人気の足②②
大聖堂の西側の通りに、走ってくる芽実を見つける。彼女はぼくに気がつき手を振りあげる。ぼくも
応じる。光はぼくたち
のあいだに降り注いで
いる。濃厚な光が、輝く
無数の粒となって降り
注いでいるのが見える。
そるが見えるのはぼく
だけだろうか。それ
ともこの広場にいる
大勢の観光客たち
にもやはり同じように
見えているのだろうか。
芽実はぼくのうでに
彼女のうでをからませ
る。言葉はなしだ。
必要に迫られるまで
言葉を使わないと
いうルールを前の日
にぼくたちは決めた。
いつもの罪のない
遊びの一種である。
もちろん言い出しっぺ
はこのぼく。
応じる。光はぼくたち
のあいだに降り注いで
いる。濃厚な光が、輝く
無数の粒となって降り
注いでいるのが見える。
そるが見えるのはぼく
だけだろうか。それ
ともこの広場にいる
大勢の観光客たち
にもやはり同じように
見えているのだろうか。
芽実はぼくのうでに
彼女のうでをからませ
る。言葉はなしだ。
必要に迫られるまで
言葉を使わないと
いうルールを前の日
にぼくたちは決めた。
いつもの罪のない
遊びの一種である。
もちろん言い出しっぺ
はこのぼく。
人形の足②①
ぼくはこの街で、
自分を再生させる
ことができる
だろうか。
自分の中に
ルネッサンスを
興すことが
できるだろうか。
正午を知らせる寺鐘
が轟き、クーポラから
数羽の鳩が飛び立つ。
ぼくは瞬きをする。
瞬間目眩がして意識
が遠のくような感覚
の剥離(はくり)が
起きる。長いこと
頭上を見上げすぎた
せいで足元がふらつく。
記憶が光によって
攪拌(かくはん)され、
いくつもの光景の
フラッシュバックが
おきる。優しい風が
耳元をくすぐっていく。
そっと瞼を閉じてみる。
太陽の光を瞼に感じ
ながら、肩の力を抜き
顎を引く。このまま
瞼を開けたら、ぼくは
目眩(めまい)に
押し倒されてしまう
かもしれない。
高鳴る気持ちをおさえて
数を数えてみる。
1、2、3、4、
5、6……
それからゆっくり
瞼を開ける。
自分を再生させる
ことができる
だろうか。
自分の中に
ルネッサンスを
興すことが
できるだろうか。
正午を知らせる寺鐘
が轟き、クーポラから
数羽の鳩が飛び立つ。
ぼくは瞬きをする。
瞬間目眩がして意識
が遠のくような感覚
の剥離(はくり)が
起きる。長いこと
頭上を見上げすぎた
せいで足元がふらつく。
記憶が光によって
攪拌(かくはん)され、
いくつもの光景の
フラッシュバックが
おきる。優しい風が
耳元をくすぐっていく。
そっと瞼を閉じてみる。
太陽の光を瞼に感じ
ながら、肩の力を抜き
顎を引く。このまま
瞼を開けたら、ぼくは
目眩(めまい)に
押し倒されてしまう
かもしれない。
高鳴る気持ちをおさえて
数を数えてみる。
1、2、3、4、
5、6……
それからゆっくり
瞼を開ける。
人形の足⑳
自分が修復した作品が、
千年後にまた誰か別の
レスタウラトーレに
よって修復されるだろう
ことを想像しては、胸
がいつも熱くなるのを
感じる。千年後の人々へ
ぼくはバトンを渡す
役目を狙っているのだ。
ぼくの名前は後世には
残らないが、ぼくの意思
は確実に残ることに
なる。ぼくが生き返ら
せた名画の命が、また
後の人々の力によって
さらに遠くへと受け継
が れていくのを夢
みるのが、今のぼくの
生き甲斐でもある。
ぼくは、画家が生きた
遠い過去を現代に近づけ
そして未来に届ける
時間の配達人なのである。
イタリア語で
ルネッサンスのことを、
Rinascimento(リナシメント)
と言う。かつては
『再生』を意味する言葉
だったが、現在では
十五、六世紀にかけて
イタリアを中心に興った
一大文化活動のことを
指す。フィレンツェは
そのリナシメントの
発祥の地である。近代的
なビルをここで探すこと
は不可能に近い。
十六世紀以降、時間を
止めてしまった街。
まるで街全体が美術館と
いった感じ。冬は
暖房が効かず凍える
ように寒く、夏はその
逆で風が抜けずに暑い。
それを愛せなければ
ここで暮らすことは
できない。
千年後にまた誰か別の
レスタウラトーレに
よって修復されるだろう
ことを想像しては、胸
がいつも熱くなるのを
感じる。千年後の人々へ
ぼくはバトンを渡す
役目を狙っているのだ。
ぼくの名前は後世には
残らないが、ぼくの意思
は確実に残ることに
なる。ぼくが生き返ら
せた名画の命が、また
後の人々の力によって
さらに遠くへと受け継
が れていくのを夢
みるのが、今のぼくの
生き甲斐でもある。
ぼくは、画家が生きた
遠い過去を現代に近づけ
そして未来に届ける
時間の配達人なのである。
イタリア語で
ルネッサンスのことを、
Rinascimento(リナシメント)
と言う。かつては
『再生』を意味する言葉
だったが、現在では
十五、六世紀にかけて
イタリアを中心に興った
一大文化活動のことを
指す。フィレンツェは
そのリナシメントの
発祥の地である。近代的
なビルをここで探すこと
は不可能に近い。
十六世紀以降、時間を
止めてしまった街。
まるで街全体が美術館と
いった感じ。冬は
暖房が効かず凍える
ように寒く、夏はその
逆で風が抜けずに暑い。
それを愛せなければ
ここで暮らすことは
できない。
