ロイター [3/11 14:55]
[東京 11日 ロイター] 為替市場で、中国が2008年夏以降続けてきた「米ドルペッグ制」を近々取りやめ、人民元の実質的な切り上げを実施するとの予想が広がっている。中国がドルペッグ制を放棄すれば、国内景気の過熱抑制に効果的なうえ、ドル買い介入の必要がなくなり、ドル資産保有リスクを軽減するメリットもある。
実際に人民元が対ドルで切り上がれば、円高をもたらす可能性も指摘されている。
国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は9日、人民元について「依然非常に過小評価されている」との見方を示したうえで、国内成長重視から「数カ月以内に変化が起こる可能性がある」と予想した。
人民元安を背景に「世界の製造工場」としての地位を確立した中国が、元高を許容し、内需主導の経済にスムーズに移行できるのか、政権の安定性との関連でも注目される。
<二兎は追えない中国>
米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、中国が人民元と米ドルの実質的ペッグ制を維持する限り、米国の資産を買い続ける可能性が高い、との見方を示した。
中国は米ドルペッグによる交易上のメリットを最大限に享受してきたが、元安の恩恵とインフレなき持続的経済成長という「二兎を追う」ことは、大国でも困難だ。
「中国当局はこのところ不動産バブルの行き過ぎを警戒し、貸出の増加ペースにブレーキをかけているが、その一方で増加する外貨準備が、逆に金融緩和の役割を果たしている」と東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏は言う。
中国銀行業監督管理委員会(銀監会)の劉明康委員長は11日、中国の大手銀行に対し、与信拡大に伴うリスクを避けるため、今年は融資のペースを均衡させるよう求めた。しかし、融資規制が効果を上げるためには、別の蛇口を閉める必要がある。
「中国は依然として大きな経常黒字を出しているが、ドルペッグ制を採用していることから、為替水準を維持するため外貨買い/元売り介入を余儀なくされ、この元売りがマネーサプライの増加要因となってしまう。
一方では貸出抑制をしながら、介入によるマネーの供給を増やすという矛盾が生じている」と斎藤氏は指摘する。
この矛盾を回避し、バブルの抑制を図るためには、「自然体で元の上昇を放置し、為替介入を止めることだ」と同氏は言う。
中国人民銀行(中央銀行)が11日に発表した2月のM2マネーサプライは前年比+25.52%、M1マネーサプライは前年比+34.99%と高い伸び率を示している。
<クローリング・ペッグ制と円高>
中国政府系シンクタンクの社会科学院・世界経済政治研究所は、人民元を事実上米ドルにペッグする現行制度は持続不可能とした上で、通貨バスケットにペッグする方法や、再度大幅にレートを修正する方法を含めて検討中であるとした。
為替市場では、人民元の対ドル切り上げは、円高につながると見る向きが多い。
ただ、市場では、クローリング・ペッグ制の採用を含めて、あくまでも穏やかで段階的な人民元切り上げを予想する見方が大勢だ。
「ドラスティックな切り上げは国内外にとってメリットに乏しい。緩和的な金融政策を維持しつつ、景気をオーバーキルしない程度の人民元切り上げの可能性はあるとみている」と三菱UFJ証券・クレジット市場部・為替課長の塩入稔氏は語る。
「円相場への影響については明確な理論は存在しないが、金融機関の準備預金率引き上げの際に中国株安、リスク回避の円買いの流れとなったので、同じような一過性の反応があるかもしれない」と塩入氏は言う。
ただし、「(中国当局が)本腰を入れて景気過熱感を取り除くという姿勢がみられた場合には、為替相場への影響も一過性では終わらないだろう」と同氏は続けた。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月に発表した貨幣政策報告のなかで、資本フローの変化や主要通貨の変動に基づいて人民元為替相場メカニズムを改善する方針を示し、2008年半ばから続くドルペッグ制を変更する可能性を示唆した。
また、人民銀行は2005年7月の元切り上げ以降、同報告で、人民元相場については「妥当で均衡の取れた水準で基本的な安定を維持する」との考えを繰り返し表明してきたが、11月の報告からは同表現が消えた。
<全ての卵を1つのバスケットに入れない>
米ドルペッグ制からの離脱は、国内的メリットと共に、巨大な外貨準備が含有する為替リスクや信用リスクを軽減する側面もある。
中国が保有する米国債残高は、昨年12月末に8948億ドルと昨年6月以来始めて9000億ドルを下回り、注目された。
中国の米債保有圧縮について、在京証券の中国担当エコノミストは「全ての卵を1つのバスケットに入れない、という方針だろう。米国債はドルを刷ればいいので、デフォルトになる可能性は小さいが、インフレによってドル価値が下がるリスクはあるという認識を持っているようだ」と分析する。
