咲は階段のようなところにみんなで座って、随分小さい声で談笑していた。客を待っているのだ。
客をとるのは 今日が初めてだ。少し前からここで奉公していたが、今日から客を取るように、女将さんにいわれていた。
姐さんや 女将さん達が 小声で助言のような励ましの言葉を小さく、短く言ってくれた。
ここが普通の宿屋とか旅館ではないことは うすうすと気付いてはいたし、
することがどんなことかは、分かっていたけど、それでも自分が何をするのかは薄ボンヤリだった。
客の言うとおりにしていればいいよ 姐さんが言ったのは良く聞こえた。
恐いことは無かったが、それは 無知がゆえの強さ、というものだ。
咲、 お客さん見えているよ。 呼ばれたから、腰を上げた。姐さん達が 肩や背中を なでるように軽く叩いてくれた。階段からつづいている、広い部屋へぼんやり歩いて、ふすまを開けた。静かにかるく開く上等の襖。
素敵な人だと ええがと 考えていた。
一段階薄暗い部屋で 客は寝ていた。熟睡しているようだった。顔を見てみると、実の姉さんの旦那さんとそっくりな顔をしていたので、慌てて飛び出した。姐さんは 早うもどりんしゃい。と促した。姐さんは おびえて逃げ出したのだと勘違いしている。
よく見ると まあ 似てはいるけど 別人だった。もっと若くて 格好も良かった。安堵した。
奥のその部屋は薄暗かったが、段々と周りが見えてきた。一段階 高くなった畳の上で客は寝ていた。おつかれでございますね。と声をかけた。
ゆっくりと起き上がって 私を座らせ 自分も座り、抱き寄せた。優しい力強さを感じる手だった。
部屋の奥の正面に 鋭い顔つきの男の人が座っていた。ずっとこちらを観ていた。 隅の方には姐さんも 何人か入ってきていて、こちらを観ていた。お客も 躊躇しているわけでもないようだし、私も気しならなかった。
お客を取るときは部屋の中で 二人きりのものかと思ったが、いろんな人が周りにいて 見られながらする物なのか そういう物なのか とか思いながら。
正座だったり、あぐらをかくような姿勢を繰り返し繰り返ししながら、終始 座った格好だった。堅い物が足の間に押し付いたまま。
お客に、さっきからあそこに座っている鋭い顔の人はあんたの彼氏かね?と尋ねた。お客は黙ったままだったが、そうだと言うことが分かった。同性同士は抱き合ったりしない物なのだろうと思った。何か、事情があって二人して、こげんとこへきんさったんだな、と思った。
足を 何度も何度も組み替えるやり方だったから、畳の擦れる音がずいぶん大きく響いてるように感じた。
姐さんがたの小声も 段々きこえんようになってきて、胸の谷間の奥の部分がふるえるようないたみと 何かが 突き抜けた 感じがした。
随分と疲れるものだ と思った。
暫くして、浴衣をはおり、鋭い顔の男の前へ行って ちょんと挨拶をした。彼は一瞥をしただけだった。
スイカを小さく切ったものを食べていた。くるぶしと 胸の先が擦れて痛かった。
隣の石のろうかでは、女給さんが大勢でわかめやノリを干していた。少し食べたいと思うのだが、私たちは真面目に少しの給料で働いているのを そんなお金の稼ぎ方をしている女に喰わせられるわけがないだろうと言うような 態度と 短い言葉を返されたので、自分が間違っているのだろうかとボンヤリ考えた。
今のお客はいい人だったけれど、次はいい人とは限らないよ、と姐さんが肩をなでた。