今の横浜中華街のお土産屋さんは、その多くが新しくできたお洒落なお店で、扱っている品物も実にきらびやか。こじゃれた品揃えとなっています。
それはそれで大変魅力的なのですが、残念なことに昔からある伝統的な中華のお土産はすっかり影を潜め、今ではもうどこのお店に行っても見ることができません。
そもそもそうした品を扱っていた、古くから続いてきたお店は次々に店舗ごと消えてしまっているという寂しい状況なのであります。
多分、後継者もおらず、店自体も扱っているものも古くて今の世に受け入れてもらえず、潰れていったのでしょう。
これも時代の波というもの。
いた仕方のないことなのでしょうね。
もう横浜中華街ではわたくしが大好きな古き良き時代の中華雑貨を手に入れることはできないのかしら。
そう哀しく思っていたのですが、偶然通りかかった小道で一軒だけ、時間に取り残されたように生き残っていた古いお土産屋さんを発見しました♪
これですよ、これ♪
こういう店構えのお店をわたしは探していたのです。
店内に入ると思った通り、今の若い人たちにはまずもって手に取ってもらえそうにない古い雑貨が所狭しと置いてあり、それを眺める昔の若者であるわたしの目には歓喜の涙が・・・
いえ、それは大げさすぎますが、嬉しいことに健身球が一つ、他の雑貨とごっちゃになって置いてあるのを見つけたのですよ。
お世辞にも愛想がいいとはいえない店の親父さんに聞いたら、この健身球が最後の一個なんだそうで。
「売れないから。もう仕入れない」
「日本人は健身球、好きじゃないから」
ぶっきらぼうに語っておられましたが、健身球が大好きな日本人はちゃんといますよ、ここに。
確かに今風のお土産屋さんは当然、健身球なんてマイナーな代物は置いていません。
しかし、そうなるとこれはもしかして横浜中華街で【最後の健身球】という可能性があります。
そんな貴重な品をはたしてわたしが買ってもいいものかどうか。
もしわたしがここで手に入れてしまうと、ヘタするとこれをもって横浜中華街の長い健身球の歴史に自らの手で幕を引くことになってしまうのでは・・・
それはちょっと、いや、かなり気が引けます。
もし、わざわざ中華街に健身球を買いに来た人がいて、わたしのせいで買うことができないなんてことになったら、大変に申し訳が立ちませぬ。
まぁ、健身球の図柄もありふれたものだし、ここはお香でも買って帰ろうかしら。
・・・といったことを1秒ほどの間に考えまして、小さな沈香のお香を一つ購い、そっとお店を後にいたしました。

しかし、店を出た後もわたしの思考はずっと止まらず、先ほど見た健身球のことを考え続けていました。
これは以前、お付き合い頂いていたTVチャンピオン昆虫王のNさんから聞いたお話なのですが、ある地域で貴重な虫が絶滅するときって、必ずしも環境破壊だけが原因ではないのだそうです。
確かに開発が入って環境が壊れ、虫が住めなくなることが圧倒的な原因なんだろうけど、
「こういう状況になったことを知って、
『これが最後のチャンスだ、今のうちに採っておかなきゃ!』
そう考えた昆虫マニアがドッと集まって、最後のとどめを刺すこともままあるように思いますよ」
ニヒルな笑みを浮かべがら、このようにNさんが話しておられたことを今でも覚えております。
このとき、わたしの頭にあったのはこのNさんのお話でして、それでこの貴重な健身球をわたしの手で絶滅させてしまってよいものかどうかと思案した次第なのですよ。
しかし、この後に立ち寄った行きつけのお茶屋さんで7組待ちを食らい、この待ち時間をどう過ごすべきかと考えているうちに、急に気が変わりました。
この空いた時間で、もう一度、先ほどのお店に行って、あの健身球を買ってこようと。
ただ、本当に偶然通りかかっただけのお店だったので、いざ、もう一度訪れようと思ったら道が分からなくて。
結局、中華大通りに面している殆ど全ての細い路地を踏査して、ようやく目的のお店に辿り着くことができました。
「また、戻ってきたね」とお店の親父さんはどうやらわたしの顔を覚えていた様子。
「横浜中華街にはもう健身球を扱っているお店はここ以外にはないんじゃない?」
最期の一つとなった健身球を買う際にわたしが訊ねると、
「もしかすると中華大通りの「老維新」、たくさんパンダ売ってるお店、あそこにあるかもしれない」
うーん、あそこもチェックしてるけど、見当たらなかったのですけどね。
でも、そうおっしゃるのであれば念のためです。
再度、中華大通りに戻りまして、老維新の若い店員のお姉さんに聞いてみたのですが、彼女は健身球という言葉さえ知りませんでした。
ご親切にその場で在庫を調べてくれたのですが、やはり「ない」とのこと。
ということで、恐らくこの健身球が横浜中華街で最後の生き残りです。
世間的に貴重なのかどうかは分かりませんが、わたしにとってはこのような曰くがついたお品ですので、それなりに価値を見出しております♪
前置きが大変長くなりましたが、中身をどうぞ♪

よくある陰陽マークの七宝焼きの健身球です。
大きさは直径45mm程度。
重さは二つ合わせて185gと、この大きさにしては軽いです。
この軽さは材料費をケチって作ってある現代の作品ということを意味しています。
しかし、案外、回しにくくはないです。
少し軽いかなとは感じますが。

陰陽マークの七宝が小さめで、これもまた現代の作品の特徴かと。
昔の陰陽マークの健身球は、もっと大きな図柄が多かったので。
もちろん、褒めるべき点もあります♪
緑地の部分がとてもきれいで、現代の作でありますが、これはこれで鑑賞に堪える十分な美しさがあると思います。
そして、なんといっても「横浜中華街最後の健身球」という(わたし個人が勝手にそう思っているだけかもしれない)プレミアがあります。

今回、わたし自身の手で恐らく中華街最後となる健身球にとどめを刺してきたのですが、それはこのままあのお店に放置され、埃をかぶって古びていくだけの運命になることが忍びなかったからであります。
多分ねぇ、これを買いに来るような酔狂な人って、いないと思うんですよ。
冷静に考えると。いや、冷静に考えなくても。
あのまま誰からも気にも留められないで売れ残っていくよりは、日本では数少ない健身球のマニアであり、コレクターであるわたくしの手に落ちた方がよほど良いのではないかしら。
これは勝手なエゴではありますが、健身球もその方がきっと嬉しいと感じるはず・・・それとも迷惑だったかしら?
ということで、187ペア目となる健身球は横浜中華街で買ってきた最後の一個というお話でございました。