「米国債を売却すると公言すれば価格を押し下げ、自らを窮地に追い込むことになるので、あくまでも静かに売り、発言は使い分けている」と同氏は言う。
中国国家外為管理局(SAFE)の易綱・局長は9日、中国が外貨準備を運用する上で、米国債市場は重要な市場だ、との認識を示した。 局長は中国による米国債保有が政治的な問題にならないことを望むと述べた。 金への投資については、金の長期的な投資利回りは高くはなく、中国は準備資産の一部として金を購入するのは慎重に行うとの考えを表明した。
他方、中国国務院発展研究センター金融研究所の夏斌・所長は、中国は長期にわたり金購入を継続する必要があり、金価格の下落は購入の好機だとの考えを示している。 金の他にも、中国は外貨の運用先として、戦略的石油備蓄、中南米債券や国際機関債への投資などを検討する一方、SDR(特別引出権)を使った準備通貨の理論的枠組みを示し、人民元建て債券(パンダ債)の発行も提言する。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年3月に自らのウェブサイトに公表した声明で、世界の準備通貨をドルからSDRに移行させるための理論的枠組みを提示し7月の主要8カ国(G8)と新興5カ国(G5)に、世界経済における準備通貨制度の改革を呼びかけた。
世界経済政治研究所の余永定所長は、「米国において景気対策として打ち出された金融緩和と財政拡大策は、インフレの高騰と対外収支の悪化を通じて、金利上昇とドル安、ひいては米国債の保有に伴うキャピタル・ロスを招きかねない」とし、このようなリスクを抑えるために人民元建て外債(パンダ債)市場を発展させることも一つの方法とした。
中国が対外債権をパンダ債で持つことで、米国債買い増しリスクを減らしながら、人民元の国際化を推進することができるという。
他方、世界第2位の米国債保有国で1兆ドル超の外貨準備を有する日本は、揺らぎ始めた米ドル基軸通貨体制の下、巨額のドル債権を持ち続けている。
「中国はしたたかにドルリスク軽減を目指しているが、日本はドルリスクを全て背負う格好になっている。外貨準備は、触れるとドル下落リスクが増幅するパンドラの箱のような認識が続いている」と第一生命経済研究所、主席エコノミスト・熊野英生氏は言う。
(ロイター 森佳子記者 編集 橋本浩)
[東京 11日 ロイター] 為替市場で、中国が2008年夏以降続けてきた「米ドルペッグ制」を近々取りやめ、人民元の実質的な切り上げを実施するとの予想が広がっている。中国がドルペッグ制を放棄すれば、国内景気の過熱抑制に効果的なうえ、ドル買い介入の必要がなくなり、ドル資産保有リスクを軽減するメリットもある。
実際に人民元が対ドルで切り上がれば、円高をもたらす可能性も指摘されている。
国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は9日、人民元について「依然非常に過小評価されている」との見方を示したうえで、国内成長重視から「数カ月以内に変化が起こる可能性がある」と予想した。
人民元安を背景に「世界の製造工場」としての地位を確立した中国が、元高を許容し、内需主導の経済にスムーズに移行できるのか、政権の安定性との関連でも注目される。
<二兎は追えない中国>
米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、中国が人民元と米ドルの実質的ペッグ制を維持する限り、米国の資産を買い続ける可能性が高い、との見方を示した。
中国は米ドルペッグによる交易上のメリットを最大限に享受してきたが、元安の恩恵とインフレなき持続的経済成長という「二兎を追う」ことは、大国でも困難だ。
「中国当局はこのところ不動産バブルの行き過ぎを警戒し、貸出の増加ペースにブレーキをかけているが、その一方で増加する外貨準備が、逆に金融緩和の役割を果たしている」と東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏は言う。
中国銀行業監督管理委員会(銀監会)の劉明康委員長は11日、中国の大手銀行に対し、与信拡大に伴うリスクを避けるため、今年は融資のペースを均衡させるよう求めた。しかし、融資規制が効果を上げるためには、別の蛇口を閉める必要がある。
「中国は依然として大きな経常黒字を出しているが、ドルペッグ制を採用していることから、為替水準を維持するため外貨買い/元売り介入を余儀なくされ、この元売りがマネーサプライの増加要因となってしまう。
一方では貸出抑制をしながら、介入によるマネーの供給を増やすという矛盾が生じている」と斎藤氏は指摘する。
この矛盾を回避し、バブルの抑制を図るためには、「自然体で元の上昇を放置し、為替介入を止めることだ」と同氏は言う。
