フラメンコバイレの練習生の方へ
私がフラメンコを始めたのは4年前。ギターはその半年後、だからまだまだ偉そうに語る立場ではないです。
それでも、ギターとバイレの両方をやっていま感じていることです。ひとつの意見として聞いてもらえれば幸いです。
また、諸先生・諸先輩の皆さまには、間違っていることや補足すべき点を、ぜひご教授ください。よろしくお願いいたします。
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フラメンコってリズムが速くて複雑です。しかも曲がかなり長い。だから踊りは大変です。振り付けを覚えるだけでも一苦労、伴奏の音に合わせるだけで精一杯になります。
それでも、この振りの「意味」もぜひ一緒に覚えてもらいたいと思うのです。
振りの意味とは、曲の意味を知り、曲の構成を理解すること。
曲の意味とは、何を歌ったのかというその内容。
そして曲の構成とは、曲の流れを指します。
この曲の構成って教室でちゃんと教えてもらっているんですが、実はそれを腹に落ちるまで理解していないのではと思う。
・・・何を隠そう、私もそうでした。
ジャズセッションではピアノ、ベース、ギター等がソロを順に回すのですが、フラメンコでも歌い手・踊り手・ギターが各々の出番を回すという側面があります。
イントロはギター、サリーダはカンテ、足慣らしは踊りのパート。その後の「歌振り」はカンテ、「ファルセータ」はギター、「エスコビ-ジャ」はバイレの出番。
ここで、次の出番の人へスムーズにバトンタッチするために、ジャズ等では目くばせや指で合図をします。
これがフラメンコでは、もちろん目くばせもありますが、足技を含む「踊り」で合図することになるのです。
代表的なのは「ここで足技は終わるから次に歌をお願いね!」という「ジャマーダ」。
このジャマーダの時に、振りを踊るだけでなく、「カンテさん、ここから歌をお願い!」という気持ちを持って欲しいのです。
以前、池川先生にジャマーダについて、拍が抜ける・細かくなる・早くなる等々「それまでと違うことがおこりそうだ」と感じさせることであって、ステップを3回踏むというような決まった型ではないと教わりました。
裏を返せば、ただ足を3回踏む(ブレリア)だけ不十分だという事です。
四日市のYちゃんのジャマーダは、ステップだけでなく、身体全身で「こっから歌!」と訴えてました。相手に伝えたいという「気持ち」が一番重要なんだと思う。
こういう意思の伝達は、ここから歌に入って欲しい(ジャマーダ)というだけではありません。
・ここからタパになって欲しい
・ここからスビーダだからタパをやめて曲弾きに
・ここで音を止めてほしい
・ここからリズムがブレリア取りに変わる
足技(エスコビージャ)の最中でもいろいろな変化があり、それにあわせて伴奏も変わる・・・その変化に先駆けて踊りが変わっているのです。
端的には「締め」とか「抜け」というものなんだと思う。
他の音楽の場合では、あらかじめ綿密に準備してかかります。楽譜はその典型でしょう。
だから、フラメンコでも事前に伴奏側が展開を全部覚えておけば問題ない。何度も合わせて覚えればいい。
でも、それでは歌謡曲のバックバンド、「定められた型どおりの音楽」です。
ところがフラメンコは「即興の音楽」、その場の閃きでつくっていくのが本来の姿と言われてます。
足に合わせてギターが変わり、それにあわせてまた足が変わる。双方向のコミュニケーションで創る音楽。
まさにジャズセッションと同じなんですね。
だからフラメンコにも楽譜はありません。
CDに対して「ここから歌に入って!」とは普通思いません。予め決められた音楽なんだから・・・それに合わせる感覚です。
そして踊りをやっている時、生演奏に対しても私はCDと同じ感覚で接していました。
でもそれじゃ違う。文字どおり、演奏陣と一緒に作っていく音楽。お互いに意思を伝えあう音楽。
踊り手の出す意思と、ギターの意思と、歌い手の意思とが通じ合う。
どんなものでも、気持ちが合った瞬間ってめちゃくちゃ楽しい。
だからこそ、この「ここから○○して欲しい」という気持ちを皆さんにも持ってもらえたらと思う。
でも実際にはとても難しい。往々にしてここが一番難易度が高い踊りになる。振りだけで精一杯になってしまう。
それでも、相手に伝えるという気持ちだけはもって欲しい。
極端な話、振りで無理でも、声に出して「(こっから)タパ!」と言うのでもいい。
池川先生のバイレ練習生へのメニューに「曲の構成をギターにどう説明するか?」というものがあります。
この課題、実は想像以上に重要で、大切なものが詰まっていると思う。
まず、曲の構成を理解していること(覚えていること)。
そして、それを相手(伴奏陣)に伝えるということ。
コミュニケーションの一歩目です。
伝えようとしなければ、伝わらない。
伝えようとすることがまずは重要。
もちろん、それを受け止める側のアンテナもとてもとても大切ですね。
そして、それにどう応えるか?
篠田さんのギターからはコンパスを感じない。
これは、その答えのひとつなのかもしれない。