【当事者でいるよりも傍観者でいなければならない。】
関口宏は、ずっとそう考えて生きてきた。
それは彼が日々の生活を楽しむコツであったし、彼が傷付かずに生きていくためのルールでもあった。
このルールは、誰かに課せられたものではない。彼自身が生まれてきてから今までに通り過ぎた短い日々によって得た経験則だ。
関口宏は、あらゆる点で人と異なっていた。
ある点では、彼は人より優れすぎていたし、ある点では劣りすぎていた。
また彼は太っていて、分厚い眼鏡をかけていた。
彼は自分が人と違っていることによって人に傷つけられることを恐れていた。
そしてまた、彼は自分が人とは違う「特別な存在」なのだという、膨らみがちな自尊心を持っていた。
その相反する感情が、彼の心の中心に絶対的なルールをもたらしたのだ。
【当事者でいるよりも傍観者でいなければならない。】
もちろん関口宏は、この自分の作り出した聖典を守り続けた。
彼は姿を消す術を覚えた。
彼は自分自身をも冷たい目で見つめられるようになった。
すると彼は、彼の周りに広がる世界が思いのほか悪くないことに気づく。彼は人知れず他人を観察することを楽しみ、人の目を気にすることなく自身の趣向を追及するようになった。
彼は周りから「オタク」といわれていることを知っている。
しかし、彼は自分が「オタク」を名乗れるほど何かに精通していないことを知っていたし、「オタク」という『立ち居地』あるいは『キャラクター』を後付け的に確立することによって、はりぼてのアイデンティティーを得ることに意味を感じなどしない。
彼はただの傍観者・関口宏であり、それ以上にもそれ以下にもなろうとはしない。なりたいとも思わない(思ってはいけない)のだ。
それでもときどき、必要以上に膨らもうとする自尊心を抑え続けるために、彼はこうして文章を書く。
一人称を使わない、まるでどこか外国の言葉を直訳したような奇妙な日記を書く。
こうすることで、彼は自分が関口宏であり、陰湿な性格で、ふくよかで、汗かきな、ただの全体的にジメジメした少年だということを痛感することができるのだ。
そしてそこから目を背けるように、彼は聖典を唱える。
【当事者でいるよりも観者でいなければならない。】
関口宏にとって関口宏の肉体とは、ただのカメラのようなものだった。
彼は肉体の得る情報のすべてを、名もなき傍観者として、(ちょうど人がテレビの映像を見るように)観ることができた。
そう、「できた」のだ。
あの日、あの時までは。
彼・・・いや、ボクの精神は現在、とても乱れた状態にあるのだ。
ボクはどんなときでも、クールで不気味な関口宏でいなければならないのに、ここ最近、ただ鈍重で不気味なだけの「ボク」でしかいられない時間が多すぎる。
あの日、あの時・・・クラスマッチ決勝の直後、霧島まりあとハイタッチしてからというもの、ボクは得体の知れない感情の波に揺られ続けているのだ。
傍観者としての確固たる地位を取り戻すため、ボクはこの荒波に立ち向かわねばならないだろう。
そう。ボクの知るあらゆるフィクションから得た知識によれば・・・
「恋」っていうのは、待ってるだけじゃ始まらないんだ!
次回・関口サイドストーリー2につづく
関口宏は、ずっとそう考えて生きてきた。
それは彼が日々の生活を楽しむコツであったし、彼が傷付かずに生きていくためのルールでもあった。
このルールは、誰かに課せられたものではない。彼自身が生まれてきてから今までに通り過ぎた短い日々によって得た経験則だ。
関口宏は、あらゆる点で人と異なっていた。
ある点では、彼は人より優れすぎていたし、ある点では劣りすぎていた。
また彼は太っていて、分厚い眼鏡をかけていた。
彼は自分が人と違っていることによって人に傷つけられることを恐れていた。
そしてまた、彼は自分が人とは違う「特別な存在」なのだという、膨らみがちな自尊心を持っていた。
その相反する感情が、彼の心の中心に絶対的なルールをもたらしたのだ。
【当事者でいるよりも傍観者でいなければならない。】
もちろん関口宏は、この自分の作り出した聖典を守り続けた。
彼は姿を消す術を覚えた。
彼は自分自身をも冷たい目で見つめられるようになった。
すると彼は、彼の周りに広がる世界が思いのほか悪くないことに気づく。彼は人知れず他人を観察することを楽しみ、人の目を気にすることなく自身の趣向を追及するようになった。
彼は周りから「オタク」といわれていることを知っている。
しかし、彼は自分が「オタク」を名乗れるほど何かに精通していないことを知っていたし、「オタク」という『立ち居地』あるいは『キャラクター』を後付け的に確立することによって、はりぼてのアイデンティティーを得ることに意味を感じなどしない。
彼はただの傍観者・関口宏であり、それ以上にもそれ以下にもなろうとはしない。なりたいとも思わない(思ってはいけない)のだ。
それでもときどき、必要以上に膨らもうとする自尊心を抑え続けるために、彼はこうして文章を書く。
一人称を使わない、まるでどこか外国の言葉を直訳したような奇妙な日記を書く。
こうすることで、彼は自分が関口宏であり、陰湿な性格で、ふくよかで、汗かきな、ただの全体的にジメジメした少年だということを痛感することができるのだ。
そしてそこから目を背けるように、彼は聖典を唱える。
【当事者でいるよりも観者でいなければならない。】
関口宏にとって関口宏の肉体とは、ただのカメラのようなものだった。
彼は肉体の得る情報のすべてを、名もなき傍観者として、(ちょうど人がテレビの映像を見るように)観ることができた。
そう、「できた」のだ。
あの日、あの時までは。
彼・・・いや、ボクの精神は現在、とても乱れた状態にあるのだ。
ボクはどんなときでも、クールで不気味な関口宏でいなければならないのに、ここ最近、ただ鈍重で不気味なだけの「ボク」でしかいられない時間が多すぎる。
あの日、あの時・・・クラスマッチ決勝の直後、霧島まりあとハイタッチしてからというもの、ボクは得体の知れない感情の波に揺られ続けているのだ。
傍観者としての確固たる地位を取り戻すため、ボクはこの荒波に立ち向かわねばならないだろう。
そう。ボクの知るあらゆるフィクションから得た知識によれば・・・
「恋」っていうのは、待ってるだけじゃ始まらないんだ!
次回・関口サイドストーリー2につづく