$言葉をつむぐ☆りゅういち



月明かりの下
酔っぱらいの若侍が
伊右衛門と言う名の下男を
斬りつけた

ただ出会い頭に
二人はぶつかっただけだった
伊右衛門は若侍に謝ったが
酒癖の悪い侍は怒り
刀を抜いたのだ

伊右衛門の身体は崩れ落ちた

血しぶきは
そばの馬小屋の柱や戸に
飛び散った


悲鳴を聞いて
伊右衛門が働く家人や
近所の人たちが集まり
彼を介抱したが既に息はなかった


朝になり家人や村人たちは
無念だった伊右衛門の成仏を祈りながら
馬小屋の柱や戸のどす黒い血痕を
束ねた藁と水で洗い流した


翌朝家人や村人たちは恐れおののく

跡形もなくきれいに拭きあげ血痕が
まるで生きもののように
浮びあがっていたからだ

南無阿弥陀仏と唱えながら
家人や村人たちは
束ねた藁と水でまた洗い流した

血痕はまた浮かびあがる

洗い流しても 洗い流しても
血痕は浮かびあがる


やがて伊右衛門の霊を慰めるために
地蔵が刻まれて法要された
村人は血浴び地蔵と呼んだ


酒癖の悪い伊右衛門を斬りつけた若侍は
捕らえられ牢屋に入れられた

そして洗い流しても洗い流しても
浮かびあがる伊右衛門の血痕のことを
聞かされた

怨念が若侍にとり憑いて病気になり
やがて自ら命を絶った



伊右衛門の血の痕がすうっと消え去った





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