中国人民銀行(中央銀行)が11日に発表した2月のM2マネーサプライは前年比+25.52%、M1マネーサプライは前年比+34.99%と高い伸び率を示している。
<クローリング・ペッグ制と円高>
中国政府系シンクタンクの社会科学院・世界経済政治研究所は、人民元を事実上米ドルにペッグする現行制度は持続不可能とした上で、通貨バスケットにペッグする方法や、再度大幅にレートを修正する方法を含めて検討中であるとした。
為替市場では、人民元の対ドル切り上げは、円高につながると見る向きが多い。
ただ、市場では、クローリング・ペッグ制の採用を含めて、あくまでも穏やかで段階的な人民元切り上げを予想する見方が大勢だ。
「ドラスティックな切り上げは国内外にとってメリットに乏しい。緩和的な金融政策を維持しつつ、景気をオーバーキルしない程度の人民元切り上げの可能性はあるとみている」と三菱UFJ証券・クレジット市場部・為替課長の塩入稔氏は語る。
「円相場への影響については明確な理論は存在しないが、金融機関の準備預金率引き上げの際に中国株安、リスク回避の円買いの流れとなったので、同じような一過性の反応があるかもしれない」と塩入氏は言う。
ただし、「(中国当局が)本腰を入れて景気過熱感を取り除くという姿勢がみられた場合には、為替相場への影響も一過性では終わらないだろう」と同氏は続けた。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月に発表した貨幣政策報告のなかで、資本フローの変化や主要通貨の変動に基づいて人民元為替相場メカニズムを改善する方針を示し、2008年半ばから続くドルペッグ制を変更する可能性を示唆した。
また、人民銀行は2005年7月の元切り上げ以降、同報告で、人民元相場については「妥当で均衡の取れた水準で基本的な安定を維持する」との考えを繰り返し表明してきたが、11月の報告からは同表現が消えた。
<全ての卵を1つのバスケットに入れない>
米ドルペッグ制からの離脱は、国内的メリットと共に、巨大な外貨準備が含有する為替リスクや信用リスクを軽減する側面もある。
中国が保有する米国債残高は、昨年12月末に8948億ドルと昨年6月以来始めて9000億ドルを下回り、注目された。
中国の米債保有圧縮について、在京証券の中国担当エコノミストは「全ての卵を1つのバスケットに入れない、という方針だろう。米国債はドルを刷ればいいので、デフォルトになる可能性は小さいが、インフレによってドル価値が下がるリスクはあるという認識を持っているようだ」と分析する。
「米国債を売却すると公言すれば価格を押し下げ、自らを窮地に追い込むことになるので、あくまでも静かに売り、発言は使い分けている」と同氏は言う。
中国国家外為管理局(SAFE)の易綱・局長は9日、中国が外貨準備を運用する上で、米国債市場は重要な市場だ、との認識を示した。 局長は中国による米国債保有が政治的な問題にならないことを望むと述べた。 金への投資については、金の長期的な投資利回りは高くはなく、中国は準備資産の一部として金を購入するのは慎重に行うとの考えを表明した。
他方、中国国務院発展研究センター金融研究所の夏斌・所長は、中国は長期にわたり金購入を継続する必要があり、金価格の下落は購入の好機だとの考えを示している。 金の他にも、中国は外貨の運用先として、戦略的石油備蓄、中南米債券や国際機関債への投資などを検討する一方、SDR(特別引出権)を使った準備通貨の理論的枠組みを示し、人民元建て債券(パンダ債)の発行も提言する。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年3月に自らのウェブサイトに公表した声明で、世界の準備通貨をドルからSDRに移行させるための理論的枠組みを提示し7月の主要8カ国(G8)と新興5カ国(G5)に、世界経済における準備通貨制度の改革を呼びかけた。
世界経済政治研究所の余永定所長は、「米国において景気対策として打ち出された金融緩和と財政拡大策は、インフレの高騰と対外収支の悪化を通じて、金利上昇とドル安、ひいては米国債の保有に伴うキャピタル・ロスを招きかねない」とし、このようなリスクを抑えるために人民元建て外債(パンダ債)市場を発展させることも一つの方法とした。
中国が対外債権をパンダ債で持つことで、米国債買い増しリスクを減らしながら、人民元の国際化を推進することができるという。
他方、世界第2位の米国債保有国で1兆ドル超の外貨準備を有する日本は、揺らぎ始めた米ドル基軸通貨体制の下、巨額のドル債権を持ち続けている。
「中国はしたたかにドルリスク軽減を目指しているが、日本はドルリスクを全て背負う格好になっている。外貨準備は、触れるとドル下落リスクが増幅するパンドラの箱のような認識が続いている」と第一生命経済研究所、主席エコノミスト・熊野英生氏は言う。
(ロイター 森佳子記者 編集 橋本浩)