カールヴィンソン打撃群が再び朝鮮半島へ その目的は | 因幡のブログ

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 米太平洋軍は今日、シンガポールを出港した空母カールヴィンソンを中心とする「カールヴィンソン打撃群」を、当初の目的地であるオーストラリアではなく、朝鮮半島周辺に向かわせたことを明らかにしました。その目的はなんなのでしょうか。

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(アメリカ海軍の原子力空母カールヴィンソン 画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3_(%E7%A9%BA%E6%AF%8D)# より)

空母打撃群とその編成
 まず、「空母打撃群」について簡単に説明します。空母打撃群とは空母を中心とした戦闘部隊で、空母の航空機運用能力・護衛艦や潜水艦の対空/対潜能力・補給艦による継戦能力を備える、如何なる局面にも対処可能なものです。また「◯◯打撃群」の◯◯には、中心となる原子力空母の名称が入ります。今回取り上げるのはカールヴィンソンを中心とした打撃群ですので「カールヴィンソン打撃群」と言うわけです。

 空母打撃群の編成は
・原子力空母×1
・護衛駆逐艦×2
・護衛巡洋艦×1
・原子力潜水艦×1
・補給艦×1
というのが基本的な態勢です。米海軍によると、今回のカールヴィンソン打撃群では空母カールヴィンソンに加え、ミサイル駆逐艦「ウェインEメイヤー」と「マイケル・マーフィー」・ミサイル巡洋艦「レイク・チャンプレイン」という編成になっています。ただしこれに加えて原子力潜水艦と補給艦も加わっているものと思われます。

目的は北朝鮮への対応
 基本的な事項についてみた上で、本題であるカールヴィンソン打撃群の目的について考えてみましょう。実はカールヴィンソン打撃群は、今年1月5日に母港のサンディエゴを出港後に一度朝鮮半島に展開し、米韓合同軍事演習「フォールイーグル」に参加しています。その後南シナ海に入り、シンガポールに入港した後に今回再び朝鮮半島に展開することになったわけです。

 なぜ再び朝鮮半島へ展開することになったのか、それには北朝鮮の活動が関係しています。北朝鮮は現在核実験の準備を進めていて、もうすでに準備が完了しているという観測もあります。また弾道ミサイルに関しても、先月に2回と今月に1回発射実験を行っています。こうした北朝鮮の活動活発化による周辺情勢の不安定化を防ぐために、カールヴィンソン打撃群は急遽予定を変更して朝鮮半島に向かったと思われます。実際に米太平洋軍のデイブ・ベンハム報道官は、今回のカールヴィンソン打撃群の行動について「西太平洋における即応性とプレゼンスを維持するため」と説明しています。

 また、これに加えて先日米国が実施したシリアへの攻撃とも関連しているのではないかと筆者は考えています。先日米国がシリア政府軍の空軍基地に対して実施した巡航ミサイルによる攻撃は、トランプ政権は「やると言ったらやる」性格であるということを内外に示しました。トランプ政権はかねてより北朝鮮に対して強硬な姿勢を見せていて、特に金正恩氏をはじめとする北朝鮮のトップを武力を使って取り除くという意味の「斬首戦」を実施する可能性を示唆しています。つまり今回のシリア攻撃は、北朝鮮にとっても無関係な事件ではなかったわけです。そんな状況下でカールヴィンソン打撃群を朝鮮半島に向かわせるのは、北朝鮮に対する米国の「本気度」を示すある種の恫喝策とも考えられるわけです。


第3艦隊指揮下で活動する
カールヴィンソン打撃群
 
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(アメリカ海軍各艦隊の担当地域 第3艦隊ど第7艦隊は日付変更線を基準にして担当地域が分けられている。画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC6%E8%89%A6%E9%9A%8A_(%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E8%BB%8D) より)

 実はカールヴィンソン打撃群についてはもう1つ面白いことがあります。それがいわゆる「サードフリートフォワードイニシアチブ(第3艦隊前方展開イニシアチブ)」です。米海軍には上にあげた図のように第2〜7までの艦隊が編成されていて、それぞれ担当地域が異なっています。通常艦隊の担当地域を艦艇がまたぐ場合、その艦艇はまたいだ先の艦隊の指揮下に入ることになります。例えば第3艦隊所属の艦艇が日付変更線を超えて第7艦隊の担当地域に入ると、その艦艇の指揮は第3艦隊から第7艦隊に移るといった具合です。

 しかし今回カールヴィンソン打撃群は、1月5日に母港のサンディエゴを出港して以来、第7艦隊の担当地域に入りながらもずっと第3艦隊指揮下のまま行動しているのです。この取り組みを米海軍は第3艦隊のままの前方展開という意味で「サードフリートフォワードイニシアチブ」と呼称しているわけです。実はこの取り組みはカールヴィンソン打撃群が最初ではなく、昨年駆逐艦3隻からなる「水上打撃群」と呼ばれる部隊が第3艦隊から第7艦隊担当地域に派遣された際に実施されたのが最初で、今回のカールヴィンソン打撃群が二例目となります。

 ではこの取り組みの目的はなんでしょうか。近年太平洋地域では様々な問題が噴出しています。東シナ海では北朝鮮による危険な挑発行為や中国の活動活発化、南シナ海では同じく中国による領土問題など、この地域は不安定さを増しています。そんな中で、例えばこの海域を担当する第7艦隊が東シナ海に注力している隙に、南シナ海で何か起きたらどうなるでしょうか。事実上の二正面作戦を強いられてしまうことになります。そこで、第3艦隊指揮下の部隊が第7艦隊に入ることにより、第7艦隊と第3艦隊による「任務分担」が可能になるわけです。そうすれば、東シナ海や南シナ海での問題に隙間なく対応することができます。これが、この取り組みの目的だと筆者は考えています。

 この「サードフリートフォワードイニシアチブ」はまだまだ始まったばかりで、現在は各種の試験の真っ最中ですが、今後さらなる取り組みが期待できそうです。

参考記事

・「Carl Vinson Strike Group departs Singapore for Western Pacifichttp://www.cpf.navy.mil/news.aspx/130123 (2017年4月9日 23時40分 最終閲覧)

・「Carrier Vinson and strike group ordered back to Korean watershttp://www.defensenews.com/articles/carrier-vinson-and-strike-group-ordered-back-to-korean-waters (同上)