を蟹好きだと思い込んでいる親方には今更言えないけど、やっぱり蟹の解体は苦手だわ。